ロリータ

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商品化権が解放されていない『バリー・リンドン』と『ロリータ』のキービジュアル。(画像引用:IMDb - Barry LyndonIMDb - Lolita

 キューブリック作品のビジュアルにモデルを紛れ込ませたグッチの『Exquisite Gucci』キャンペーンが話題(詳細はこちら)になってますが、管理人が注目したのは『バリー・リンドン』『アイズ ワイド シャット』が引用されている点でした。よく知られているようにキューブリック作品で商品化権が解放されているのは、ワーナーが配給権を持つ作品のうち『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』『シャイニング』『フルメタル・ジャケット』のみで、他の作品はキューブリック財団の許可が下りていません。そして、これはご存知の方はご存知ですが、商品化権が解放されていると言ってもデザイン化できるビジュアルは制限されていて、例えば『シャイニング』であのジャック・ニコルソンの狂気の表情が商品化されていない(されているのは全て非公式の海賊版)のは、おそらくニコルソン本人の肖像権の問題があるのだと思います。

 さて、そんな状況は重々承知しつつ、今回のグッチのキャンペーンで『バリー・リンドン』と『アイズ ワイド シャット』が引用されている事実に驚きを禁じえませんでした。『アイズ…』に関しては大スターであるトム・クルーズとニコール・キッドマンの肖像権がクリアにならない限り難しいとは思いますが、『バリー…』については密かに期待を抱かせるものです。特に上記のキービジュアルに関してはアパレル展開を期待したいですね。

 そして、個人的に一番影響が大きいと思われるのが『ロリータ』です。上記のキービジュアルは若い女性たちの注目を集めるには十分すぎるほどのインパクトを持ってます。特に「ロリータ」というワードに(良くも悪くも)寛容な日本では大きな話題になるでしょう。このハートサングラスとスー・リオンのキービジュアルがプリントされたTシャツを来た若い女性が(映画を観ているか否かはともかく)街に溢れている状況を想像してみてください。どれだけキューブリック作品の認知度アップに貢献できるでしょうか?まあ、そうなるといい年をしたオヤジから「キューブリック好きなの?」と話しかけられる「リスク」も増すのですが(苦笑。

 そう、スー・リオン・・・。彼女の破滅的な人生はこちらでまとめて記事にしていますが、スーは一人娘(黒人とのハーフ)のノーナを施設に追いやり、自分は結婚と離婚を繰り返すという「恋に生きた」女性でした(詳細はこちら)。ノーナの人生は母親以上に過酷なものだったと想像できますが、SNSを覗いた限りでは、それを感じさせつつも懸命に生きている様子が伺えます。スーはすでに故人ですので『ロリータ』の権利をクリアにし、その恩恵がノーナの手元に確実に渡るようにしていただき、それから我々ファンも楽しませていただけるよう、ワーナー・ブラザースを始め権利保有者各位にはくれぐれもお願いしたいと思っております。
【ご注意】当ブログの記事は報告不要でご自由にご活用頂けますが、引用元の明記、もしくは該当記事へのリンク(URL表記でも可)を貼ることを条件にさせていただいております。それが不可の場合はメールや掲示板にてご一報ください。なお、アクセス稼ぎだけが目的のキュレーションサイトやまとめサイトの作成、デマや陰謀論をSNSで拡散する等を意図する方の当ブログの閲覧、ならびに利用は禁止させていただきます。※当ブログはネタバレありです。





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 このベンチャーズ。「テケテケサウンド」などと呼ばれ、当時の若者にモズライトギターを買いに走らせるほどの大人気グループでした。そのベンチャーズが『ロリータ・ヤ・ヤ』をカバーしていたのでご紹介。1962年11月にリリースされたベンチャーズの8枚目のアルバム『Going to the Ventures Dance Party』に収録され、シングルカットもされたそうです。アルバムはビルボード最高位が93位だったそうですので、そこそこヒットしたことになります。ダンパ(ダンスパーティー)で流しっぱなしにしておくのに丁度よかったからでしょうか?

