博士の異常な愛情

    このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
Dr_strangelove_Ride_Bomb
画像引用:IMDb - Dr Strangelove

爆弾話はでっち上げ?

 1994年後半、映画『博士の異常な愛情』が 30周年を記念して再公開されたとき、メディアは監督のスタンリー キューブリック(元ルック誌のカメラマン)がニコンのカメラを使用して、白黒フィルムをフレームごとに個人的に修復したと伝えました。

 ニューヨーク・タイムズ紙と他の2つのニューヨークの日刊紙は、ニコンのこの修復物語を疑問視することなく報道しました。ただ 1 つ問題があります。90分の映画をスチルカメラで新品同様の状態に修復することは理論的には可能ですが、大量のフィルムとさらに多くの時間が必要になります。映画の10秒をコピーするだけで 250枚の写真撮影が必要になります。134,000フレームには536回の大量取り込みが必要です。

 しかし、それは本当でしょうか。『博士の異常な愛情』の物語はニコンにとって未知の情報であり、同社には相談されていませんでした。

 また、修復された『博士の異常な愛情』をリリースしたコロンビア・ピクチャー・レパートリーは、修復についての詳細を明かしませんでした。修復プロジェクトに近い、イギリスのハートフォードシャー州セント・オールバンズ(キューブリックの拠点)の情報筋によると、ニコンの話は完全に作り話だというのです。

 「マーティン・スコセッシがニコンの話の拡散に何らかの関与があったのではないかと考えています。ある時点で、私たちは『博士の異常な愛情』の修復にスチールカメラを使うことを考えましたが、どの程度真剣に検討したかはわかりません」と匿名を条件に情報筋は語った。「スコセッシはこのことを聞いて、インタビューで言及したのだと思います」

 オリジナルの『博士の異常な愛情』のネガは火事で失われてしまいました。しかし状態の良いインターポジは見つかりました。標準的な映画用複製機材を使用して再撮影され、新しいネガが作られ、そこから新しい劇場公開用プリントが作られました。

 キューブリックは確かにじっくりと細心の注意を要する修復プロジェクトに個人的に関わっていましたが、「長編映画をスチルカメラで修復するのは悪夢です」と情報筋は語っています。

ーエリック・ルドルフ




 『博士の異常な愛情』のオリジナルネガが紛失(焼失)したために、状態の良いプリントをカメラで一コマづつ撮影しネガを撮影。それが現在もネガとして4K化などあらゆる映像のソースになっていると信じていたのですが、どうやらそれは間違いであるようです。

 私もこの話を疑っていなかったのですが、フィルムの複製にスチルカメラが用いられる話は聞いたことがあったし、あのキューブリックだったら膨大な作業量も品質保持のためなら厭わないだろうと思っていました。ところが実際は状態の良いインターポジ(オリジナルネガから直接プリントしたポジフィルム)が見つかり、それを元にネガが作られたとのことです。

 可能性として考えられるのは、状態の悪いフィルムしか残っていないと知ったキューブリックがスチルカメラでの修復を決意し、その準備していたがインターポジが見つかったのでその作業はしなくて済んだ。だが最初の決定の話だけが一人歩きしてしまった、というものです。これは現実にもよくある話ですし、もし記事の内容が事実ならこの可能性が一番高いのではないでしょうか。

 ちなみに記事中に登場する「セント・オールバンズの情報筋」とは、キューブリックのアシスタントだったアンソニー・フリューインだと思います。彼がそう言うならそうなんだろうな、としか言えませんが、やたらと伝説化しやすいキューブリックのエピソードをこのように「現実化」してくれる彼の存在は大きいですね。

GQukyOKbkAAqG6C
Xで流れてきた記事の画像。出どころは不明ですが、内容から確度は高いのでは?という気がします。
【ご注意】当ブログの記事は報告不要でご自由にご活用頂けますが、引用元の明記、もしくは該当記事へのリンク(URL表記でも可)を貼ることを条件にさせていただいております。それが不可の場合はメールや掲示板にてご一報ください。なお、アクセス稼ぎだけが目的のキュレーションサイトやまとめサイトの作成、デマや陰謀論をSNSで拡散する等を意図する方の当ブログの閲覧、ならびに利用は禁止させていただきます。※当ブログはネタバレありです。





    このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック


 今年、創立100周年迎えるコロンビア・ピクチャーズが100秒に100本の映画を詰め込んだ動画を公開しました。『博士の異常な愛情』ももちろん登場。でも現在はソニーの傘下なんですけどね。

