2022年03月

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 キューブリックがアレックス・ノースに依頼していた『2001年宇宙の旅』のサントラを、大急ぎで録音までしていたのに全てボツにしたのは有名な話ですが、そのボツにした音源がYouTubeにありましたのでご紹介。

 このスコア自体は『2001年〜デストロイド・ヴァージョン〜オリジナル・スコア』としてジェリー・ゴールドスミス指揮により再録音され、CD化されている(詳細はこちら)のですが、上記の音源は1968年1月15・16日にヘンリー・ブラント指揮で演奏されたもの。つまりノースが体調不良で病院からストレッチャーで現場に運ばれてまで録音したものになります。

 そんな苦労話を知っているとついノースに同情したくなってしまうのですが、『Bones』を聴くとどうしても『ツァラ…』が頭をよぎってしまいます。キューブリックは既存曲の仮サントラをノースに聴かせていたのだからそれは仕方ないことかも知れないですが、やはり旧来のハリウッド映画のサントラの域は超えておらず、キューブリックがボツにしたのも納得せざるを得ません。もちろんノースは音楽を映画の主役とは考えておらず、そのシークエンスを効果的に盛り上げるものだと思っていたはず。対するキューブリックは「(映像と)音楽は主役」ですから、このコラボは最初から上手くいくはずがなかったのかも知れません。

 上記動画は6曲までしか聴けませんが、Spotifyでは全曲聴けます(リンクはこちら)。どう贔屓目に見ても『ツァラ…』『ドナウ』そしてリゲティのインパクトには及びませんが、ノースの苦労はしのばれます。こうしてオリジナル音源が聴けるようになって、より一層その思いを強くしますね。
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 イギリスの国立映画・テレビ学校(The National Film and Television School)とは、1971年に設立されたバッキンガムシャー州ビーコンズフィールドにある、ビーコンズフィールドスタジオを拠点とする映画、テレビ、ゲームの学校です。その授業の一環として『2001年宇宙の旅』の白い部屋のミニチュアモデルを製作し、後にCGと合成するという内容の動画がありましたのでご紹介。

 なぜ『2001年…』が選ばれたのかはわかりませんが、ロンドン芸術大学内にある「スタンリー・キューブリック・アーカイブ」から詳細な資料を手に入れることができるから、というのはあるでしょう。とっても羨ましい限りですが、ボーマンを演じたキア・デュリアが『2001年…』公開時に語った、「2001年にはきっと、ニューヨークの53番街にあるおんぼろビルで子供たちがこの映画を勉強しているに違いない」が実現したことになります。もっとも「2022年に」「イギリスの」「施設の整った映画学校で」ですが。そう考えるとなかなか感慨深いものがありますね。
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 以前、開催初期に告知を記事にしました(詳細はこちら)が色々ありまして、結局最終日の午後という時間帯に東京・京橋にある国立映画アーカイブの7階展示室へ駆け込みで鑑賞してきました。

 MONDOは2004年に映画館「アラモ・ドラフトハウス」系列のTシャツ店として誕生、以降系列映画館の上映作品のポスターアートを手がけるようになり、今回展示されているのはそのポスターになります。現在はTシャツやポスターだけに止まらず、アナログレコードの復刻やフィギュア、マグなどを販売しています(公式ショップはこちら)。簡単に言えばファンアート、つまり二次創作なのですが、それぞれのアーティストが独自に解釈したその作品世界は、公式ポスターとはまた違った魅力を放っています。以下は展示されていたキューブリック作品のポスターの解説を管理人が勝手に(公式見解ではありません)させて頂いたものです。

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『博士の異常な愛情』ジェイソン・マン作
米ソのホットラインの赤い電話を爆弾が落ちる地球へ図案化。

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『時計じかけのオレンジ』ロリー・カーツ作
コロバ・ミルクバーに置かれていた女体の自動販売機がミルク・プラスによってできている。

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『シャイニング』ローラン・デュリュー作
ジャックの斧がタイプライターの上部と合体。キーは「REDRUM」とタイプしている。

