「キューブリックの名を騙った詐欺師がいた」というエピソードを元にした、ジョン・マルコビッチ主演の映画『アイ・アム・キューブリック!』の予告編。本作にはキューブリックのアシスタントだったアンソニー・フリューインが参加している


 映画監督のスタンリー・キューブリックは、引きこもりに近い暮らしを送ったことで知られる。社交の場と距離を置いたその人に、ある時期から身に覚えのない苦情の手紙が届き始めた。「貸した金はどうした」「映画に出してくれる約束はどうなった」と。

 ▼調べてみると、キューブリックの名を臆面なくかたり続けた者がいる。悪事の主は、本人と似ても似つかぬ中年男だった(『詐欺と詐称の大百科』青土社)。巨匠の顔を大方の人が知らなかったために生まれた奇談だが、どんなフィクションも色あせそうな、赤の他人の化け放題である。

〈以下略〉

(全文はリンク先へ:産経抄/2020年9月13日




 キューブリックの名を騙り、詐欺を働く人物が存在したという話はファンの間でもよく知られていて、そのエピソードは『アイ・アム・キューブリック!』という映画になるほどです。その人物かどうか、もしくはそういった詐欺師が複数存在していたのか、実際はわかりませんが、ここ日本でも某アングラ小説に映画化のオファーがあった(プロデューサーは信じているようですが)とか、新宿の飲み屋に現れた(某TV局の報道番組で採り上げられた)とか、いくつか「伝説」が残っているそうです。

 もちろん「伝説」であって「事実」ではありません。記事には「顔を大方の人は知らなかった」とありますが、キューブリック関連の書籍は存命中から数多く出版されており、そこには本人の写真も多く掲載されていました。ですので、騙された人はそれすらも調べていなかった、ということですので同情に値しません。

 そういえば何年か前、YouTubeで『スタンリー・キューブリックの死後15年経過し公開!アポロ月着陸の真実は?!』と題された動画を真に受ける人が続出しました。しかし現在、昨今のキューブリック・リバイバルもあり、ご本人の顔が広く周知されるようになってからはそういうコメントは見かけなくなりました。要するに「知らないのが恥」ではなく、「知らないのに調べないのが恥」ということです。知ったかぶって語ったところでこのネット時代、自分より詳しい人など数多存在します。だからこそ「知らないことは知らない」「知らないからこそ調べる」という基本を徹底すべきだと思います。

 高校時代落ちこぼれだったキューブリックは『突撃』の頃まで三角関数を知らず、恥をかきましたが本人はそれを一顧だにせず、専門書を読み漁ってたちまち数学的な才能を発揮し始めた、というエピソードがあります。キューブリックにとって「知らないこと」は恥でもなんでもなく、「新しいことを知るチャンス」だったのでしょう。その筋の専門家に際限なく質問を浴びせかけて困らせた、というエピソードもそれを裏付けています。クリスティアーヌは「(落第者であったことが)キューブリックを生涯の学習者(生徒)にした」」と語っています。

 ところで記事にある『詐欺と詐称の大百科』ですが、ちょっと面白そうですね。機会があれば読んでみたいと思います。


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