突撃

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カークが主演し、自身のプロダクションで制作した『バイキング』(1958)の予告編。

 カーク・ダグラスが『突撃』の企画を知った時、自伝によるとキューブリックにこう語ったそうです。

「スタンリー、この映画では1セントも稼げやしないだろう。でもこれは作らなきゃだめだ」

若いキューブリックの才能に惚れ込み、それを後押ししようとする後輩思いのカーク・ダグラス。カークは出資者であるユナイトにも『バイキング』と『突撃』を一緒に作るのか?それとも他社に行くのか?と迫り、出資を渋るユナイトを説得したそうです。まさに「美談」ですね。

 実はこの話には裏があって、ここまでカークがこの『突撃』に固執したのは、脚本やキューブリックの才能に惚れ込んでいたから・・・だけでなく、大作映画である『バイキング』でヨーロッパ長期滞在が予想されるため、その間にもう一本映画を作るのにはヨーロッパが舞台であったこの『突撃』が都合が良かったからなのです。この件については、『突撃』の音楽を担当したジェラルド・フリードがインタビューで証言しています。

 『突撃』が作られた理由を知っていますか?『バイキング』のおかげなのです。これは興味深い映画史であり、事実です。カーク・ダグラスはスタンリーに感銘を受け、彼と話し、カークは「間に少し時間があるので、『バイキング』のオフの日に『突撃』 を作ってみないか?」と言ったのです。 『突撃』はこうして出来たんです!

 この『バイキング』、アーネスト・ボーグナイン、ジャネット・リー(ブレイクしたのは『サイコ』の出演後)、トニー・カーティスなど超有名スターが勢ぞろいし、ナレーターにあのオーソン・ウェルズを起用。カークの事務所であるブライナ・プロダクションが製作し、しかもカークにとってヴァイキングを演じるのは長年の夢だったのです。これほどまでに力が入った、しかも大ヒットが予想される映画の企画がすでに存在していれば、そりゃ「作らなきゃだめだ」などと言えるはずです。

 『突撃』は1956年から1957年にかけて主にミュンヘンで撮影され、『バイキング』は1957年の夏にノルウェーやフランスで撮影されました。しかもカークの思惑通りに『バイキング』は大ヒット。その反面『突撃』は制作費さえ回収できませんでした。しかし、時の経過によって立場は逆転。『バイキング』は映画史の過去の末席へと置き去りにされ、「懐かしのハリウッド大作」として懐古的に語られるのがせいぜい。現在に至ってまで「名作」として語られ続けている作品は、『突撃』という結果に至りました。

 カークがキューブリックという偉大なフィルムメーカーを世に送り出すのに、多大なる貢献をしたのは間違いないでしょう。しかし、当のキューブリックにとってカークは「乗り越えなければならない壁」でした。二人の不和は『スパルタカス』で最高潮に達し、『ロリータ』の悪評にカークはキューブリックの「囲い込み」契約を解消(これはキューブリックが望んだことだった)。晴れて独立を果たしたキューブリックはハリス=キューブリックプロダクションで『ロリータ』を、以降は自身のプロダクションで『博士…』『2001年…』『時計…』などの傑作群を生み出していったのです。

 カークは自伝で「私が契約を解消しなければ、それらの作品は自分のものになっていた」と記しています。でもこれはずいぶんと尊大な物言いです。キューブリックがカーク・ダグラスという「目の上のたんこぶ」を排除したからこそ、これら傑作が存在しているのであって、カークの支配下ではせいぜい『スパルタカス』程度が関の山でしょう。カークはその時代を彩った「スター」で「映画製作者」であったかもしれませんが、現在から見れば「時間」という審判の前に敗れ去った「過去の人」です。キューブリックが逝去し20年以上が経過してもなお、現役でいつづけられているのは、カークを排除し、映画製作に関する幅広い権限を手中にし、それを生涯維持し続けたからです。

