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映画秘宝EX 映画の必修科目01 仰天カルト・ムービー100(amazon)


 『時計じかけのオレンジ』が「カルト映画」と称されることに違和感を感じているファンの方は多いと思いますが、私もその中の一人です。その理由を「『時計…』はなかなかビデオ化されなかったので、その間に幻の作品扱いされてしまったからでは?」と勝手に思い込んでいたのですが、こんなムックが発売されていたのを最近知りました。そりゃ「カルト」と呼ばれるはずです。

 個人的なことで恐縮ですが、私は「映画秘宝」(1995年にムックとして創刊、1999年に雑誌化)という雑誌は存じ上げてはおりましたが、一度も読んだことがありません。理由は「その頃は雑誌を読まなくなっていた」からです。当ブログの前身であるキューブリックのファンサイト「Catacomb」は1998年1月スタートです。当時のインターネットはGoogleもなければwikipediaもありません。資料は全て書籍です。ですので、ホームページ制作のために、キューブリックの一次資料の収集に明け暮れていた私に、この「映画秘宝」を手に取る機会は全くなかったのです。

 というわけで、このムックが映画秘宝編集部のどういう経緯で企画され、出版されたのか、また、その頃の映画秘宝という雑誌の「空気感」を私は全く知らない、という前提で感想を言いますと、「おおよそカルト映画とカテゴライズするにはふさわしくない作品が数多く紹介されている」というものです。これは想像ですが、本を売らんがために、有名作・人気作を敢えて「カルト映画」として紹介しているのではないでしょうか。もちろんそれ自体は版元として、売上をあげたいがための「必要な措置」なのかもしれませんが、ファンにとっては迷惑な話です。なぜなら、わざわざこのムックを古本で購入し、こんな訂正記事を書く羽目になってしまったのですから。

 『時計じかけのオレンジ』に限って言えば、『ロードショー』というミーハー雑誌(敢えて言います。笑)の1972年の読者人気アンケートで堂々「2位」にランクインしている大ヒット・大人気作品が、「カルト映画」であるはずがありません。なにせ1位が『ゴッドファーザー』、3位が『死刑台のメロディ』なのです。こんな作品のどこが「カルト」なんでしょう? では『時計…』以外はどうなのかというと、このムックが『カルト映画』として紹介している作品の一例をピックアップすると、以下のようになります。

『バーバレラ』
『007/カジノロワイヤル』
『サイレント・ランニング』
『悪魔のいけにえ』
『ファントム・オブ・パラダイス』
『ロッキー・ホラー・ショー』
『ゾンビ』
『1941』
『ブルース・ブラザース』
『マッドマックス2』
『ブレードランナー』
『遊星からの物体X』
『ガープの世界』
『死霊のはらわた』
『スカーフェイス』
『未来世紀ブラジル』
『ブルーベルベット』
『ビートルジュース』
『グレムリン2/新・種・誕・生』
『パルプ・フィクション』
『恋する惑星』
『ムトゥ・踊るマハラジャ』
『スターシップ・トゥルーパーズ』
『バッファロー’66』
『ラン・ローラ・ラン』
『ファイトクラブ』
『メメント』
『ズーランダー』

・・・えっと、映画初心者さん向け名作映画紹介ムックでしょうか?(笑。ここまでピックアップすればある事実に気づきます。実はこれらの作品は表紙や裏表紙のカラーイラストに採用されているのです。つまり「本を売らんがための釣り」ということですね。この件に関しては出版当時も批判されたようで、いくつかの書籍レビューでそれを確認することができます。

 このムックが出版された2011年というのは出版不況が騒がれていた頃でした。版元である洋泉社にとっても、出版は慈善事業ではありませんので、本を売らなければならないのは理解できます。ですが、ネットと違って書籍は「残り」ます。出版されたおおよそほとんどの書籍は国立国会図書館にアーカイブされることはよく知られた事実です。つまりネットのように「なかったことにはできない」のです。もちろん版元はそれを承知の上で、このムックを「売ろう」としたのだと思いますが、結局2020年に洋泉社は解散してしまいました(正しくは「双葉社に吸収された」)。つまり「版元は消えても書籍は残ってしまった」わけです。

 まあ、このムックを真に受けた読者の方には罪はないので、あまり厳しくは言いたくはないのですが、この記事にたどり着いた方は、もうこれで「カルト映画」というものを正しく理解していただいたということで、今後は「『時計じかけのオレンジ』はカルト映画」などという間違った認識を流布しないでいただけたら(ネット、リアル問わず)と思います。また、このような二次情報書籍をソースに安易な記事を書く、ネットライター様も同様にお願いいたします。

 なお、このムックには正真正銘の「カルト映画」も掲載されていますので(たぶんこちらが編集部の本音では?)、そちらはそちらで存分に「カルト感」をお楽しみください。また、続編である『映画秘宝EX 映画の必修科目10 仰天カルト・ムービー100 PART2』(amazon)も出版されていますので、よりディープなカルト作品を楽しみたいのであれば、そちらもオススメいたします。