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●宇宙ステーションVのロビーのイメージボードと撮影されたシーン

 イメージボードでは到着カウンターやバーが見えます。また、大きく開けられた窓からは月が見えます。セットではそれはヒルトンホテルのフロントに代わり、バーは自動販売機へと変更になりました。ずいぶんとシンプルで人の少ないデザインになりましたが、宇宙ステーションという限られた狭い空間に、厨房設備や大きな窓は現実的でないと判断されたのかもしれません。


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●クラビウス基地内の公園のイメージボードと撮影されたシーン(カットシーン)

 キューブリックが公開直前にカットしたことで有名なシーンです。比較すると天井一面の照明や壁のブルー、青々とした芝生(人工芝?)などが共通していますが、映画館やカフェ、学校などは省略され、通路の表示だけがあるがらんとした空間になってしまいました。本来はイメージボードにあるような、樹木も配置する予定だったのでしょうか。であれば、天井の照明はその名残でしょう。樹木を維持するには相当量の光源が必要になるはずです。このシーンにはキューブリックの長女と次女が出演していることでも知られていますが、一番左の少女が長女のカタリーナ、その隣が次女のアンヤではないかと予想しています。


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●クラビウス基地内の会議室のイメージボードと撮影されたシーン

 イメージボードでは球形の機器が見えますが、これはプロジェクターだと思います。だとすると、四方の壁はスクリーンですね。セットでは照明の役目しか果たしていませんでしたが、フロイド博士の挨拶の後、背後のスクリーンには会議の内容の情報が表示される設定だったのかもしれません。セットをよく見るとスクリーン上部に穴が見えます。もしこれがプロジェクターの映像投影口(2つあるのは立体映像的なものを想定していた?)という設定なら、キューブリック(か誰かが)「プロジェクターが部屋の真ん中にあったら邪魔では?」という指摘で壁に埋め込んだ(設定)だと考えられます。細かいことまでこだわるキューブリックなら、そんなことを言い出してもおかしくないですね。

 3点とも凝ったデザインからシンプルなものに変更になっています。これにはいくつか理由が考えられますが、一番大きな理由は予算の問題ではないかと想像します。キューブリックのこだわりのせいでスケジュールは遅れ、予算はどんどん膨らんでいたので、シーンは必要最低限に削られ、セットもシンプルなものに変化していったのだと思います。色については、トニー・マスターズによると「元々いろいろな色をつけたのだが、スタンリーがどんな色も受け入れなかったので、無色(白)にすれば失敗しようがない」とキューブリックに提案したそうです。

 モノリスの形状や色の決定、特撮シーンの撮影アイデア(特に遠心機のシリンダーを通って降りるシーンのアイデアは秀逸)など、『2001年…』におけるトニー・マスターズの貢献は、ファンの想像をはるかに超えるものだったことは『2001:キューブリック クラーク』を読めばよく理解できます。もちろんキューブリックがこだわりにこだわって、安易なレベルで妥協しなかったのも大きな要因ですが、そもそも仕事を依頼したスタッフに、それに応えるだけの優れた才能がなければ成立しません。キューブリックの厳しすぎるとも思える高レベルの要求は、それを見越してのことだったのです。キューブリックの厳しい態度の表面だけを単純に批判し、スタッフや俳優を過剰に擁護や同情(いじめだとか、かわいそうだとか、こんな上司は嫌だとか)する前に、その事実を見逃すべきではないと私は考えます。

 余談ですが、この美術監督にキューブリックは手塚治虫も候補者としてリストアップし、実際にオファーの手紙まで出しています。キューブリックが『鉄腕アトム』を観て、手塚治虫のどこに才を見出したのかは不明ですが、この方面の高い要求を手塚治虫が満たせたとはとても思えません(個人的には手塚治虫の最も偉大な才能はストーリーメイクだと思っています)。手塚自身も「やらないほうがよかった」と語っていることですし、『2001年…』における手塚治虫の存在を「過大に」語るのは控えるべきだと(誤解の元になる)思います。

出典:The official Facebook page of Stanley Kubrick/2021年5月25日