 ところでこのベンチャーズ、ロックの本流にはあまり絡んでこないバンドなので、今の時代からその存在を語るのはなかなか難しいのですが(懐メロとして語られがち)、チャーを始め多くの日本人ギタリストに大きな影響を与えたのは間違いないですし、日本に於ける「GS・ギターブームの創始者」としては外せないバンドです。このアルバムがリリースされた1962年頃はまだブレイク前夜ですので、こういったカバーアルバムが発売されたのでしょう。

 キューブリック作品は後年、ニードルドロップ(既成曲をサントラに使用すること。レコード化された音源に針を落とすことから)ばかりになってしまうので、映画用に書き下ろされた曲がヒット曲になる、というのはこの『ロリータ・ヤ・ヤ』か、イギリスで多少ヒットしたアビゲイル・ミード(キューブリックの三女ビビアン)によるラップ曲『フルメタル・ジャケット』しかありません。1970年代あたり(おそらくビージーズがサントラを担当した『サタデーナイト・フィーバー』の大ヒット)から、映画音楽とアーティストがタイアップしてヒット曲を量産する、という時代もありましたが、宣伝活動まで口うるさく介入するキューブリックは、一切そういった「タイアップ」をしませんでした。頑なに自作のコラボ商品化も拒否し続けていたそうですし、キューブリックにしてみれば「自作の優秀さで利益を出す」という映画製作者としてのプライドがあったのかも知れませんね。
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スー・リオンと娘のノーナ。

 ロサンゼルスで生まれ育ったノーナの人生は、まるでおとぎ話のように始まった。 有名女優のスー・リオン(ロリータ)と(黒人)フットボール選手(ローランド・ハリソン)の娘である。 幼少期は父親が不在で、金髪碧眼の母親との違いに幼い頃から疑問を抱いていた。 しかし、ノーナの生い立ちは決して「普通 」ではなかった。母親は、ノーナが生まれる前に双極性躁鬱病と診断された。母親が何カ月も寝たきりになることもあり、ノーナは家庭内の世話係になった。 12歳のときに母親が再婚し、母親との関係は一変した。ノーナは家を追い出され、13歳になるとハーフウェイハウス(自立生活訓練施設)に連れて行かれた。 同年、母親は彼女を精神病院に入れ、3カ月ほど入院させた。憧れの存在であった母親に裏切られたことで、ノーナの精神は崩壊し、そこから立ち直るには何年もかかることになる。 ノーナは現在、ロサンゼルスに住んでいる。

(引用元:Facebook Nona Truth Seeker/2013年3月4日




 『ロリータ』の主演女優、スー・リオンの一人娘ノーナは1972年5月20日生まれですので、「12歳の時に母親が再婚」というのは、この年表によると1984年にエドワード・ウェザースと結婚したことを指すのだと思います(翌年には離婚)。1985年にスーはリチャード・ラドマンと結婚しましたので、その結婚生活にノーナが邪魔になったのか、スーはノーナをハーフウェイハウスへ追い出してしまいました。どうやらスーにとってこの結婚生活が一番充実していたようで、1994年にはキューブリックに幸せそうな写真を同封した手紙(詳細はこちら)を送っています(結局はまた離婚するのですが)。ですがその笑顔の裏では、娘に対して虐待とも言える行為に及んでいたことになります。

 スーは『ロリータ』の次作『イグアナの夜』撮影中の1963年に、キューブリックに宛てて「ぜひぜひ次の映画に出させてください」という手紙(詳細はこちら)を書いています。その後は素行の悪さからトラブルメーカーの烙印を押され、ハリウッドから干されると「私の人格崩壊は『ロリータ』から始まった」などと言い出します。ところが1994年になると「私が成功したのは、あなたのおかげです」と書いた手紙をキューブリックに送るのですから、「何を言わんや」ですね。

 そんな「毒親」に育てられたにもかかわらずノーナは立派に成長し、現在NONA TRUTH SEEKERの名前で作家、治療家、活動家、真実の探求者として活動しています。サイトにあるブログを読むと、母親に対する複雑な心境が綴られていますが、それと同時に自立には非常に苦労したであろうことが伺える記述もあります。しかしその想いは複雑でも、ロスで開催された『スタンリー・キューブリック展』で、『ロリータ』のフラッグを見つけて「ママ!」と喜ぶあたり、やはりノーナにとってスーは特別な存在だったようです。

