リシェン
マリサ・ベレンソンと違う「可愛い美しい」タイプのリシェンを演じたダイアナ・コナー。

 バリーが軍を脱走した際、ひと時の宿と安らぎ得るためにこのドイツ人夫人、リシェンと一時期を過ごすことになりますが、実は原作とかなり違います。原作ではバリーがイギリス軍将校と身分を偽るための、精神疾患患者を装う芝居に付き合うなどかなり快活な女性として描かれています。おそらくキューブリックはこの「精神疾患患者を装う芝居」がレイティングで問題になるだろうと判断して、映画では「ホモ将校が沐浴中にその軍服を奪う」というシチュエーションに変更したのではないか、と推察しています。この件に関してキューブリックは

 そこでの問題は、バリーをどうやってイギリス陸軍から解放させるかということだった。それを描いた本の部分は全く長ったらしくて複雑(※戦闘で重傷を負ったフェーケナムと、殴られ怪我をしたバリーがリシェンの家で療養し、傷の癒えたバリーが熱でうなされうわ言を言うフェーケナムを真似て入れ替わり、ドイツ軍に取り入ると言う算段)だった。2人の同性愛の将校の場面の機能は、バリーが脱出するより簡単な方法を提出することだった。これも小説とは違う道を通って、小説と同じ終点へ行き着いている。バリーは書類と、彼に自由への道をもたらすイギリス将校の制服を盗む。この場面は全く説明的だから、喜劇的な状況が作者(※自分のこと)の意図を隠す助けになる。

(引用先:ミシェル・シマン著『キューブリック』※は筆者補足)


とインタビューに応えていますが、「精神疾患患者を装う芝居」を避けたかったのもその一因ではないでしょうか。

 映画ではロウソクの明かりに照らされた非常に繊細で美しいシーンですが、初めはフェーケナムと名乗っているのに、別れ際には本名の「レドモンド(レイモンド)」とバレてしまっているというのは、例のキューブリックの「わかりにくいギャグ」ですね(笑。あまりの映像の美しさに笑うタイミングを失してしまうのですが、それもキューブリックらしいと言えば言えるでしょう。

 ところで、この『バリー…』ではレディ・リンドンを演じたマリサ・ベレンソンの気品ある美しさばかり語られるのですが、個人的にはこのリシェンを演じたダイアナ・コナーの方が好み。初めて『バリー…』を観たとき、あっさりお別れしてしまう展開に「なんてもったいない!」と思ったものです。

 そのダイアナ・コナーは70歳を超えた現在も女優として主にテレビで活躍中だそうです。