有名な『プライベート・ライアン』のノルマンディー上陸作戦のオハマ・ビーチ上陸シークエンスですが、これについてスピルバーグはキューブリックの『博士…』の影響を明言していて、『シンドラーのリスト』の際キューブリックに対して
「(博士の異常な愛情の)パープルソン空軍基地奪還のシークエンスを憶えていませんか?あなたはあのすごいシーンを長焦点レンズと手持ちカメラで撮りました。基地を撃つ兵士や逃げる記者たち・・・全部手持ちでしたよね」「だから通信隊のカメラと、それにあなたの影響で私はストーリーをああいうやりかたで語り、その後(の)『プライベート・ライアン』でもそうしたんですよ」
(『キューブリック全書』より)
と語ったエピソードを紹介している。
この『プライベート・ライアン』が与えた影響は大きく、当時まだタブーだった戦場の凄惨な描写と、これが戦場の色だと言わんばかりの灰色のくすんだ色彩は、その後の戦争映画のビジュアル面を決定づけたと言ってもいい。ただそれは同時に「戦争=悲劇」の図式のみを強烈に印象づけるものとなってしまい、戦争の本質的な意味を問いただすといった作業は『フルメタル…』以降現在でも遅々として進んでいないのは残念だ。