 「自分のことはカッコよく語りたがる」のは、何もカークだけではありません。才能だけで渡っていけるほどハリウッドの世界は甘くないし、一見「美談」に聞こえるその裏には様々な思惑や利害、利権が渦巻いているものです。他人を利用したり、されたりしたのはキューブリックも例外ではありませんでした。ただ、キューブリックは自分を良く見せようという意識はあまりありませんでしたが、「映画スター」であったカークは違います。カークがキューブリックの才能を気に入っていた(カークはキューブリックの長所を「彼の本領は構想を展開させていくことにある」と評している。これは鋭い指摘)のは確かですが、カークが語らなかった「裏の事情」も、もっと知られるべきではないかと思っています。
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 微妙なナレ声と分かったような、分かっていないような解説でおなじみのYouTubeチャンネル「WatchMojo Japan」の『史上最高の戦争映画ランキング Top10』に『突撃』がランキングしていたのでご紹介。

 海外では評価の高い『突撃』ですが、個人的にはあまり好きではありません。カーク・ダグラスのステレオタイプなヒーロー演技と、お涙頂戴ものに走ったラストシーンが苦手なんですが、この頃のキューブリックは映画を当てようと必死だったので、かなり大衆迎合的な演出が目立ちます。とはいえ、そこはキューブリック。一番好きなのは城内での夜会で、ドアの開け閉めをやり合うシーン。舞踏会の優雅な音楽(ちなみに曲はヨハン・シュトラウス2世の『芸術家の生活』作品316)が聴こえたり、聴こえなかったりすることで、ダックス大佐の苛立ちと、兵士の死より夜会の方が大事と言わんばかりのブルーラード将軍との意見の対立を、象徴的に、皮肉っぽく描いています。とってもキューブリックらしい演出ですね。

 1位と2位は鉄板として、3位以下は名作と呼ばれる戦争映画ならどれがランクインしても違和感はないですね。個人的には『戦争のはらわた』は絶対として、『ジョニーは戦場に行った』が入って欲しかったです。『突撃』を反戦映画という人は多いですが、ダックスは理不尽な命令に反旗を翻しただけで、戦争行為そのものに反対しているわけではありません。キューブリックの主眼は軍隊という巨大システムが起こす機能不全批判にあると思っています。その点、『ジョニー…』は正真正銘の反戦映画です。

 ついでに『地獄の黙示録』についても一言。「初公開版こそ至高!Light My Fireで終われなかったからこそ、あの空爆シーンは絶対必要!!」・・・現場からは以上です(笑。
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幼女戦記1

幼女戦記2

幼女戦記3

 2017年にTVアニメ版がOAされ、2019年には劇場版が公開された『幼女戦記』の第1話『ラインの悪魔』の戦闘シーンが、『突撃』の塹壕からの攻撃開始シーンを参考にしたと思われるのでご紹介。笛による攻撃の合図により、塹壕を飛び出して突き進む兵士を横から捉えたショットなど、『突撃』を参考にしたであろうカットが続きます。

 この『幼女戦記』は異世界転生もので、この戦争の舞台は現実のそれではありません。ただ第一次世界大戦をモチーフにしていて、主人公が所属する国は明らかにドイツがベースになっています。敵は共和国、すなわちフランスです。『突撃』はフランス軍の物語で、敵がドイツ軍なので敵と味方が逆になっていますね。『幼女戦記』は他に協商連合(ノルウェー・スウェーデン)、連邦(ロシア)など、現実の第一次世界大戦時のヨーロッパの情勢を反映したものになっています。

 で、主人公の幼女、ターニャですが、元は日本人のエリートサラリーマンで、無慈悲で合理主義に凝り固まった性格せいで同僚の恨みを買い、殺されてしまうのですが、神(らしき存在)にその無信心を咎められ、「非科学的な世界で女に生まれ、戦争を知り追い詰められるがよい!」と戦争状態の異世界へ幼女として転生させられたという設定です。まあ流行りの「軍事+萌え」へ誘導するプロットとしては考えたな・・・と思わなくはないですが、思ったほど萌え要素はなさそうなので、萌えが苦手な方でも視聴ハードルは低そうです。

