ダニーは年間40日間しか制作に携わることができず、労働時間にも制約があり、午後四時半にはセットから出ることが厳しく定められていた。事実上、キューブリックはカメラの前におけるダニー・ロイド分の時間に関することを高度に効率化しなければならなかった。規定にはリハーサル時間は含まれなかったので、キューブリックはダニーのリハーサルの日を作り、撮影は別の日に設けた。また、キューブリックは、ウェンディが少年を抱きかかえるシーンのために少年のダミー人形を作らせた。
(引用:『映画監督スタンリー・キューブリック』)
よく見なければ気がつきませんが、確かに上記のシーンのダニーは人形みたいですね。引用にはダニー・ロイドの撮影時の制約が理由に挙がっていますが、キューブリックはテイクを繰り返すので、シェリーの体力軽減に配慮した面もあるかと思います。また、ダニーの代役も何人かいたようです。このように映画制作にはありとあらゆる視覚的、効率的テクニックが使用されていて、「映画で描かれていること=その通りの現実を撮影したもの」ではないのです。ところが映像制作における「そうと感じさせる手法(映像の魔法)」を真に受ける傾向は、昨今顕著になってきているような気がします。原因は理解力や読解力の欠如など色々と考えられますが、現在のCG映像の氾濫により、その反動で実写撮影されたものが本物だと短絡的に思い込んでしまう、というのがあるのかも知れません。つまりCGは嘘とわかりやすいばかりに、実写で撮影されたものは全て本物と思ってしまう、ということです。特に若い世代にその傾向を感じますが、「ウブだね〜笑」と笑ってしまえばいいこととはいえ、根本的な原因は「信じやすい」「影響されやすい」そして「洗脳されやすい」ということですから、非常に危険な兆候です。くれぐれも本質を見抜く力、すなわち「洞察力」をもっと磨いてほしいと思いますね。もちろん、それにはキューブリック作品はうってつけですので(ファン心理丸出しで。笑)オススメします。