2024年04月

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oshii_2001

〈前略〉

『2001年宇宙の旅』を見て、脳天に一発食らった、痺れて立てないくらい。

 『2001年宇宙の旅』(1968年)は、SF作家になりたくてしょうがなかった頃に観た映画。SF映画を作りたいっていうんじゃなくて、「SFで一生いきたい」と思ったわけ。高校生だったからね。当時は“シネラマ”って言ってたんだよね、70ミリ映画。スクリーンが横に倍あるんですよ、異様に横長の世界。はっきり言って当時の70ミリ映画っていうのは、ドラマがどうこうじゃなくて単純に“見世物”だったんですよ、当時の認識は。

 確か東京ではテアトル東京でしか上映してなかったと思うんだけど、そこに観に行った。当時はもちろんSFの知識があったから、アーサー・C・クラークももちろん読んでた。(スタンリー・)キューブリックは知らなかった(笑)。で、封切になってすぐ行ったんですよ。映画館の前にモノリスが立ってましたからね。

 かなり前のほうの席で観たので、首がね……スクリーンが大湾曲してて。宇宙船がね、しなってるんですよ(笑)。だからまともな映画観賞っていう感じじゃないんですけど、感動したの。めちゃくちゃ感動した。脳天に一発食らったっていう、痺れて立てないくらいだった。

 いま思うと何をそんなに感動したのか良くわかんないですけど、ただ間違いないのは“音楽”にやられた。観た翌日にレコードを買いに行ったの。それははっきり覚えてる。電車に乗って、隣街かなんかだと思うんだけどレコード屋さんに行って、探して買った。で、その時に店にいたお姉さんがとっても素敵な人で、高校生だった私に懇切丁寧に応対してくれて、なおかつ「素敵なジャケットね」っていうさ。「ツァラトゥストラ聴くのね、キミ」っていう。すっかり舞い上がっちゃって、しばらく通った(笑)。

 昔はさ、レコード屋のお姉さんっていうのが一ジャンルだったんですよ。高校生だから、クラスの女の子とかじゃなくて、ちょっと年上の素敵なお姉さんに一発で痺れたんですね。しかも優しくしてもらったもんだから舞い上がって(笑)。

CGでは“空気”は映らない、模型作って撮った意味がある

 この映画の正体が分かったのは、初めて観てから30年くらい経ってから。人間の進化の歴史とかに興味を持って、自分でそういう本を書いたりして。要するに狩猟仮説ってやつだけどさ、「人間はなぜ人間になったか」っていう。そういう思想的背景っていうか、そのまんま映画にしたような、そういう映画ですよ。ストーリーがすごいとか、ドラマがすごいとか、役者さんがすごいとか、そういう映画じゃないんですよ、思想そのものっていう。それは解るまでにずいぶん時間がかかった。

 それなりに本を読んだり、勉強したりしないと、この映画のバックグラウンドって分からないですよ。単純にビジュアルがすごいっていうさ。こういう映画って、いまCGでもできないですから。でっかい模型作って撮った意味があるんです、確かに。CGでこれやったらもっとすごいものができるだろと思ったら大間違いでさ。CGって空気は映らないから。だから僕はね、これはCGがない時代にこれを作ったっていうことのすごさっていうものが、いまだにあると思う。CGっていうのはあっという間に古くなるんだけど、どんな表現でも。アニメーションと一緒で、人間の手が作ったものってね、最後まで妙な迫力があるんですよ。作画でやったアニメーションって30年経ってもね、ある種の迫力がある。説得力がある。

 だからこの映画は、僕の中のSFってものを舞台にした、いちばん多感だった時代の青春みたいな、ものすごく恥ずかしい……記録(笑)。いま観たら全然違う映画ですよ? 当時は何を観てたんだっていう。だから映画って、再会しないとダメなんですよ。何十回観たってね、それから30年経って観たらびっくりするくらい違う。本当にいい映画の場合はね。

