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フランス南西部、ドンム(Domme)の風景(wikipediaより)

 以前この記事でご紹介した通り、キューブリックはフランス南西部の村「ドンム」に別荘を持っていました。この事実を知った時、「旅行嫌いのキューブリックがまさか!」と思ったのですが、調べてみるとこのドンムの地を別荘に選んだ理由が見えてきて、納得できました。

 おそらくキューブリックの家族(特にクリスティアーヌ)はバケーションのひとつもしたがらない旅行嫌いのキューブリックを、なんとか説き伏せようと色々腐心したのでしょう。ですが、旅先ではホテル住まいになり、プライバシーもなく、狭い部屋に長期間家族が押し込められる事態をキューブリックが了承するとは思えません。そうなると別荘ということになりますが、飛行機嫌いのキューブリックを納得させる候補地はロンドンから1日で車で行ける範囲でなければなりません。治安も気候も良いところで、人目につきやすい大都市はNGとなると候補地は結構絞られます。家族はヨーロッパでバケーションと言えばだれもが憧れるプロヴァンスやコート・ダ・ジュールなどの南仏を希望したかもしれませんが、車で行くには遠すぎます。結果、南仏に近いフランス南西部のこじんまりとした、しかし大変美しい村であるドンムに別荘を持つことを決めたのではないでしょうか。

 Googleによるとロンドン〜ドンム間は現在では車で約9時間。当時はユーロトンネルはないのでドーバー海峡はフェリー移動だとすると、乗り換えや休憩を加味して約10〜12時間。朝6時に出発しても夜6時に到着ですので、移動のためのホテル泊を拒否したのなら、これがギリギリキューブリックが了承する範囲でしょう。

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当初ハートフォードシャーの自宅の庭かと思いましたが、あきらかに植物がイギリスっぽくありません。

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赤ちゃんを抱き上げるキューブリック。次女アンヤの長男サムではないかと思われる。

 写真が残っていますので、キューブリックは少なくとも一回はここを訪れています。赤ちゃんを抱き上げていますが、これは次女アンヤの長男サムだと思われます。となると、時期は1990年代前半くらいでしょうか? 作品で言えば『アーリアン・ペーパーズ』『A.I.』の頃ですので、『アーリアン…』で東ヨーロッパでロケ(おそらく撮影中は家を借りるなど長期滞在するつもりだったはず)をする予定だったのが中止され、その代替にこの地をバケーションとして訪れたのかもしれません。

 どちらにしても記事にある通り、売りに出されて随分と時間が経っていますから、すでに他人の手に渡っていると考えるのが自然です。キューブリックファンの「聖地」とするにはちょっと根拠薄弱ですが「フランスで最も美しい村の一つ」だそうですので、近くに赴くことがあれば立ち寄ってみるのも良いかと思います。