 結局スーは2019年12月26日にさびしく逝去してしまうのですが、その死の際にノーナの姿はありませんでした(ノーナ自身もニュースで母の死を知った)。我が子を顧みることなく、愛と恋に生き、5回の結婚と離婚を繰り返したあげく、孤独に死んでいったスー・リオン。せめてノーナの人生だけは幸せであってほしいものですね。
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ジェームズ・メイソンとヘイリー・ミルズ。『ロリータ』がこのツーショットだったとすると果たして公開できたかどうか・・・。

〈前略〉

 契約期間中、ミルズはシャーリー・マクレーンとオードリー・ヘップバーンが共演した『噂の二人』『ドクター・ドリトル』、スタンリー・キューブリック監督の『ロリータ』などの作品に出演のオファーを受けていましたが、後者は「ディズニーのイメージを損なう」という理由で辞退し、逃した役だと考えています。

 「ぜひ演じてみたかったわ。とても魅力的な作品です。それに、(スタンリー・)キューブリック、ジェームズ・メイソン、シェリー・ウィンタースと一緒に仕事ができるなんて、すごいことですよね」と、『ロリータ』について本誌に語っています。ミルズは回顧録の中で、スー・リオンがロリータを演じた少女というレッテルを永遠に貼られてしまうのに対し、私はポリアンナであるので、おそらくもっと簡単に受け入れることができるだろうと皮肉っぽく書いています。

 この2人はまったくの 「チョークとチーズ (見た目は似ているが中身はまるで違う)」ですよね。みんな彼女に実際に会ったときでさえ、彼女がニンフェット(妖精・聖少女)であることを期待してしまいます。私もポリアンナのような存在を期待されていたと思います」と彼女は言います。「私たちは自分が演じる役によってレッテルを貼られ、それに対処しなければなりません。それは、私たちのビジネスで起こることのひとつです」

 候補となった役についてミルズは、「どれも本当に面白かったでしょうが、それが私のキャリアにどんな影響を与えたかはわかりません。私たちにはわからないのです」

〈以下略〉

(全文はリンク先へ:Hollywood Reporter/2021年9月7日




 以前この記事でご紹介した通り、ヘイリー・ミルズはロリータ役には乗り気だったようです。というか、上記記事からは「私の方がもっと上手く演じられたはず」というプライドさえ感じます。ですが、現実問題として健全を旨とするディズニーの看板子役だったミルズが、ロリータを演じる可能性はほぼなかったでしょう。実際にロリータを演じたのは新人女優のスー・リオンですが、女優とはいえ数回の端役の経験しかありませんでした。そんな彼女が突然スターになったのですから、その環境の激変に上手く対応できなかったであろうことは容易に想像できます。一方のミルズはその時点でスター子役ですので、ある程度ハリウッドに揉まれ、慣れていたていたと考える方が自然です。また、ミルズ自身がポリアンナのような「良い子」のイメージを払拭したいと考えていたなら、このロリータ役に乗り気だったのもうなずけます。

 この二人は同い年(スー・リオンの方が3ヶ月ほど年下)ですが、以上のように状況はかなり異なります。また、醸し出す雰囲気も異なります。いわゆる「ロリータ」(蠱惑的な幼い少女)として考えるならミルズの方が適役に見えますが、ジェームズ・メイソンとミルズのツーショットは、上映禁止もありうるほど危険な香りが漂ってきます。もしキューブリックがそのことを計算に入れ、少し大人びたスーをキャスティングしたのなら、その判断は正しかったと思います。そうでなくても『ロリータ』上映には、あちこちの団体から批判や圧力にさらされたのですから。
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ツインテのナスターシャ・キンスキー。本編シーンか宣材写真なのかは不明。萌える人は萌えるか…も?

