Barry_Light
2時間16分頃のシーン。お手元のDVDやBDでご確認を。

 『バリー・リンドン』で、物語後半のレストランのシーンで一瞬だけ窓の外に設置した照明が映り込んでいるというミスが見つかりました。

 キューブリックは自然光照明を使用したことはよく知られていますが、この「自然光照明」という言葉は誤解を受けやすい表現です。ここで言う「自然光照明」とは「自然光しか使っていない照明」という意味ではなく、「自然光を模倣(シミュレート)した照明」という意味で、キューブリックはこの『バリー・リンドン』でも人工照明を多用しています。もちろん有名な蝋燭のシーンでも補助的に照明を使用しています。

 YouTuberなど映像を撮る人が増えてきている現在、いくらカメラの性能がアップしても、照明なしにはまともな映像が撮れないことは周知の事実かと思います。それはキューブリックも同様で、撮影時セッティングに一番時間をかけるのは照明でした。何もこれは秘密にされていたことではなく、照明についてもインタビューなどでたびたび説明していますし、数多くあるドキュメンタリーでも照明を使って撮影するキューブリックの姿が残っています。しかし、どういうわけか「キューブリック=自然光撮影」というワードが一人歩きし、キューブリックや映画に関して無知であるにも関わらず(しかもそれを自覚していないので始末に悪い)、下手に拡散力だけはある泡沫ライターや自称評論家、迷惑系YouTuberなどによって「『バリー・リンドン』は一切の人工照明を使わず撮影した」という現実無視のデタラメ論が拡散され続けています。

 キューブリックの照明に関する考え方は、不満いっぱいでも監督するしかなかった『スパルタカス』と、この『バリー・リンドン』を比較すれば一目瞭然です。

照明1

 『スパルタカス』でのテント内シーンです。篝火は単なる飾りで、強烈な照明が3人の俳優と背景の地図を照らしています。キューブリックはこういったやり方を「ウソくさい」と批判しましたが、当時駆け出しで若造のキューブリックに、ハリウッドのやり方を変えるだけの力は残念ながらありませんでした。

照明2

 『バリー・リンドン』の蝋燭のシーンです。テーブルの蝋燭が3人の俳優の顔を照らし、室内は吊り下げられた蝋燭のシャンデリアで照らされていることになっていますが、おそらく何らかの補助照明は使っていると思われます。ですが、上記の『スパルタカス』よりはるかに「自然」な照明です。

 「バレ」の該当シーンは、午後〜夕暮れを表現するために窓の外に午後の太陽光を模したライトを設置していたのだと思いますが、このバレにキューブリック本人は気づいていたでしょうか? それはわかりませんが、高画質でデジタルリマスターされたメディアで、繰り返し再生される未来を知らず逝去したキューブリックが現在も存命なら、こういった「ミス」はデジタル処理で消させていたと思います(『アイズ…』では映り込んだカメラマンをデジタル処理で消しているが、それがキューブリックの指示であったかどうかは不明)。高精細デジタル化により『バリー…』の美しさ、壮麗さが再評価され、キューブリックの意図した素晴らしい映像を堪能できるようになりましたが、同時にこういった「ミス」も発見しやすくなってしまうという「痛し痒し」な結果に、キューブリックも墓の中で頭をかいているかもしれませんね。