サウンドトラック/コンピレーション

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 キューブリックがアレックス・ノースに依頼していた『2001年宇宙の旅』のサントラを、大急ぎで録音までしていたのに全てボツにしたのは有名な話ですが、そのボツにした音源がYouTubeにありましたのでご紹介。

 このスコア自体は『2001年〜デストロイド・ヴァージョン〜オリジナル・スコア』としてジェリー・ゴールドスミス指揮により再録音され、CD化されている(詳細はこちら)のですが、上記の音源は1968年1月15・16日にヘンリー・ブラント指揮で演奏されたもの。つまりノースが体調不良で病院からストレッチャーで現場に運ばれてまで録音したものになります。

 そんな苦労話を知っているとついノースに同情したくなってしまうのですが、『Bones』を聴くとどうしても『ツァラ…』が頭をよぎってしまいます。キューブリックは既存曲の仮サントラをノースに聴かせていたのだからそれは仕方ないことかも知れないですが、やはり旧来のハリウッド映画のサントラの域は超えておらず、キューブリックがボツにしたのも納得せざるを得ません。もちろんノースは音楽を映画の主役とは考えておらず、そのシークエンスを効果的に盛り上げるものだと思っていたはず。対するキューブリックは「(映像と)音楽は主役」ですから、このコラボは最初から上手くいくはずがなかったのかも知れません。

 上記動画は6曲までしか聴けませんが、Spotifyでは全曲聴けます(リンクはこちら)。どう贔屓目に見ても『ツァラ…』『ドナウ』そしてリゲティのインパクトには及びませんが、ノースの苦労はしのばれます。こうしてオリジナル音源が聴けるようになって、より一層その思いを強くしますね。
【ご注意】当ブログの記事は報告不要でご自由にご活用頂けますが、引用元の明記、もしくは該当記事へのリンク(URL表記でも可)を貼ることを条件にさせていただいております。それが不可の場合はメールや掲示板にてご一報ください。なお、アクセス稼ぎだけが目的のキュレーションサイトやまとめサイトの作成、デマや陰謀論をSNSで拡散する等を意図する方の当ブログの閲覧、ならびに利用は禁止させていただきます。※当ブログはネタバレありです。





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A面

1 交響詩《ツァラトゥストラはかく語り》作品30(R.シュトラウス)(1:37)
  カール・ベーム指揮:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
  Also Sprach Zarathustra (Thus Spoke Zarathustra)(Richard Strauss)
  Karl Bohm & Berlin Philharmonic Orchestra

2 バレエ組曲《コッペリア》(ドリーブ)(2:27)
  ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
  Coppelia(Leo Delibes)
  Herbert von Karajan & Berlin Philharmonic Orchestra

3 ロンターノ(リゲティ)(6:32)
  エルネスト・ブール指揮:南西ドイツ放送管弦楽団
  Lontano
  Ernest Bour & Sudwestfunk Orchestra

4 小型宇宙船の脱出 (ウェーベルン)(2:17)
  クリトゥス・ゴットヴァルド指揮:シュトゥットガルト・スコラ・カントゥルム
  Entflieht Auf Leichten Kahnen(Anton Webern)
  Clytus Gottwald & Stuttgart Schola Cantorum

5 《バラの騎士》からワルツ(R.シュトラウス) (7:40)
  カール・ベーム指揮:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
  Waltzes From Der Rosenkavalier(Richard Strauss)
  Karl Bohm & Berlin Philharmonic Orchestra

B面

1 交響詩《ツァラトゥストラはかく語り》作品30(パート2)(R.シュトラウス)(2:40)
  カール・ベーム指揮:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
  Also Sprach Zarathustra (Part 2)(Richard Strauss)
  Karl Bohm & Berlin Philharmonic Orchestra

2 ヴォルーミナ(リゲティ)(3:30)
  カール=エリック・ヴェリン
  Volumina
  Karl Erik Welin

3 バレエ音楽《ガイーヌ》から子守歌(ハチャトゥリアン)(4:19)
  ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮:レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
  Berceuse
  Gennadi Rozhdestvensky & Leningrad Philharmonic Orchestra

4 レクイエム (リゲティ)(5:20)
  ミヒャエル・ギーレン指揮:ヘッセン放送交響楽団
  Requiem
  Michael Gielen & Hessian Symphony Orchestra

5 歌劇《ファウスト》からワルツ(グノー) (4:19)
  フェレンツ・フリッチャイ指揮:ベルリン放送交響楽団
  Margarethe
  Radio Symphony Orchestra Berlin



