非情の罠

    このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック


 ジュールズ・ダッシン監督、バリー・フィッツジェラルド、ハワード・ダフ、ドロシー・ハート、ドン・テイラーらが出演した1948年公開の映画『裸の街(The Naked City)』。この映画は事件現場の血なまぐさいスクープ写真を発表していたウィージー(本名アッシャー・フェリグ)の写真集『裸の街』にインスパイアされたもので、ウィージーはビジュアルコンサルタントとして製作にも協力しています。そのウィージーのファンだった、当時ルック社の若きカメラマンのキューブリックはこの映画の撮影現場を訪れ、取材写真を撮影しています。

 その後映画監督になったキューブリックは、『博士の異常な愛情』のスチール写真撮影のためにウィージーを招聘、ついに憧れの人と一緒に仕事をすることになったのですが、オーストリア出身のウィージーのドイツ語訛りの英語は録音され、それをピーター・セラーズが真似てストレンジラブ博士のキャラクターが出来上がりました(ウィージーのインタビュー動画はこちら)。

 ところでこの映画、キューブリックのフィルム・ノワール『非情の罠』製作に影響を与えたかもしれません。映画をどうしても当てたかったキューブリックにとって、この『裸の街』が大ヒットしたこと。撮影がニューヨークで行われ、その現場を取材していたことなどがその根拠です。もちろん証言はありませんので推測の域を出ませんが、当時資金もコネも何もないキューブリックにとって、身近な題材で、慣れ親しんだ街で撮影できるテーマやジャンルを選んだとしても何の不思議もないと思います。

 その写真集『裸の街』を紹介した動画は以下をどうぞ。キューブリックの写真集『Through a Different Lens: Stanley Kubrick Photographs』(詳細はこちら)と比べてみても、やはり影響は感じられます。キューブリックはダイアン・アーバスの影響云々とよく言われるのですが、キューブリックがカメラマンだった頃はアーバス夫妻は売れっ子のファッションカメラマンでしかなかったし、キューブリックの志向(嗜好)に合致するのは断然ウィージーだということがこれでよくわかりますね。

【ご注意】当ブログの記事は報告不要でご自由にご活用頂けますが、引用元の明記、もしくは該当記事へのリンク(URL表記でも可)を貼ることを条件にさせていただいております。それが不可の場合はメールや掲示板にてご一報ください。なお、アクセス稼ぎだけが目的のキュレーションサイトやまとめサイトの作成、デマや陰謀論をSNSで拡散する等を意図する方の当ブログの閲覧、ならびに利用は禁止させていただきます。※当ブログはネタバレありです。





    このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
警察無線の声は「10th Street and 2nd Avenue」。

 最近NHK BS1でオンエアされた『キューブリックが語るキューブリック』を視聴して、「キューブリックの肉声が聞けるなんて珍しい」というコメントが散見されましたがそんなことは全くなく、数多くのドキュメンタリーや、ボックスセットの特典として付属していたインタビュー音源など、ファンにとっては聞き馴染みのある声です。

 そんな声が『非情の罠』のワンシーンから聞こえてきて、個人的には非常に嬉しい驚きでした。この頃のキューブリックはお金がなく、「映画制作に関することはなんでもやった」と自虐的に豪語するぐらいなんでもやったので、声だけの出演なら金欠も影響しているのかな、と思わなくもないですが、後年、制作費の捻出に苦労しなくなった『フルメタル・ジャケット』でも声だけの出演をしているので、これは例の「どんな些細なことでも徹底的にこだわる」というキューブリックの考え方が影響しているのかもしれません。そういえば『2001年宇宙の旅』の呼吸音もキューブリックでした。「この程度のことなら、人にあれこれ指示するより自分でやったほうが早い」と思っていたのかも知れませんね。

カウボーイの無線の相手「マーフィー」の声がキューブリック。
【ご注意】当ブログの記事は報告不要でご自由にご活用頂けますが、引用元の明記、もしくは該当記事へのリンク(URL表記でも可)を貼ることを条件にさせていただいております。それが不可の場合はメールや掲示板にてご一報ください。なお、アクセス稼ぎだけが目的のキュレーションサイトやまとめサイトの作成、デマや陰謀論をSNSで拡散する等を意図する方の当ブログの閲覧、ならびに利用は禁止させていただきます。※当ブログはネタバレありです。

    このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
Kubrick-filming-Killers-Kiss
自主制作映画『非情の罠』を撮影中のキューブリック。この時まだ26歳。

ファクトタム(FACTOTUM)は、2019年春夏メンズ・ウィメンズコレクションを発表。

キューブリック『非情の罠』からインスパイア

 今季のテーマは、“ノワール(Noir)”。インスピレーションを得た題材は、スタンリー・キューブリックが監督を務めたフィルム・ノワール『非情の罠』だ。映画制作当時にあたる、1950年代のアメリカの空気感と、『非情の罠』の主人公であるボクサーや登場人物のギャングから発想した要素が、ウェアに落とし込まれている。

〈以下略〉

(全文はリンク先へ:FASHION PRESS/2019年1月12日



 最近、ファッション業界でのキューブリック・インスパイアが盛んですが、ファクトタムの2019年春夏メンズ・ウィメンズコレクションは『非情の罠』からだそうです。しかし、写真を見る限りあまりそういった感じがしないのは、1950年代という時代はわりとシルエットがはっきりしたファンションだった印象があるせいかもしれません。男性はスーツにネクタイ、女性はウェストを絞ったワンピースという服装が定番で、このコレクションのようにオーバーサイズの服をだらっと着こなす、というのは現在のトレンドですね。

