David-Hicks-British-Interior-Designer1970年代に活躍したイギリスのインテリアデザイナー、デービッド・ヒックス。公式サイトはこちら

デービッド・ヒックスを紹介した動画。いきなり「シャイニング・カーペット(ヒックス・ヘキサゴン)」が登場します。

「シャイニング・カーペット」が印象的に登場したダニーのミニカー遊びのシーン。

 『シャイニング』に登場した六角形柄のカーペット、ファンの間では「シャイニング・カーペット」と呼ばれるものですが、これは1960年代にインテリア・デザイナーであるデービッド・ヒックスがデザインした「ヒックス・ヘキサゴン」で、キューブリックが「勝手に」コピーしたものでそうです。以下がそのソースです。

 しかし、ヒックスは『シャイニング』の撮影に協力していませんでした。「ヒックス・ヘキサゴン」 カーペットは、1980年に『シャイニング』がリリースされる前の1960年代に作られたもので、オーバールック・ホテルに登場するカーペットは、映画のためのものでも、撮影用にデザインされたものでもありません。 アシュレイ・ヒックス(インテリア、テキスタイル、カーペットのデザイナーとしても非常に成功したデービッドの息子 )は、グラフィックデザインの伝説的な存在で、映画愛好家でもあるMike Dempseyのブログに、父親の仕事について興味深いコメントを残しています。

「私の父はキューブリックのために働いたことはありません。私はキューブリックがヒックスのカーペットを『シャイニング』のためにコピーしたことを、父が自慢のひとつに思ってくれていたらいいのに、と思っています。」

(全文はリンク先へ:Checkmate! The story behind Kubrick’s carpet in The Shining revealed/2017年11月)




 キューブリックは映画で使用するプロップやインテリア、衣装などはよく既存のものを使いますが、それは手早く、そして手広く選択肢を用意したいという理由からだと思われます(例えば『時計…』でアレックスの部屋のベッドカバーは当時売られていた既製品)。その上で、どうしても気にいるものがなければ、オリジナルでデザインさせるという手法を採っていたようです。実際はどうだったかはわかりませんが、例えばキューブリックがカーペーットや壁紙のカタログからこの「ヒックス・ヘキサゴン」のデザインを知り、それを気に入ってオーバールック・ホテルのカーペットデザインに採用した、という経緯が想像できます。著作権意識の薄かった1970年代ならではの、軽い気持ちでコピーしたんでしょうね。

 現在の著作権管理は、その時代とは比べものにならないほど厳密になっているので、どちらにしてもこの「ヒックス・ヘキサゴン」は『シャイニング』オリジナルデザインではない以上、著作権はヒックスにあります。ですので、商品化にはヒックスの許可が必要、ということになります。そうなると、東京・日本橋にあるTOHOシネマズ日本橋のカーペットが「シャイニング・カーペット」である理由は、内装担当者が単にカーペット柄としてこの「ヒックス・ヘキサゴン」を選んだに過ぎない、という可能性が浮上します。まあ、映画館に「シャイニング・カーペット」が偶然敷かれた、というのもちょっとでき過ぎた話なので、この辺りはぜひ当事者に証言して欲しいものです。

 ちなみに、キューブリックがこの「ヒックス・ヘキサゴン」をオーバールック・ホテルのカーペットに採用した理由ですが、前述の引用サイトには

・色彩が幻想的で鮮やかな印象のため、何かの前兆の印象を与えるから

・このグラフィックパターンは、キューブリックが用いる「シンメトリーな一点透視」に効果的で、ドラマチックな視覚感覚と廊下の延長効果をもたらすから

・ヘックス(六角形)の意味は「呪いまたは悪意のある願い」であり、したがってホテル内の邪悪を象徴するから

・カーペットの六角形をキューブリックが好むチェスと戦争ボードゲームのマス目に結びつけることができるから

・六角形の「六」が「シャイン(輝き)」という第六感を象徴するため


という5つの理由を挙げていますが、管理人がこれに加えるとするならば

・原作に登場する邪悪な霊の象徴「蜂の巣」にインスパイアされたため

・永遠に続く迷路のような模様を、他の迷路の要素(ホテルの館内、生け垣迷路)と呼応させるため


の2点を加えたいと思います。

 この「Film And Furniture」というサイトですが、映画に登場したアイテムをベースに商品販売をしていて、『シャイニング』関連ではカーペットや壁紙、マグカップ、ハロランの部屋に飾ってあった黒人モデルのポスターまで取り揃えています。さらに『2001年宇宙の旅』では宇宙ステーションに置いてあったオリビエ・ムルグのジンチェアや、ボーマンらが食事に使ったアルネ・ヤコブセンのカトラリーも扱っています。商品は版権元に許諾を取ったオフィシャルになりますので値段は高めですし、送料もかかってしまいますが、もしどうしても欲しいアイテムがありましたら問い合わせてみてはいかがでしょうか。