 『2001年宇宙の旅』は人気作であるためか、他のキューブリック作品と比べても段違いに多くの関連商品がリリースされています。それはサントラも同じで、中には「便乗」ともとれるものまであります。今回はその中でもオフィシャル(MGM)リリースなのになんとも中途半端な『2001年宇宙の旅・第2集』(2001:A SPACE ODESSEY VOLUME TWO)について、調べた限りの解説をしたいと思います。

 1968年、MGMは『2001年宇宙の旅』オリジナルサントラ盤(ジャケットはロバート・マッコールのアートワーク)をリリースします。これは収録された『ツァラトゥストラはかく語り』が映画で使用されたカラヤン指揮ではなく、デッカ側のNGによって差し替えられたカール・ベーム指揮版が収録されたことを除けば、まさに「公式」の名にふさわしいサントラ盤でした。このサントラの売れ行きに気を良くしたのか、MGMは第2弾である『2001:A SPACE ODESSEY VOLUME TWO』を同年1968年にリリース(MGMの商魂が伺える)。ジャケットにスターチャイルドを使用したこのサントラは、実際にはサントラではなく「映画に使用された作曲家の他の曲を集めたコンピレーション」でした。

 この『VOLUME TWO』も好評を博し、世界中でリリースされました。しかし、日本では1977年になってやっと『2001年宇宙の旅・第2集』としてアナログLP盤としてリリースされました。それはMGMの名前を冠してはいましたが、ジャケットはスターチャイルドではなく、なぜか虹色帯に宇宙ステーションのデザインに変更されていました。その理由は不明です。

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ジャケットデザインが微妙すぎる日本盤。
 
 1986年になると今度はアメリカで消滅したMGMに変わって、MCAがこの『VOLUME TWO』をアナログLPとして、後にCDとしてリリースしました。ところがこれは「VOLUME TWOと銘打ち、同じジャケ写(スターチャイルド)なのに、収録曲はオリジナルMGM盤と同じ」という、意味不明な、混乱を極めたものでした。MGMが倒産した結果生じた混乱が生じさせた結果だとは思いますが、なんともお粗末な話です。そして現在に至るまで結局現在に至るまで、この「VOLUME TWO」はCD化されていません。

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『VOLUME TWO』と書かれていながら収録曲はオリジナルのMGM盤と同じのMCA盤。

 以上が『2001年宇宙の旅・第2集(2001:A SPACE ODESSEY VOLUME TWO)』というサントラ(正しくはコンピレーション)についてのまとめです。『2001年…』と銘打ってはいますが、しょせんは「公開当時『2001年…』のサントラの売れ行きに気を良くしたMGMが第二弾としてリリースした、映画に使用された作曲家の他の曲を集めた便乗コンピレーション・アルバム」でしかありません。いくらジャケットがスターチャイルドだからといって、その理由だけコレクションする必要性はないでしょう。ただ、「マッコールのオリジナルサントラと並べて飾りたい」というのなら、それはそれで意味があると思います。レアアイテムでもないですし、ジャケットの状態がよくて手頃な値段なら手を出してもいいかも知れません。

 『2001年…』のサントラが欲しいと考えるなら、まず決定版であるターナー盤のCDを購入すべきかと思います。そして公開当時の空気を感じ取りたいのなら、オリジナルのMGM盤も購入の対象になるでしょう。音質にこだわるなら、高音質・2枚組でリリースされたMONDO盤も良いチョイスかと思います。ただ、オリジナルのMGM盤によく似た「ポリドール盤」「CBS盤」というのも存在します。こちらは収録曲数や構成、一部音源が異なるなどしていますので注意してください。そしてこれらを収集し、それ以上の購入を検討するのなら、この『VOLUME TWO』がその対象に入ってくるでしょう。ただ、この『VOLUME TWO』はアナログLPでしかリリースされていませんので、前述した通り「ジャケットを飾る」「所有欲を満たす」という目的がなければスルーしても構わないと思います。

▼この記事の執筆に当たり、以下の記事を参考にいたしました。
Discogs/Various – 2001: A Space Odyssey - Volume Two
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スタンリー・キューブリックの音楽〜「デイジー」「また会いましょう」から「雨に唄えば」まで(amazon)


●ディスク 1

『突撃』 (1957)

1 ラ・マルセイエーズ/デトロイト交響楽団
2 芸術家の生活/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