 『非情の罠』という作品についてはキューブリック自身「愚作」とこき下ろしていますが、この作品の制作過程をモチーフにした『ストレンジャーズ・キス』という映画が1983年に公開されています(詳細はこちら)。この映画自体は駄作ですが、キューブリックファンならニヤッとできるネタが満載ですので、機会があればぜひ視聴してみてください。
【ご注意】当ブログの記事は報告不要でご自由にご活用頂けますが、引用元の明記、もしくは該当記事へのリンク(URL表記でも可)を貼ることを条件にさせていただいております。それが不可の場合はメールや掲示板にてご一報ください。なお、アクセス稼ぎだけが目的のキュレーションサイトやまとめサイトの作成、デマや陰謀論をSNSで拡散する等を意図する方の当ブログの閲覧、ならびに利用は禁止させていただきます。※当ブログはネタバレありです。

    このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
ballet
『非情の罠』のバレエシーン。踊っているのは当時キューブリックの妻だったルース・ソボトカ。このバレエを実際に日本で観た人がいる、というのは実に羨ましい限りだ。



 この一覧によると1958年3月17日〜3月30日までは新宿コマ劇場、4月1日〜6日までは産経ホールで公演したようです。キューブリックとルースは1955年1月11日に結婚しましたが、1956年10月頃には夫婦関係はかなり怪しい状況になっていました。その後キューブリックはハリスと共にドイツに渡り、『突撃』の制作に取りかかります。それは1957年の春頃まで続き、『突撃』の初公開はベルリンでこの年の6月です。この時点でキューブリックは既にクリスティアーヌと出会っていますので、二人の離婚はもはや決定的です。どちらにしても1958年3月にバレエ団の一員として来日するためには、準備やリハーサルなどを考えると少なくとも1957年の後半にはキューブリックの帰りを待っていたハリウッドを離れ、ニューヨークに戻らなければなりません。この来日公演の記録に旧姓の「ソボトカ」で掲載されているところを見ると、離婚は1957年ということで間違いないと思われます。

 つまりルースとクリスティアーヌは入れ替わる形でルースはハリウッドからニューヨークへ、クリスティアーヌはドイツからハリウッドへ移ったことになります。果たして二人の間で直接の対決はあったのでしょうか? ルースもキューブリックも逝去してしまっている現在、それを証言できるのはクリスティアーヌだけですが、この件に関して何かを語ることは今後もないでしょう。なぜならルースはナチスドイツに故郷のウィーンを追われ、ニューヨークに逃げて来たユダヤ人、クリスティアーヌはそのナチスドイツの宣伝大臣だったゲッペルスのお抱え監督、ファイト・ハーランを叔父に持つナチスに近い立場のドイツ人だからです。そして、完全に真逆の立場である二人の女性の間に挟まれたのが、生まれも育ちもニューヨークのユダヤ系アメリカ人であるキューブリック。なんとも皮肉な運命の巡り合わせとしか言いようがないですね。

 このルースを擁した「ニューヨーク・シティー・バレエ団」の公演の詳細はこちらで確認することができます。
【ご注意】当ブログの記事は報告不要でご自由にご活用頂けますが、引用元の明記、もしくは該当記事へのリンク(URL表記でも可)を貼ることを条件にさせていただいております。それが不可の場合はメールや掲示板にてご一報ください。なお、アクセス稼ぎだけが目的のキュレーションサイトやまとめサイトの作成、デマや陰謀論をSNSで拡散する等を意図する方の当ブログの閲覧、ならびに利用は禁止させていただきます。※当ブログはネタバレありです。

    このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

※『非情の罠』のHD映像。一刻も早いBD化を!

 クライテリオンの該当ページによりますと、本国アメリカでは、BD『現金に体を張れ』の特典映像として『非情の罠』はBDで発売済みになっていたようです。独立したパッケージとして発売されていなかったので見逃していました。

 残念ながら日本では『非情の罠』『現金に体を張れ』『突撃』の3作品が未だにBDでリリースされていません。できれば日本では『非情…』は独立したパッケージで発売して欲しいですね。

 ついでにキューブリック作品のDVD/BDの日本での販売権を持つ会社は以下のようになっています。参考までにどうぞ。

『恐怖と欲望』IVC

『非情の罠』20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント

『現金に体を張れ』※20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント

『突撃』※20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント

『スパルタカス』NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン

『ロリータ』ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

『博士の異常な愛情』ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

『2001年宇宙の旅』※ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

『時計じかけのオレンジ』※ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

『バリー・リンドン』※ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

『シャイニング』※ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

『フルメタル・ジャケット』※ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

『アイズ ワイド シャット』※ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

2016年12月12日追記:『非情…』『現金…』『突撃』のBDに関して発売元の20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメントに問い合わせてみましたが「Blu-ray化は現在未定でございますが、貴重なご意見として進言いたします」との回答をいただきました。なんともテンプレな対応ですが、現在世界を巡回中の『スタンリー・キューブリック展』の日本開催が決定すれば、なんらかの動きがあるかも知れません。ビジネスとしての判断を優先するのは構いませんが、ファンはBD化を首を長くして待っていることだけはお忘れなく!

情報提供:qmq様


KILLING (CRITERION COLLECTION) [BLU-RAY](amazon)
【ご注意】当ブログの記事は報告不要でご自由にご活用頂けますが、引用元の明記、もしくは該当記事へのリンク(URL表記でも可)を貼ることを条件にさせていただいております。それが不可の場合はメールや掲示板にてご一報ください。なお、アクセス稼ぎだけが目的のキュレーションサイトやまとめサイトの作成、デマや陰謀論をSNSで拡散する等を意図する方の当ブログの閲覧、ならびに利用は禁止させていただきます。※当ブログはネタバレありです。

このページのトップヘ