〈前略〉

 『ロリータ』の製作が終了して間もなく、キューブリックとハリスは、全寮制女子校の中にある売春宿を描いたロザリンド・アースキンのコミカルな小説『パッション・フラワー・ホテル』の映画化を企画した。この小説は、後にジョン・バリーの音楽で舞台ミュージカルになり、さらに後にナスターシャ・キンスキー主演で映画化された。

「当時、映画を公開するために必要なプロダクション・コードに縛られていたので、性的表現のある映画を撮ろうと真剣に話し合ったんです」とジェームズ・B・ハリスは振り返る。「念のために言っておきますが、すべては仮定の域を出ませんでした。スタンリーの考えは、才能のある俳優を使って、正直で自由なものを撮れば、美しく、真実味があり、さらにはストーリーを語ることができるというものでした」

〈中略〉

「スタンリーが考えていたのはポルノではなく、検閲を超えた何かだった。1950年代半ばの問題はそうだった。そんな映画をどこで見せられるのか。検閲を通らなければ、新聞に広告を出すこともできないし、映画館で合法的に上映することもできない」

〈以下略〉

(全文はリンク先へ:FADE IN/2012年12月26日




 この小説『パッション・フラワー・ホテル』は1978年に『レッスンC』(原題『Passion Flower Hotel』)として映画化されました。主演はナスターシャ・キンスキーです。1974年に官能映画『エマニエル夫人』が世界的に大ヒットして以降、ソフトポルノ映画が制作されるようになり、1970年代後半から1980年代前半にかけて十代の若者の性を描くいわゆる「青春エロ映画」「性のめざめ映画」(『青い珊瑚礁』『初体験/リッジモント・ハイ』『グローイング・アップ』『ポーキーズ』『超能力学園Z』などなど)とうジャンルが大流行しましたので、その流れでこの小説も映画化されたのだと思います。1978年というのはソフトポルノから青春エロ映画への転換点くらいの時期になるでしょう。

 キューブリックがこの小説の映画化を検討していたのは1962年ごろだと思いますので、それよりもずいぶんと早い時期です。「性の解放」といわれる時代は1970年代に入ってからですので、約10年以上は早いですね。『ロリータ』はまだまだ保守的な価値観が支配していた時代に制作されましたので、かなり厳しい制約がありました。キューブリックも「こんなに制限が厳しいとは思わなかった。知っていたら映画化しなかった」という趣旨の発言をしています。ハリスも上記記事で「検閲を超えた何か」と発言しています。このことからもキューブリックにとってポルノとは「どこまで何を見せられるか」への挑戦だったことが伺えます。

 キューブリックは自主制作だった『恐怖と欲望』『非情の罠』、思い通りにコントロールできなかった『スパルタカス』についてはかなり辛辣に批判していますが、それ以外の作品については概ね満足している旨の発言ばかりです。しかし『ロリータ』については「当時の様々な圧力団体の干渉を受け、ハンバートとロリータのエロティックな関係を充分脚色できなかった」「もし映画を撮り直すことができたら、私はナボコフと同じウェイトをかけて、エロティックな要素を強調するだろう」と語り、かなり悔しい思いが残ったようで、それはこの『パッション・フラワー・ホテル』を『ロリータ』に続けて映画化しようとしたことからも伺えます。キューブリックにとってこの『パッション…』とは、『ロリータ』でやり残したことへの再挑戦、リベンジの意図があったのではないでしょうか。

 結局この企画は実現しませんでしたが、キューブリックは1970年代始めには官能小説『ブルー・ムービー』や『夢小説』の映画化を企画、後者は1999年に『アイズ ワイド シャット』として実現しました。その執念たるやなかなかすごいものがありますが、「エロおやじキューブリック」「エロ大好きキューブリック」とファンに言われるほどキューブリック作品にエロ要素が多い理由は、ひょっとしたら『ロリータ』における「不完全燃焼感」にあるのかも知れません。

 ところで「性のめざめ映画」といえば以前、「【考察・検証】『シャイニング』北米版で、ダニーがTVで映画『思い出の夏(Summer of '42)』を観ているシーンの意味を考察する」という記事を書いたのですが、この『思い出の夏』(1971年公開)も同ジャンルの映画です。このことからもキューブリックはポルノ映画挑戦への関心が高かったことが伺えますし、そのリベンジのチャンスを執念深く、虎視眈々と狙っていたんでしょうね。『アイズ…』で当時14歳(ちなみに『ロリータ』のスー・リオンも撮影時14歳)のリーリー・ソビエスキーを下着姿にさせるくらいには(笑。(注:ロリコンって意味ではないので念のため)
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