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『シャイニング』の【北米公開版】にはあって、【コンチネンタル版】にはない「骸骨パーティー」シーン。このシーンの必要性ついては議論が分かれるところ。

 キューブリックは前作『バリー・リンドン』で興行的に失敗し、この『シャイニング』は絶対ヒットさせなければならない状況に置かれてました。当時『エクソシスト』('73)、『オーメン』('76)などが大ヒットし、ホラーブームがわき起こってました。キューブリックはここでいったん自分の作家性を引っ込めて、よりヒットの可能性が高いホラーを次作の題材に選んだのでしょう。また、『2001年…』の時と同じように「自分だったらもっと優れたホラー映画が作れる」という自負もあったはずです。そうやって制作に入り、やがて完成したフィルムを全米で初公開(【初公開版(146分)】※現在は視聴不可)した5日後、以下のシークエンスをカットをします。

(1)ジャックが矢などが並べられたオブジェから声が聞こえたような気がする。すると一人の幽霊がボールを投げ返す。
(2)ジャックの死後、病院に入院しているウェンディをアルマン(ホテルの支配人)が見舞い、そこにいたダニーに「忘れ物だよ」と言ってテニスボールを渡す。(その脚本はこちら

 ここで重要なのは、(テニス)ボールが霊的存在の象徴として強調されている点です。(2)の通り、アルマンはホテルが悪霊に支配されていた事を知っていました。もっと言えば、悪霊が暴れだすとホテルの営業に支障をきたすので、定期的にホテルに「いけにえ」を捧げていたともとれます。つまり「アルマン黒幕説」です。アルマンの行動はボールが霊の象徴として知っていたからこそであり、それを端的に表すシークエンスが(2)になります。これらをカットした理由は「アルマン黒幕説」は割とありがちなラストだと判断したからだと思われます。(個人的には好きですが)また、余韻が薄く謎が残りませんし、ホテルの霊的存在感も削がれてしまいます。キューブリックは「映画のクライマックスで観客の興奮ぶりを初めて目の当たりにして、そのシーンは必要ないと思った」と語っています。『2001年…』でも公開ギリギリのタイミングでナレーションをカットしているように、キューブリックは「蛇足」を嫌います。ただ今回は前作『バリー…』の興行的失敗からより慎重になり、いったんはすっきりと説明するオチを用意しました。しかしその心配が稀有に終わったため、当初の予定通りカットしたのでしょう。

 この「アルマン黒幕説」をカットした【北米公開版(143分)】はキューブリックの目論み通り全米で大ヒットします。そしてさらに以下のシークエンスをカットし、アメリカ以外の国の上映向けに【コンチネンタル版(119分)】を制作します。

(3)面接シーンの冒頭
(4)ウェンディが小児科医にダニーの症状や、ジャックが過去にダニーに振るった暴力のいきさつについて詳しく話す
(5)コロラドラウンジや寝室の説明の一部、迷路の説明
(6)ウェンディはアルマンらとゴールドルームに行った際、ホテルにはいっさいアルコールを置いていない旨の説明を受ける
(7)ウェンディとハロランのキッチンシーンの冒頭
(8)ウェンディが朝食をワゴンに乗せて廊下からコロラドラウンジを歩く
(9)ジャックの朝食時、ウェンディに「よそでは味わえない幸福だ」「初めて面接で来たとき、昔来たことがあるような気がした」「誰でもそんなことがあるが俺のは極端だった」「どこに何があるのかも覚えてる気がした」と告げる。
(10)ウェンディが昼食の用意中、TVが遭難者のニュースを伝える。またまもなく大雪になると報じる
(11)ジャックのタイプシーン、ウェンディとダニーの雪遊び、「木曜日」のスーパー
(12)ダニーがTVで『おもいでの夏』を見ながら「消防車を取ってくる」と言う一連のシークエンス
(13)バーテンダーのロイドとジャックの会話の一部
(14)237号室を調べたジャックとウェンディの会話の一部
(15)ウェンディがタバコを片手に逃げだす事を思案中、ダニーが発作を起こしトニーが現れて「ダニーは遠くへ行ってしまいました」と喋る
(16)ジャックが無線機の部品を3つ外す
(17)ハロランがホテルを心配し、森林警察にホテルの安否を確認するよう促す
(18)「午前8時」のスーパー
(19)ハロランの機内シーンの一部
(20)ハロランが空港に到着し、すぐに雪上車を借りる手配をする一連のシークエンス
(21)ウェンディが『ロードランナー』を見ているダニーにキスをして、バットを持ってジャックの様子を見に行く
(22)ウェンディがクモの巣だらけの部屋を発見し、骸骨(幽霊)がパーティーを開いている所に遭遇し、驚く

(参考サイト:Movie-Censorship.com

 【北米公開版】と【コンチネンタル版】が二種類ある理由はここで検証した通り、この映画版『シャイニング』という物語は基本的にアメリカ人を怖がらせようと作られたものだからです。アメリカ人以外はアメリカのという国が持つ「業」には直接関係がないので、よりシンプルに、スピーディーに恐怖シーンで観客を煽ろうとしたため、別バージョンを用意したのではないでしょうか。もうひとつ考えられるのは、興行成績を気にしていたキューブリックは、北米以外の地域での興行収入を増やすため、上映回数を多くしたかったという理由。この20分以上にも及ぶ大胆なカットは、1日の上映回数を1回増やすのには十分な時間だと言えるでしょう。

結論:【初公開版(146分)】から【北米公開版(143分)】へカットした理由は、興行成績を気にして不本意ながら説明的なラストシーンを用意していたが、公開後の観客の反応を見て必要ないと判断したため。また、完成した作品に【北米公開版】と【コンチネンタル版(119分)】の二種類があるのは『シャイニング』という物語を映画化する際、アメリカ人の業やトラウマを刺激するものに改変してしまったために、それに直接関係ないアメリカ以外の観客には、よりスピーディーに恐怖を味わってもらおうとしたため。また、1日の上映回数を増やしたかったのも理由のひとつと考えられる。

 【北米公開版】と【コンチネンタル版】について、「どちらが好みか?」という議論はよくなされていますが、「なぜ二種類あるのか?」という論考はあまり聞かれないので、私見ですが今のところこれを結論としたいと思います。

加筆・修正:2017年7月28日
加筆・修正:2019年5月19日


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