 『博士…』は今年ロンドンで舞台化の企画が進行中です。どういう舞台になるか興味はあるので、画像か動画が公開されましたらまたご紹介したいと思います。公式サイトはこちら
【ご注意】当ブログの記事は報告不要でご自由にご活用頂けますが、引用元の明記、もしくは該当記事へのリンク(URL表記でも可)を貼ることを条件にさせていただいております。それが不可の場合はメールや掲示板にてご一報ください。なお、アクセス稼ぎだけが目的のキュレーションサイトやまとめサイトの作成、デマや陰謀論をSNSで拡散する等を意図する方の当ブログの閲覧、ならびに利用は禁止させていただきます。※当ブログはネタバレありです。

    このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック


 特別版DVDやBDに収録されている『博士の異常な愛情』の予告編に字幕を付けた動画をソニー公式がアップしていましたのでご紹介。

 この予告編を制作したのは、オープニング・シークエンスも担当したパブロ・フェロ。キューブリックは当初アーサー・リプセットにオファーしていたのですが断られてしまった(詳細はこちら)ために、当時CMディレクターをしていたパブロ・フェロにオファー。ものの見事にキューブリックの期待に応えたのでした。BGMやナレーションは『Dr. Strangelove and the Fallouts: Love That Bomb』が使用されています(詳細はこちら)。

 そのパブロ・フェロのインタビュー記事はこちら。ところで予告編最後の「月曜日、もしくは再来週の木曜日。もしくは日、水、金、火、土曜日に見てください」ってどういう意味なんでしょう・・・?当時のギャグか何かなんでしょうか?謎です。
【ご注意】当ブログの記事は報告不要でご自由にご活用頂けますが、引用元の明記、もしくは該当記事へのリンク(URL表記でも可)を貼ることを条件にさせていただいております。それが不可の場合はメールや掲示板にてご一報ください。なお、アクセス稼ぎだけが目的のキュレーションサイトやまとめサイトの作成、デマや陰謀論をSNSで拡散する等を意図する方の当ブログの閲覧、ならびに利用は禁止させていただきます。※当ブログはネタバレありです。

    このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック


 米ソ冷戦時代を背景に核戦争の危機を描いた作品。『十二人の怒れる男』など社会派の巨匠シドニー・ルメットが、密室の会話劇を中心に緊迫感あふれるドラマを構築。同年の『博士の異常な愛情』と並び高い評価を得た。

 水爆を搭載したアメリカの爆撃機がモスクワ爆撃命令を受信。それは機械の故障による間違った指令だった。すでに爆撃機編隊を呼び戻す術は失われ、合衆国大統領は、核戦争回避のために恐ろしい提案をする……。

(全文はリンク先へ:BS松竹東急公式サイト/日曜ゴールデンシアター『未知への飛行』




 キューブリックファンにはおなじみ、キューブリックに盗作と訴えられたシドニー・ルメット監督の『未知への飛行』が10月23日(日)18:51よりBS松竹東急でオンエアされます。

 実はキューブリックが『未知への飛行』を訴えた真意は、製作が進んでいた似た内容の『博士の異常な愛情』より先に完成・公開させないためだった(『博士…』公開後に和解している)、というのもよく語られているエピソードですが、キューバ危機の記憶もまだ生々しかった当時、こういった「核戦争もの」はブームになっていて、『博士…』どほではなかったにせよ、『未知…』もそこそこヒットしたというのも当時の世相を色濃く反映しています。

 キューブリックと違って(笑、誠実で実直な映画づくりで定評のあるルメットらしい、実に誠実で実直な作品です。未見の方は同テーマにおける『博士…』との対比を楽しめる良い機会だと思います。また、ちょっと邪道ですが「本来はこうだった『博士の異常な愛情』」という見方もできるかも知れません。『博士…』の原作小説『破滅への二時間』は非常に真面目な内容ですので。

情報提供:崎環さま

追記:2022年11月3日、4日に川崎市アートセンターで開催される『2022 KAWASAKIしんゆり映画祭』で上映されるそうです。「大画面で観てみたい」という方はぜひ足をお運びください。詳細はこちら

情報提供:rinntapapaさま
【ご注意】当ブログの記事は報告不要でご自由にご活用頂けますが、引用元の明記、もしくは該当記事へのリンク(URL表記でも可)を貼ることを条件にさせていただいております。それが不可の場合はメールや掲示板にてご一報ください。なお、アクセス稼ぎだけが目的のキュレーションサイトやまとめサイトの作成、デマや陰謀論をSNSで拡散する等を意図する方の当ブログの閲覧、ならびに利用は禁止させていただきます。※当ブログはネタバレありです。

    このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
DrStrangelove
画像引用:IMDb - Dr Strangelove

ブラックユーモアで捉えた米ソの核開発競争

 国際政治学の議論というのは得てして抽象的になりがちで、掬いきれない部分がどうしても残ります。たとえば、アフガニスタン紛争の際に様々な議論がありましたが、市井のアメリカ人がどう受け止めているのか、なぜ紛争に賛成するのかなど、わからないことばかりでした。最近なら米中の対立を見て「中国政府が」とか「習近平体制が」などと言って考えますが、それでは中国に暮らす人から世界がどう見えているのかはわかりません。相手の社会を知らずに決めつけるのは危険ですが、これは国際政治学では手が届かない部分です。その点、映画は違う。フォーマルな理論とは違う引いた視点から捉えることで見えてくる社会の姿というものがある。そんな思いを胸に映画を観てきました。

〈中略〉

映画は政治学の手が届かぬ部分に迫れる

 それが一転するのが第二次世界大戦です。『カサブランカ』に現れるドイツ人は明らかに悪者でした。アメリカが戦争で世界を安全にし、民主主義という望ましい仕組みを広める、という考え方が根底に見えます。そしてこれがアメリカの正統な戦争認識になりました。映画は社会通念の変転を如実に映し出しています。

 一方で、映画にはそれと違う重要な働きもあります。そのことがよく表れているのが『博士の異常な愛情』です。まだ30代のスタンリー・キューブリック監督が米ソの冷戦と核兵器競争を辛辣に風刺した名作です。

〈以下略〉

(全文はリンク先へ:東京大学 UTokyo Focus/2022年6月14日




 我が国の学問の最高学府、東京大学のサイトに『博士の異常な愛情』が採り上げられていたのでご紹介。

 法学政治学研究科教授、藤原帰一氏の記事ですが、「(映画には)フォーマルな理論とは違う引いた視点から捉えることで見えてくる社会の姿というものがある」というスタンスは素晴らしいですね。「正しいこと」は絶対的なものではなく、相対的なものである場合が多く、キューブリックも「ナチスドイツに屈して戦争をしない方が良かったとは思わない」「絶対的な悪とは人類が自らを滅ぼす文明ぐらいなものだ」といったことを語っています。理論は理論として構築すべきですが、理論が世の中の問題を全てを解決し、説明してくれるわけではありません。それは映画も同じで、映画で描かれたことが常に正しいというわけではないのです。

 キューブリックは映画の持つ虚飾や虚構に自覚的で(ルック社でヤラセ写真ばかり撮っていた影響もあるかもしれない)、決して「映画で正しいことを描く」ということをしなかった監督です。むしろ「間違ったことばかり描いている」と言っていいほどです。映画は真実を描くには不適切なメディアで(かならず制作者のバイアスがかかる)、得てして底の浅いプロパガンダに成り下がりがちです。キューブリックはむしろ「間違ったことを描く」ことにより、逆説的に「真理」に近づこうとした監督です。それは『時計じかけのオレンジ』、そしてこの『博士の異常な愛情』に顕著なのはいうまでもないですね。

 監督は少し引いて見ている。ここには正義の戦争を行うアメリカは微塵も存在せず、馬鹿なことをやるんじゃないぞという意図が見えます。対象を突き放して作り手が独自の表現をする、映画というものの力を感じさせる一作です。

 対象を突き放して描くのがキューブリックの描き方です。現在の映画は共感性(つまり反響と興収欲しさ)を重視するあまり、対象に近づきすぎるぐらい近づいて描くやり方が主流です。キューブリック作品に慣れていると(観過ぎじゃないの?と言われそうですが。笑)、その「近さ」を「くどく」感じてしまうことが多々あります。見ただけで味がわかるコッテリとしたスープを無理やり飲まされているようなものです。つまり情報量(制作側の主張や意図)が多すぎ、分かりやすぎるのです。それが今風だと言えばそれまでですが、それでは満足できない層も確実に存在します。キューブリック作品はそれを分かつ分水領として存在している面もあるかも知れませんね。
【ご注意】当ブログの記事は報告不要でご自由にご活用頂けますが、引用元の明記、もしくは該当記事へのリンク(URL表記でも可)を貼ることを条件にさせていただいております。それが不可の場合はメールや掲示板にてご一報ください。なお、アクセス稼ぎだけが目的のキュレーションサイトやまとめサイトの作成、デマや陰謀論をSNSで拡散する等を意図する方の当ブログの閲覧、ならびに利用は禁止させていただきます。※当ブログはネタバレありです。

このページのトップヘ