宇宙空間を感覚的に表現した、初めての映画

 この映画を観て「良い」っていう人間の半分以上は、たぶん音楽で覚えてるんだと思う。それぐらい強烈だった。宇宙空間っていうものを表現するのにね、ツァラトゥストラ(※「ツァラトゥストラはかく語りき」)と、あとはワルツの「美しく青きドナウ」っていうさ。宇宙空間を感覚的に表現した、初めての映画ですよ。広がりとか、虚無感とか、静寂とか。

 宇宙って、いちばん表現しにくいもののひとつなんですよ。宇宙の表現って、映画が後々になればなるほど上手くなるかっていうと、そうなってない。いまだにこれを超えるような宇宙空間の迫力っていうか存在感っていうかね、そんな映画ってたぶんないと思う。

 SFでもあるんですよ、宇宙を言葉でどう表現するか? っていうさ。初めて宇宙を日本語にした、光瀬龍っていう作家が大好きなんですけど、彼の最大の功績だと言われてますよね。映画で言えば、この映画です。宇宙の存在感みたいなものをこれ以上に表現できたものは、たぶんいまだにないと思う。本当にエポックメイキングな映画っていうのは、そういうことを指すんですよね。全く違う次元の体験を作り出しているという、これはとても大事なことなので。映画の本質みたいなものだから。生涯に一本でも作れたら……大体無理なんだけど、僕は40年近く映画作っているわけだけど、そこまでは全然いってないですよね。そういうものをいつか作りたいっていう野望はあったとしても。

〈以下略〉

(全文はリンク先へ:BANGer!!!/押井守が語る映画体験「映画は一期一会じゃない、再会するもの」インタビュー/2019年2月1日




 押井守氏が『2001年宇宙の旅』に言及していたのは過去に何度か目にしていたのですが、ここまで当時の思い出と、『2001年…』に対する想いを素直に、赤裸々に語ったインタビューは初めて目にしました。また、昨今のCG中心の映画づくりに関しても非常に的確な指摘をされていて、非常に興味深かったです。

 管理人の個人的な「押井体験」は『うる星やつら』のTVシリーズですね。その後の『パトレイバー』『攻殻機動隊』はアニメに興味を失くしていた時期なのでリアルタイムでは観ていません。その頃の印象的な押井氏の発言に「ジャパニメーションって海外で本当に言われているの?誰か確かめてみたひとはいるの?」(出典不明・記憶曖昧)というものがあります。確かに当時の「ジャパニメーション」というワードは宣伝効果を狙った「一人歩き」の疑念(「全米が泣いた!」的な)がつきまとっていて、管理人も言われていたような海外のムーブメントには懐疑的でした。しかしそれも「アニメ」というよりなじみのあるワードが全世界規模で定着するに至って、杞憂に終わったようです。

 その「アニメ」を世界規模に広げた功績に押井氏の果たした役割は非常に大きいと言えます。まあ、それは門外漢の私が語ることでもないでしょう。ただ、個人的な望みとしてギャグとパロディ満載のドタバタアニメをもう一回くらいは作って欲しいな、と思っています。
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SK_Barry
画像引用:IMDb - Stanley Kubrick

 完璧主義者であったスタンリー・キューブリック監督。彼の映画の欠点についてあえて論じた評論が出版されることになった。

 映画史に残る名作の数々を監督した容赦ない完璧主義者スタンリー・キューブリックは、1970年、自身の映画の欠点を論じた本の出版を阻止するため、法的措置を取ると脅すほど批判に敏感だった。『スパルタカス』や『2001年宇宙の旅』の監督は、この本の著者と出版社に対し、出版を阻止するために「徹底的に戦い」「あらゆる法的手段を駆使する」と警告した。そして、彼の死後25年経った今、キューブリックが誰にも読ませたくなかった本が、半世紀以上遅れて出版されようとしている。

〈以下略〉

(全文はリンク先へ:The Guardian.com/2024年4月21日




 1970年といえばキューブリックは『ナポレオン』の企画を通そうと必死になっていた頃です。キューブリックはこの『ザ・シネマ・オブ・スタンリー・キューブリック』の出版には自分の了承が必要であると契約に明記しており、それを行使したとのことです。記事中ではこの本のどこにキューブリックが「容認できない」とNGを出したのか明確にはわかっていませんが、おそらく『ロリータ』に関しての部分では?とのこと。その内容は