 公式サイトはこちら。他に漫画版やゲーム、ラノベ(原作はラノベ)などメディアミックス展開がされています。TV版は各種動画配信サイトでも扱いがあるようなので、OAを見逃した方も興味があえば視聴してみてはいかがでしょうか。ファンには言うまでもありませんが、有名な『突撃』の塹壕のドリーショットからの突撃シーンは以下をどうぞ。



2020年12月23日追記:第5話『はじまりの大隊』には『フルメタル・ジャケット』でのハートマン軍曹の卒業時訓示が引用されました。過去には『フルメタル・パニック』でも引用されたことがあります。以下はそのセリフです。

本日をもって貴様らは、無価値なウジ虫を卒業する。これより貴様らは帝国軍魔導士である。戦友の絆に結ばれる、貴様らのくたばるその日まで、軍は貴様らの兄弟であり、戦友だ!

これより貴様らは戦地へ向かう。ある者は二度と戻らない。だが肝に銘じておけ!そもそも帝国軍人は死ぬ。死ぬために我々は存在する。

だが帝国は永遠である。つまり貴様らも永遠である! 故に帝国は貴様らに永遠の奮戦を期待する!!


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 <サム・メンデス監督が第一次大戦を描いた『1917 命をかけた伝令』(日本公開は2月14日)が、第92回アカデミー賞の撮影賞、録音賞、視覚効果賞の3部門で受賞。全編を「ワンカット」に見せるためのトリックを随所に採用し、最高の映像テクニックで戦争を表現することに成功した>

〈中略〉

 終戦から40年後に発表されたスタンリー・キューブリックの反戦映画『突撃』(1957年)も、カメラを据え付けた台車をレールに載せて移動させる撮影手法で、塹壕戦を指揮する傲慢な将校たちの姿を巧みに描いた。

〈以下略〉

(全文はリンク先へ:Newsweek日本版/2020年2月11日




 アカデミー賞でも話題を集めた『1917』ですが、いよいよ今週末公開になります。この作品、キューブリックの『突撃』を引用して解説する記事があちこちで見受けられましたが、この記事もその一つですね。ただ細かいことを言えば塹壕シーンは「台車をレール」ではなく、塹壕の底に板を敷き、その上をカメラを乗せた台車を走らせました。写真も残っています。

POG_T_S

 それはともかく、このシーンでカーク・ダグラスは「周囲や後方の爆発を気にとめることなく、ずんずんと歩き進む」のですが、現在では定番になっている登場人物の「力強さ・勇気」を表現するこの手法、これを最初に撮ったのはキューブリックで、それはこの『突撃』ではないか?という話があります。もし『突撃』以前に同じようなシーンがあるのをご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひご一報ください。

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IVC_BD

 IVCによりやっとBD化が実現した『非情の罠』『現金に体を張れ』『突撃』のBDですが、『現金に体を張れ』『突撃』に日本語吹き替え版が付属するようです。TVOA時のキャストはwikiによると以下の通り。この収録される日本語吹き替え版のキャスティングがこれなのか、新録なのかは今のところ不明ですが、情報がamazonに反映され次第追記したいと思います。

現金に体を張れ
ジョニー・クレイ:家弓家正
フェイ:?
ヴァル・キャノン :仲村秀生
マーヴィン・アンガー:高塔正康
ランディ・ケナン:森山周一郎
シェリー・ピーティ:寺島信子
ジョージ・ピーティ:高木均
モーリス:相模太郎
日本語版ナレーション:山内雅人
放送:1970年11月7日テレビ朝日「土曜映画劇場」タイトル『華麗なる完全犯罪 競馬場現金強奪作戦』でOA

『突撃』
ダックス大佐:宮部昭夫
パリス伍長:羽佐間道夫
ブルラール大将:島宇志夫
ミロー大将:大木民夫
初放送:1968年1月15日NETテレビ『月曜ロードショー』
吹替その他:相模武、石森達幸、清川元夢、村瀬正彦


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