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外は大雪なのにTVの中は夏という、ダニーがTVで映画『思い出の夏』を観ているシーン。

 『シャイニング』の国際版ではカットされましたが、北米版には存在する「ダニーがTVで映画『思い出の夏』を観ているシーン」ですが、このシーンの意味を明確に解説した記事は、管理人が知る限り存在しないようです。そこで、あまり深く考察されてこなかった、または考察されていても「これだ!」と思える言説がないこのシーンの考察と検証を試みてみたいと思います。

 まず、このシーン。いきなり映画の場面のアップから始まります。次にゆっくりとズームアウトして行き、窓が映り始めます。窓の外は大雪です。そのまま引き続きズームアウトし、部屋でダニーがぽつんとこの映画を観ていることがわかります。このことから、ホテルは完全に雪に閉ざされたことが示されます。会話の流れでダニーは消防車のおもちゃを寝室に取りに行き、そこで徐々にホテルの悪霊に支配されつつあるジャックと会話する、という流れになっています。

 国際版ではカットされたTVのシーン。しかし、採用された北米版でもあまり重要だとは思えません。なぜなら、もっと重要であるはずのジャックがスクラップブックを見るシーン(ジャックの狂気のトリガーがそのスクラップブック、つまり「ホテルの過去」にあること示す重要なシーン)をまるまるカットしたキューブリックが、それよりもこのシーンの方が重要だと考える根拠がわからないからです。そこで発想を大胆に変え、少々乱暴ながら「キューブリックが単にジョークのためだけにこのシーンを採用したのではないか?」という説を提唱したいと思います。

 このシーンは、画面上のある一点からのズームアウトで構成されていることは見た通りですが、キューブリックがこういったゆっくりとしたズームを使う場合、観客に知らせたい情報の順番が、ズームで映る順番であると考えていいと思います。例えば『時計じかけのオレンジ』のオープニングシーン。まず主人公であるアレックスを登場させ、次にドルーグ(仲間)の紹介、今どこにいるか(コロバ・ミルクバー)の説明、そしてその場所がいかに異様であるかという順番で見せています。ズームだけで伝えきれない情報は、アレックスのボイスオーバーで補うという形を採用しています。

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観るものを映画の世界に一気に引き込む、『時計じかけのオレンジ』のオープニングシーン。

 そしてもう一つの有名なズームのシーン、『2001年宇宙の旅』の無重力トイレのシーンです。まず細かく書かれた無重力トイレの説明文を大映しにします。それからゆっくりとズームアウトし、それを利用したいフロイド博士の困惑した顔を映します。このシーンは「便意を催し、トイレに行ったはいいがあまりの使用説明文の細かさに困惑」とうジョークシーンなのですが(クラークはキューブリックがジョークの意図だけでこのシーンを撮ったと証言している)、この説明が「ダニーがTVで映画『思い出の夏』を観ているシーン」に適応できるのではないかと考えたのです。

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純粋に「ジョーク」として作られた『2001年宇宙の旅』の無重力トイレシーン。

 つまり映画『思い出の夏』(原題は『Summer of '42』、思春期の少年が経験したある夏の初体験の物語)を大映しにすることによって観客に「夏」を想起させ(『思い出の夏』はアカデミー賞やゴールデングローブ賞を獲得した有名作)、続けて窓の外の「ドカ雪」を見せることによって「TVの中は夏なのに、外は大雪かよ!」というジョークではないのか?という解釈です。キューブリックのジョークは皮肉や暗喩が効きすぎていてわかりにくい、というのがファンの間の共通認識です。キューブリックは「緊張感のあるシーンばかり続いているので、ちょっとここらあたりで観客に笑ってもらおう」と考えてこのシーンを採用したのではないでしょうか?(まあ、実際に笑えるかどうかは別の話ですが・・・)もちろん後に続く「徐々に狂気に支配されつつあるジャックのシーン」に自然につなげる意図もあったと思いますが、唐突に画面に現れる『思い出の夏』のシーンの使い方を考慮すると、「ジョークシーンである」という解釈も十分可能であると管理人は考えます。

結論:ダニーがTVで『思い出の夏』を観ているシーンは、観ている映画の「夏」と、観ている環境の「ドカ雪が降る冬」との落差を利用した「ジョークシーン」。そう考える理由は以上の通り。

 この解釈には何の根拠もなく、推察・推論の域を出ないことをご承知おきください。ですが、このように解釈すると、ダニーが観るのにもっとふさわしい番組(子供番組やアニメなど)があるはずなのに、あえて『思い出の夏』(子供が観るにはふさわしくない映画)を使用している説明にもなります。また、キューブリックのゆっくりとしたズームの使い方が「いやらしい」「皮肉っぽい」「あざとい」印象を与えることを考えても、この説は十分に説得力を持っていると考えます。ただし、決定事項ではないので、新しい情報がありましたら、加筆するか、また新たに記事を書き起こしたいと思います。

『シャイニング』(北米版)にある、ダニーがTVで『思い出の夏』を観ている「ズームアウト」シーン。

「夏と冬」「海辺と山奥」「初体験と殺人」・・・なにもかもが『シャイニング』と正反対の『思い出の夏』の予告編