「あまりにも多くの点で、原作を浪費し、貧しくし、ありきたりにし、その複雑さ、ニンフェティズム、エロティシズムを奪っている」

と批判していますが、著した当人は

「脚色された映画版は、原作小説に対する無意味な裏切りだと思った。しかし、私はキューブリックの他の作品のほとんどに大きな賞賛を表明している」『2001年宇宙の旅』を 「偉大な業績 」とし、キューブリックの1957年の第一次世界大戦映画『突撃』を 「酔わせるような洗練された映像の映画 」と評している。

と困惑気味です。

 キューブリック研究者のフィリッポ・ウリビエリ氏(管理人は彼の協力者の一人です)によると

「キューブリックの弁護士とニールの出版社とのやりとりを読むと、非常にショッキングだ・・・キューブリックは自分の映画を賞賛する本を望んでいたが、ニールの本はそうではなかった。それまでの彼の映画は、特にニューヨークでは批判的な批評家もいたが、肯定的に評価されていた。だから、彼は完全に肯定的な本を必要としていた」「キューブリックの映画について非常に正確で偏りのない見方を提供している」「キューブリックに関する文献の中で、欠点をひとつでも見つけるのは非常に難しい」

とコメント。フィリッポ氏の言う「ニューヨークでは批判的な批評家」とは『2001年宇宙の旅』のプレミア公開時、批評家に散々にコケにされた経験(その代表はポーリン・ケイル。詳細はこちら)のことで、1970年になってもその批判から完全には立ち直れてないことを感じさせます。

 それに加えて前述の通り、なかなか思う通りに『ナポレオン』の企画が進まない現状に神経質になっていたであろうことは容易に想像でき(『ナポレオン』の売り文句満載の企画書はこちら)、旧知の友人の映画評論家アレクサンダー・ウォーカーと緊密に協力し、『スタンリー・キューブリックが監督する』という本を1972年に出版したのも、そういった「企画を通したい」事情があるものと推察できます。

 映画が大好きで、人生の全てを映画製作に捧げたキューブリック(決して大げさではない)にとって「作りたい映画を作らせてもらえない」という状況はなんとしても避けなければなりませんでした。それがこの「出版差し止め」という強硬措置に及んだ理由ではないかと思います。そんな事情を知らない著者が「そこまで批判はしていないのに何故?」と困惑するのも当然でしょう。ですが歴史の皮肉と言うべきか、1972年に自身の手で『時計じかけのオレンジ』を製作・発表し、『2001年…』以上の大批判と(生命を脅かすほどの)脅迫に晒されることになります。

 ニール・ホーニック著『ザ・シネマ・オブ・スタンリー・キューブリック』は4月30日、スティッキング・プレイス・ブックスより刊行される予定です。ぜひ邦訳を望みたいですね。
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tubbz_SK

 スタンリー・キューブリック公式Xでもアナウンスがありましたが、コスプレしたアヒルのフィギュアシリーズ「TUBBZ」がスタンリー・キューブリック作品『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』『シャイニング』『フルメタル・ジャケット』とコラボし、それぞれの作品のキャラクターがラバーダックになりました。amazonでも取り扱いを開始し、現在予約受付中。価格は5,940円(変動の可能性あり・税込)、発売開始は2024年7月31日です。公式サイトはこちらです。

TUBBZ 『2001年宇宙の旅』 デヴィッド ボーマン
PVC製 塗装済み完成品フィギュア(amazon)


TUBBZ 『時計じかけのオレンジ』 アレックス デラージ
PVC製 塗装済み完成品フィギュア(amazon)


TUBBZ 『シャイニング』 ジャック トランス
PVC製 塗装済み完成品フィギュア(amazon)


TUBBZ 『フルメタル ジャケット』 ジェイムズ T デイヴィス[ジョーカー]
PVC製 塗装済み完成品フィギュア(amazon)
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