Zeiss_Planar_50mm_F0.7_lens
『スタンリー・キューブリック展』で展示された「プラナー50mmF0.7」。ミッチェルBNCカメラに装着された状態。

アポロ計画のためのカール・ツァイス製レンズがオークションに

・NASAのアポロ計画のために設計された希少なカール・ツァイス社製のレンズが、ウィーンでオークションにかけられる。

・ドイツのレンズメーカーであるカール・ツァイス社は「カール・ツァイス プラナー50ミリF0.7」を10本製造し、そのほとんどをNASAに販売した。

・このレンズは、6月中旬のオークションで、10万ユーロ(約1330万円)から12万ユーロ(約1600万円)で落札される見込みだ。

〈中略〉

 「このレンズは非常に効率的に光を集めるので、NASAが月の裏側の撮影に使うことを計画していたという(InsiderはNASAに確認済み)。10本のうち、3本は映画監督のスタンリー・キューブリック(Stanley Kubrick)の手に渡った。彼は映画『バリー・リンドン(原題:Barry Lyndon)』でキャンドルのシーンを撮影するためにそのレンズが必要だった」とシュミットは話す。

 「キューブリック監督は、50ミリ F0.7のカール・ツァイス社製スチールカメラ用レンズ3本を探し出したが、それはNASAのために作られたロットの残りだった」とキューブリックと仕事をした撮影監督のジョン・オルコット(John Alcott)は書籍『ザ・スタンリー・キューブリック・アーカイブ(The Stanley Kubrick Archives)』の中で述べている。

 カール・ツァイス光学博物館のシュミットは「映画史上、初めて人工の光を使わずに撮影することができた」と語っている。

〈以下略〉

(全文はリンク先へ:BUSINESS INSIDER/2021年6月10日





 キューブリックが『バリー・リンドン』の蝋燭のシーンで使用した「カール・ツァイス プラナー50mmF0.7」の同型レンズがオークションに出品され、10万ユーロ(約1,330万円)から12万ユーロ(約1,600万円)で落札される見込みとの記事がありましたのでご紹介。

 キューブリックが使用した「プラナー50mmF0.7」レンズはスチールカメラ用のレンズで、現在世界を巡回中(ですがまだ日本には未到達)の『スタンリー・キューブリック展』に展示されています。オークションにかけられるのは、10本製作されたものの中の一つではありますが、キューブリックが購入した3本ではなく別ロットのものだそうです。それでも約1,330万円〜約1,600万円というのはとんでもない値段ですね。ちなみに6本はNASAが購入、1本はツァイス社が保有していますので、おそらくこれはNASAが所有していたものではないか、とのことです。

 キューブリックが『バリー・リンドン』を制作していた1970年代半ばという時期は、35mmカラーフィルムの品質があまり高くなく、感度も悪いという問題がありました。ですので、人工光のない18世紀のヨーロッパの「空気感」をフィルムに収めるためにはレンズ側を工夫するしかなく、無理やり改造したミッチェルBNCカメラに、F0.7という当時一番明るいとされていた「プラナー50mmF0.7」を装着し、蝋燭の光だけで撮影することを目論みました。ですが、いくら当時一番明るいレンズを用いたところで、「蝋燭の光だけで撮影する」には厳しい制限があり、しかも焦点距離の問題から長大なコンバージョンレンズを装着しなければなりませんでした。また、このレンズではファインダーからは暗くて何も見えなかったため、被写界深度の浅いピント合わせ用に、ビデオカメラを併用したそうです。

 記事によると、カール・ツァイス光学博物館のシュミット氏は「映画史上、初めて人工の光を使わずに撮影することができた」と語っていますが、それは蝋燭のシーンのことです。ですが、そうするために「多少ズル」をしたことはあまり知られていません。例えば当時にはなかった高輝度の蝋燭を作らせ使用したり、レフ板を使って蝋燭の光を効率的に室内に回らせたりといったことです(補助光は使わなかったとのこと。訂正します)。それ以外のシーン(昼間の室内でのシーンなど)では照明(ミニブルート)を使って太陽光を模したりしています(詳細はこちら)。ですので、「『バリー・リンドン』は一切の人工光を使用せず撮影された」というのは間違いですのでお気をつけください。