上映会場入口で当時のポスターがお出迎え。
2023年1月15日、12時から東京・京橋の国立映画アーカイブ小ホールで上映された、35mm版『バリー・リンドン』を鑑賞してきました。
アスペクト比はキューブリック指定のヨーロッパビスタで、もちろんワーナーロゴもソウル・バスがデザインした当時のものです。フィルムの状態は傷や汚れが目立つ箇所もあり、色彩の退色もありました。もちろんこれらは「公開当時のフィルムで鑑賞しているという価値」を感じさせるもので、むしろメリットと言えます。そんなことを感じながらフィルムで見続けていると、映像ソフトやTVオンエア、配信時の不自然なまでの「彩度上げ」に猛烈な違和感を感じるようになってきました。特に、画面自体が発光する液晶テレビでの視聴は、『バリー・リンドン』の古色蒼然とした空気感を台無しにしているように思えます。
もちろん、作品は作品自体を視聴していただかない限りは価値がないものなので、お手軽に過去の名作を視聴できる現在の環境は喜ぶべきことではあります。ですが、薄型フルHDテレビ普及時(2010年代)にあった「過度な鮮明映像競争」は映像ソフト、特にBDに悪い影響を与え、元ネガの色調を過度に「彩度上げ」に補正してしまい、その作品の本来の価値を損ねているように感じます。この『バリー・リンドン』でもそれは同じで、本作のBDは色調の不自然さはもちろん、アスペクト比がキューブリックの意図したヨーロッパビスタではなく16:9でトリミング(詳細はこちら)、オープニングロゴも雰囲気をぶち壊すメタリックデザインと(詳細はこちら)とても「作品愛」を感じさせる商品ではありません。
その「過度な鮮明映像競争」の反省からか、現在は元ネガの色調を尊重するという方向にシフトしています。それは日本未発売のクライテリオン版『バリー・リンドン』の評判の良さからも伺えます。ただ、このクライテリオン版は日本語字幕未収録なので、マニアな方以外にはなかなかオススメづらい商品ではあります(詳細はこちら)。であれば、まだブラウン管テレビでの視聴を想定していた頃のDVDの方がお勧めできるでしょう。解像度は720ピクセルですが、フルサイズのネガサイズで収録されていて(詳細はこちら)、色調もBDほど極端な「彩度上げ」ではありません。DVD版にはデジタルリマスター前と後のバージョンがありますが、もちろんお勧めはデジタルリマスター版です(詳細はこちら)。中古市場で安価に入手出来ますので、今回の「35mm版『バリー・リンドン』を観たかった!」と悔しい思いをしている方がいらっしゃいましたら、少なくともBDやネット配信、TVオンエアよりは全然マシですので、ぜひデジタルリマスターDVD版のご購入をご検討ください。
今後、4K版『バリー・リンドン』がリリースされると予想されますが、ワーナーには悪評だらけのBD版の反省を生かし、当時のフィルムの質感を限りなく再現した、素晴らしい4K版のリリースを期待しております。