『ロリータ』 (1962) ネルソン・リドル - ボブ・ハリス

3 メイン・テーマ
4 キルティのテーマ
5 避暑地
6 ロリータ・ヤー・ヤー
7 ロリータ、愛のテーマ
8 殺人計画
9 秘密の日記
10 逃避行
11 ロリータの想い
12 スクール・ダンス
13 母とハンバートの夕食
14 エンド・テーマ
15 ポロネーズ第3番 イ長調 「軍隊」/アルトゥール・ルービンシュタイン
16 ラーニン・ザ・ブルース/オスカー・ピーターソン・トリオ
17 ロリータ・ヤー・ヤー/スー・リオン
18 お月さま、あっちを向いて/スー・リオン

『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(1964)

19 トライ・ア・リトル・テンダネス/トゥーツ・シールマンス
20 グリーンスリーヴス/ジョン・コルトレーン・カルテット
21 また会いましょう/ヴェラ・リン

●ディスク 2

『2001年宇宙の旅』 (1968)

1 ツァラトゥストラはかく語りき/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
2 美しく青きドナウ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
3 ガイーヌのアダージョ/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
4 オフ・ビート・ムーズ/シドニー・トーチ
5 デイジー・ベル/ジェラルド・アダムズ・アンド・ザ・ヴァラエティ・シンガーズ
6 組曲「夏の夜の夢」よりスケルツォ/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
7 「南極交響曲」より前奏曲 アンダンテ・マエストーゾ/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

『スパルタカス』 (1960) アレックス・ノース

8 スパルタカスのテーマ
9 スパルタカス、愛のテーマ
10 剣闘士達は死ぬまで斗う
11 ブルー・シャドウズ・アンド・パープル・ヒルズ
12 故郷へ: 海へ〜池のほとりで
13 希望への準備〜ベスビアス・キャンプ
14 戦いへの序曲: 静かなる間奏曲〜最後の争い
15 ベスビアスへ: 進め! 剣闘士よ〜森での会合
16 牡蠣と蝸牛〜祭礼
17 自由の身へ
18 生命も恋も捨てて〜エンド・テーマ

●ディスク 3

『時計じかけのオレンジ』 (1972)

1 メアリー女王の葬送音楽/ジェレイント・ジョーンズ管弦楽団
2 泥棒かささぎ/シカゴ交響楽団
3 交響曲第9番ニ短調 第2楽章/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
4 ウィリアム・テル序曲/シカゴ交響楽団
5 交響曲第9番ニ短調 第4楽章/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
6 「シェヘラザード」より海とシンドバッドの船/シカゴ交響楽団
7 「威風堂々」より第1番/フィルハーモニア管弦楽団
8 「威風堂々」より 第4番/フィルハーモニア管弦楽団
9 雨に唄えば/ジーン・ケリー

ボーナストラック: セルゲイ・エイゼンシュテイン監督『アレクサンドル・ネフスキー』(1938)

10 「アレクサンドル・ネフスキー」より氷上の戦い / シカゴ交響楽団

●ディスク 4

『バリー・リンドン』(1975)

1 「組曲第11番ニ短調HWV.437〔第2集第4番〕」よりサラバンド/アンドレス・セゴビア
2 「イドメネオ」より行進曲 / グラインドボーン・フェスティヴァル・オーケストラ
3 「セヴィリアの理髪師」よりもし私の名を知りたければ/ニコラ・モンティ
4 「ピアノ三奏曲ホ短調作品100」より第二楽章/ルドルフ・ゼルキン
5 即興曲集 第1番ハ短調, D899 ,Op.90/アルトゥル・シュナーベル
6 「チェロ協奏曲ホ短調」より第3楽章/ピエール・フルニエ
7 「2台のチェンバロのための協奏曲第1番ハ短調BWV.1060」より第2楽章/ミュンヘン・バッハ管弦楽団

『シャイニング』 (1980)

8 弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽 第3楽章/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
9 マスカレード (ワルツ)/ジャック・ヒルトン&ヒズ・オーケストラ
10 真夜中に星々と君と/アル・ボウリー
11 もうすべて忘れて/アル・ボウリー
12 ホーム/ヘンリー・ホール・アンド・ザ・グレンイーグルス・ホテル・バンド
13 「幻想交響曲」より魔女の夜宴の夢/デトロイト交響楽団
14 悲しきワルツ/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

『アイズ ワイド シャット』(1999)

