「この曲の意図は『2001年宇宙の旅』によって観客とメディアから生み出された反応、催眠的なビジュアルから形而上学的なイルミネーションまで、さまざまなレベルの解釈と祝福を捉えることでした。また、まだ映画を観ていなかった観客にも好奇心を植え付けたかったのです。『2001年…』は社会現象になりつつありました。」〜マイク・カプラン
  
 何というか、サイケデリック風味な、出来の悪いヴェルヴェット・アンダーグランド&ニコとでもいうか、キューブリックが採用しなかったのも当然な酷い曲です。そもそもここで何とも微妙なピアノを披露しているマイク・カプランとは何者かというと、1968年当時『2001年…』の広報担当者(MGM所属かどうかは不明)で、どうやって映画を宣伝すればいいか悩んでいたキューブリックから「あなたが曲を書くと聞いた。プロモーション用に曲を描いてくれないか?」と依頼され、その時制作したのがこの曲だそうです。カプランはその後『時計じかけのオレンジ』で広報担当になります。『時計…』の特典映像ドキュメンタリー『オー・ラッキーマルコム!』にも出演していますね。

 キューブリックはこの曲の迫力のなさが気に入らず、最終的には映画でも使った『ツァラトゥストラはかく語りき』を広報曲として採用したそうですが、当人はジミー・ウェッブが作った『マッカーサー・パーク』を意識したとコメントしています。ジミー・ウェッブは5thディメンションの『ビートでジャンプ(Up, Up and Away)』の作曲者で・・・と、ここまでくれば、カプランが当時の音楽シーンのトレンドを意識してこの曲を書いたことがわかります。歌を担当したナオミ・ガードナーについては、当時フォーク歌手だったこと以外の情報は見つかりませんでした。

 『2001年…』のスターゲート・シークエンスが当時の若者に「サイケデリック映像」として受け取られ、大人気になったというエピソードはこのポスターや、クラークが見ず知らずの若者からドラッグをプレゼントされたという話(ちなみにクラークはもらったブツをトイレに捨てた)からも伺えますが、ひとくちに「サイケデリック・ムーブメント」と言ってもその影響は映画、CM、音楽、ファッションから家具や日用品まで多岐にわたるので、それを説明するのは難しいです。めちゃくちゃ簡単に言えば「カラフル・チカチカ・ふわふわ・ぐにゃぐにゃ」といった感じです。キューブリック作品で一番その影響を受けているのは次作『時計じかけのレンジ』でしょう。

 1960年代から1970年代前半の「爆発的トレンド」として全世界を覆い尽くした「サイケデリック・ムーブメント」という嵐が過ぎ去った後、一部のマニアや好事家の間で語られるものの、現在では一般的には全く知られていません。ですので「『薔薇の葬列』は『時計じかけのオレンジ』に影響を与えた」という根拠不明のトンデモ論が安易に信じられてしまうといったことが起こってしまうのですが、この両作品が同じくサイケデリック・ムーブメントの影響下で作られている以上、類似点があるのは当然という観点で語れないのであれば、それはもう「知識不足」「認識不足」としか言いようがありません。この『2001: A Garden of Personal Mirrors』という珍曲も、一聴すれば『2001年…』との世界観との差異に違和感しかありませんが、当時のトレンドの状況を知っていれば決して的外れではないことに気づくでしょう。ですが、そのことがこの曲のクオリティを担保するものでもありません。そもそも公表するレベルではないことは自明ですね。

 とは言っても、『2001年宇宙の旅』という偉大な作品におけるちょっとしたエピソードとしては興味深い話であり楽曲です。こういった周辺情報は当時の「空気感」を知る良い手がかりになります。カプラン自身が黒歴史と認識しつつもこうして公表してくれたことに、感謝はしたいですね。

▼この記事の執筆に当たり、以下の記事を参考にいたしました。
WAVE THEORY RECORDS/2001: A Garden of Personal
The Guadian/Space oddity: song rejected by Kubrick for 2001 released after 52 years