15 恋に落ちた時/ヴィクター・シルヴェスター・ボールルーム・オーケストラ
16 瞳は君ゆえに/ヴィクター・シルヴェスター・ボールルーム・オーケストラ
17 アイ・ガット・イット・バット/オスカー・ピーターソン・トリオ
18 「レクイエム」より恐るべき御稜威の王/ニューヨーク・フィルハーモニック
19 暗い雲/ヴラディーミル・ソフロニツキー
20 「ヴェーゼンドンク歌曲集」より温室にて/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団



 キューブリック作品で使用された既存曲、もしくは使用を検討した既存曲を中心に、オフィシャルサントラLPのアナログ盤起こしを収録、CD4枚組というボリュームで発売された本作ですが、音質・パッケージ共に「海賊盤(近年はオブラートにくるんだプライベート盤とも呼ばれている)」レベルであることは知っておかなければなりません。収録音源からジャケットの印刷に至るまで、正規の権利保有者に許可なく制作・販売された代物である臭いがプンプンします。しかもキューブリックが自作用に書かせたオリジナル曲(『フルメタル…』のアビゲイル・ミードの曲」、『アイズ…』のジョセリン・プークの曲など)は著作権的に問題になるので巧みに避ける徹底ぶり。ですので、購入する気は全くなかったのですが、輸入盤が非常に安価に入手できましたので、一聴した限りですが解説をしたいと思います。

●ディスク1

 『突撃』の『ラ・マルセイエーズ』はキューブリックの旧友ジェラルド・フリードが編曲したバージョンが使用されているのでこの曲ではありません。『芸術家の生活』は映画使用音源と同じに聴こえます。『ロリータ』は当時リリースされたオフィシャルサントラのアナログLPから無断でデジタル化したいわゆる「アナログ盤起こし」なので音質は最悪です。スー・リオンが人気に便乗してリリースしたシングル盤『お月さま、あっちを向いて』もおそらく同じくアナログ盤起こしでしょう。『博士の異常な愛情』の『トライ・ア・リトル・テンダネス』は別音源(映画使用曲はそれ用の新録音)、『グリーンスリーヴス』はマンドレイクが見つけたラジオから流れる曲ですが別音源、『また会いましょう』はヴェラ・リン歌唱のバージョン(ただし編集は異なる)です。

●ディスク2

 『2001年宇宙の旅』の『ツアラ』『ドナウ』『アダージョ』は公式サントラに収録されているので意味なし。『オフ・ビート・ムーズ』はBBCニュースのオープニングに使用された曲ですが、映画での使用音源に聴こえます。様々な録音が数多く存在する『デイジー・ベル』を収録する意味あるのか?『夏の夜の夢』『南極交響曲』はキューブリックがラッシュ(粗編集)時に付けていた曲として知られていますのでここに収録されただけでしょう。『スパルタカス』も『ロリータ』と同じくアナログLP盤起こしですね。

●ディスク3

 『時計じかけのオレンジ』は『メアリー女王』はクラシックのバージョン、『かささぎ』『第9』の2曲『威風堂々』の2曲は公式サントラに収録されているので意味なし(抜粋ではなく全曲収録に意味があると言いたいのかもしれませんが)。『海とシンドバッドの船』は収録意図不明、『雨に唄えば』は映画で使用されたジーン・ケリーの歌唱バージョンですが、無許可収録なら問題です。ネフスキーの『氷上の戦い』が収録されたのはこのエピソードがあったからですが、穴埋め曲以上の意味は見出せません。

●ディスク4

 『バリー・リンドン』の『組曲第11番ニ短調』は別音源、『イドメネオ』『セヴィリアの理髪師』『ピアノ三奏曲ホ短調』『チェロ協奏曲ホ短調』『2台のチェンバロのための協奏曲』は公式サントラ収録曲、『即興曲集 第1番ハ短調』のみ公式未収録。『シャイニング』は『弦楽器と打楽器とチェレスタ』『マスカレード』『もうすべて忘れて』『ホーム』は公式サントラLP収録曲、『真夜中に星々と君と』はまあYouTubeでも聴けます。『幻想交響曲』はメインタイトルの原曲(映画使用曲はウエンディ・カルロスによりアレンジされた)。『悲しきワルツ』は収録意図不明。『アイズ ワイド シャット』は『恋に落ちた時』『アイ・ガット・イット・バット』『暗い雲』は公式サントラ収録曲、『瞳は君ゆえに』のピアノ曲は最初のパーティーでナイチンゲールが弾いていた曲。『恐るべき御稜威の王』は収録意図不明。『温室にて』は制作期間中使用が検討された曲ということですが、特に必要ないでしょう。

 以上のことからこのアルバムは「映画で使用された既存曲と、正規サントラLPの無許可アナログ盤起こし(『ロリータ』『スパルタカス』)、映画で使用されたものとは異なる他音源を集めたコンピレーション、その他関連音源」で構成されていることがわかります。しかも音源はアナログ盤か、最悪YouTubeに落ちている音源を使っている可能性もあります。どちらにしても正式なマスター音源の曲は一曲もないでしょう(そもそも権利者が海賊盤にマスター音源を提供するわけがない)。無許可で使用されたとおぼしきキューブリック作品のビジュアルをジャケットに使い、いかにも「オフィシャルサントラ」を装うという悪どさ。もうこれは「金儲けだけが目的の海賊盤」であることは明白です。なぜなら、意味があるとかろうじて思われる、公式サントラに収録されていない既存曲を集めただけならCD1枚に収まるはずだからです。商売上、CD4枚組というボリュームが欲しいばかりに価値のない音源(特に『ロリータ』『スパルタカス』の無断複製は許しがたい)を加えるなど言語道断です。

 私も一時期は西新宿に通い、好きなアーティストの正式音源化されていない貴重な音源(ライブ音源とかテイク違い)を収録した海賊盤、いわゆるブートレッグを買い漁った時期がありますので、海賊盤を買う行為について云々言うことはできません。ですが、海賊盤を海賊盤と知って買うのか、公式と間違うようにミスリードさせた海賊盤を買わさせるのかでは大きく意味が違います。このCDは「サントラ」と銘打ちながら実際は「出所の怪しい音源を集めたコンピレーション」です。粗悪なまがい物と言ってもいいでしょう。ちなみに海賊盤は正式な権利者に売り上げ金が渡らないどころか、マフィアの資金源になっているという噂もある、ということは知っておいてください(このCDのレーベル、CHERRY RED RECORDSがそうだと言っているいるわけではありません)。

 『恐怖と欲望』『ロリータ』『スパルタカス』『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』『バリー・リンドン』『シャイニング』(アナログLPのみ)『フルメタル・ジャケット』『アイズ ワイド シャット』に関してはオフィシャルのサントラがリリースされていますので、そちらをお買い求めください。また、『ロリータ』『スパルタカス』に関してはこのCDに収録されたものと同じ音源の「無許可でアナログ盤起こしされた海賊盤サントラ」が流通していますので、知らずにつかまされないようにご注意ください。

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上がアナログ盤起こしの海賊盤、下がマスター音源のオフィシャル盤

 DTMやデジタル録音をされている方はよくご存知かと思いますが、LPやシングル盤などのアナログ音源をPCに取り込み、ノイズを除去してからCD化するなどいとも簡単にできてしまいます。また、映像作品のBD化、4K化に伴って印刷解像度に近い解像度で映像作品のワンシーンを取り出し、それをジャケ写に使うということも簡単にできます(「簡単にできる」とは個人所有のPCのスペックで制作可能という意味)。つまり、オフィシャルに近いクオリティで海賊盤が安価に安易に制作できてしまうのです(遠い昔は海賊盤と言えば粗悪な作りが多かったのでオフィシャルと見分けるのは簡単だった)。ですので、こういった商品をご購入の際はよく「オフィシャルか海賊盤か」を確認の上、もし海賊盤を欲しいと思っても「海賊盤のリスクを承知の上で」のご購入の検討をおすすめいたします。

 余談ですがこのCD(これに限らず海賊盤全体に言えることですが)、雑誌やチラシ、商品の紹介記事、ネット上の紹介記事や動画でオフィシャルと勘違いされそうな紹介の仕方をされている場合があります。それが意図的なのかそうでないのかを知ることはできませんが、もし「意図的」であるのならばそれは詐欺まがいの行為であり、非常に憂慮すべき事態だと私は思います。
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fear-and-desireOST販売元のカルデラレコードのページはこちら

 『恐怖と欲望』のオリジナルサウンドトラックがリリースされました。追加収録で『拳闘試合の日』と、キューブリックが『2001年宇宙の旅』の参考にと観た『To the Moon and Beyond』サントラも。作曲は全てキューブリックの旧友ジェラルド・フリードで、試聴音源を聞く限りオリジナル音源だと思います。以前『Dr. Strangelove: Music From The Films Of Stanley Kubrick』というコンピレーションアルバムがリリースされましたが、それには『A Meditation on War (Fear & Desire)』『Madness (Fear & Desire)』『March of the Gloved Gladiators (Day of the Fight)』3曲が新録音で収録されていました。しかし、このアルバムはあくまでコンピレーションであって、そのほとんどがオリジナル音源でないことは大きな不満になっていました。それに対してこのアルバムはオリジナル音源ですのでそれなりに価値があるということになります。ですが、当時マスターはテープではなくレコードだったんですね。ノイズが入り音質も悪く、モノラル収録です。

 音源が現存するのなら、作曲者のフリードが所有していた以外考えられません。なぜフリードがこのタイミングでリリースするに至ったかは想像するしかないのですが、年齢を考えればやはり「自分が生きているうちに・・・」と考えたのかも知れません。フリードは『非情の罠』『現金に身体を張れ』『突撃』でもサントラを担当しています。もしフリードがこれらの音源を所有していれば今後リリースする可能性があります。期待したいですね。

 収録曲は以下の通り。日本ではARK SQUAREから発売中です。

Fear and Desire

1. Opening Credits (1:37)
2. Heading for the River (1:36)
3. All Clear (0:15)
4. Approaching the Cabin (1:12)
5. Madness (3:04)
6. “Girls Always Love Stories” (1:04)
7. Sidney and the Girl (2:48)
8. The House Down the River (0:13)
9. Mac’s Departure (3:43)
10. Waiting to Kill (5:04)
11. Drifting Through the Night (0:51)
12. End Credits (0:50)

Day of the Fight

13. March of the Gloved Gladiators (2:48)
14. Examination and Preparation (3:53)
15. Waiting for the Big Fight (2:52)
16. Victory (0:39)

To the Moon and Beyond

17.-27. To the Moon and Beyond (9:13)
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ACO_RECORD1
『時計じかけのオレンジ』のレコードショップのシーン。『2001年宇宙の旅』のオムニバス盤(ポリドール)が見える。

ACO_RECORD2
『2001年…』のオフィシャルサントラ盤(MGM)はこちらに登場。

2001_con

Theme Music For The Film 2001: A Space Odyssey And Other Great Movie Themes

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団/カール・ベーム
『2001年宇宙の旅』 (ツァラトゥストラはかく語りき)1:38

ヴィルヘルム・ケンプ
『ローズマリーの赤ちゃん』(エリーゼのために)3:07

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団/ロリン・マゼール
『間奏曲』(交響曲第5番 第4楽章)9:14

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団/フェレンツ・フリッチャイ
『2001年宇宙の旅』(美しく青きドナウ)9:35

アンダ・ゲーザ/カメラータ・ザルツブルク
『みじかくも美しく燃え』(ピアノ協奏曲第21番 第2楽章)7:09

マルグリット・ウェーバー、ベルリン放送交響楽団/フェレンツ・フリッチャイ
『三つの恋の物語』 (パガニーニの主題による狂詩曲 第18変奏)2:45

ルツェルン音楽祭弦楽合奏団/フランク・R・バウムガルトナー
『みじかくも美しく燃え』(四季 夏)9:35

サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団/ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー
『ワンツースリー ラブ・ハント作戦』(ガイーヌ 剣の舞)2:14



 『時計じかけのオレンジ』のレコードショップのシーンに登場する『2001年宇宙の旅』のレコード。よく「サントラ」と言われますが、正確には上記によると映画に使われたクラシック曲を集めた「オムニバス」であるようです。採用されている作品は『ローズマリーの赤ちゃん』以外は知らないな・・・という感じですが、宇宙ジャケットに反して恋愛ものからコメディまで脈絡はないですね。

 発売は1970年ですので、撮影当時最新のアルバムだったんでしょう。『2001年…』の2曲は映画で使用されたカラヤンのバージョンではありませんし、マニア的見地からも収集する意義は感じられませんが、人に見せて「時計じかけのレコード店にあったやつ!」程度に自慢できるくらいのことはできそうです。幾度も再発されたせいか米amazonやebayではたくさん取り扱いがあるようなので、レアアイテムではないですね。日本で入手できるかどうかわかりませんが、中古レコードショップで二束三文で投げ売りされているならシャレで買ってもいいかも?です。

 このレコードショップは実在し(詳細はこちら)、キューブリックはそこでロケしたのですが、おそらくこの『2001年…』のレコードを目立つ位置に置き直させたと思います。このシーンにはオフィシャルのサントラ盤も登場していますが、それを正面に持ってくるのは、さすがにキューブリックでも気が引けたんでしょうね。
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