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『フルメタル・ジャケット』オリヴァー・パレット作
爆炎と化した兵士の姿が人格や個性を抹殺された戦争の真実を表している。

 他にもたくさんの名作映画のポスターの展示があり、どれも「なるほどな〜」というアイデアがあります。東京での開催は終わってしまいましたが、2022年5月19日(木)〜7月18日(月・祝)の期間、京都国立近代美術館の4階コレクション・ギャラリーで開催されますので、関西の映画ファンの方はぜひ訪問してみてはいかがでしょうか。
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エヴァQでシンジ君が食べていた、いかいも不味そうな「ディストピア飯」。

 ここ数年ですっかりネットミームとして定着した感のある「ディストピア飯」。その元ネタは『2001年宇宙の旅』でボーマンとプールが食べていた宇宙食だと言われています。まあそれが事実かどうかは置いといて、エヴァQでシンジ君が食べていた不味そうな食事がその普及に一役買ったのは間違いないでしょう。この記事ではアニメに登場したいわゆる「ディストピア飯」をまとめてみました。

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タイトル:『学園アイドルマスター』ゲーム本編内OPアニメーション
制作:2024年
作った人:料理が得意な花海咲季
作った飯:アスリート向けの食事「トップアイドル養成ごはん」


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タイトル:『月とライカと吸血姫〈ノスフェラトゥ〉』第2話『宇宙飛行士への道』
制作:2021年
食べさせられた人:イリナ・ルミネスク
食べさせられた理由:宇宙飛行士訓練施設の食堂で出された宇宙食。


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タイトル:『ダーリン・イン・ザ・フランキス』第16話『ぼくたちの日々』
制作:2018年
食べさせられた人:13部隊のコドモたち
食べさせられた理由:第13都市に配給された食料。


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タイトル:『遊戯王VRAINS』第19話『闇に葬られし事件』
制作:2017年
食べさせられた人:藤木遊作
食べさせられた理由:少年時代の遊作が監禁された際に出された食事。


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タイトル:『金田一少年の事件簿R』第11話『獄門塾殺人事件 ファイル2』
制作:2014年
食べさせられた人:金田一 一と太陽荘の生徒
食べさせられた理由:獄門塾の太陽荘で出された勉強食。


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タイトル:『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
制作:2012年
食べさせられた人:碇シンジ
食べさせられた理由:連れてこられた旧ネルフ本部で出された食事。


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タイトル:『ノエイン もうひとりの君へ』第6話『ナミダノジクウ』
制作:2005年
食べさせられた人:上乃木ハルカ
食べさせられた理由:ラクリマ時空界の独房で出された食事。


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タイトル:『機動新世紀ガンダムX』第37話『フリーデン発進せよ』
制作:1996年
食べさせられた人:パーラ・シス
食べさせられた理由:フリーデンの食堂でパーラ・シスたちが食べていた食事。


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タイトル:『新世紀エヴァンゲリオン』第6話『決戦、第3新東京市』
制作:1995年
食べさせられた人:碇シンジ
食べさせられた理由:入院中のシンジに綾波レイが運んできた食事。食べたくないとゴネる。


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タイトル:『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』
制作:1980年
食べさせられた人:ゴドー
食べさせられた理由:育児ロボット・オルガが作った食事。悲しそうに食べるゴドーに後でおいしそうなパンケーキ(?)を与えた。


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タイトル:『機動戦士ガンダム』第4話『ルナツー脱出作戦』
制作:1979年
食べさせられた人:アムロ・レイ
食べさせられた理由:ルナツーで拘留された際出された食事。ガンダムのコンピュータの説明に使った。


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タイトル:『宇宙戦艦ヤマト』第13話『急げヤマト!!地球は病んでいる!!』
制作:1974年
食べさせられた人:古代進
食べさせられた理由:この回では「早いこと飯食ってアレ(ガミラス人)を見に行こうぜ」と言っているが、第16話『ビーメラ星、地下牢の死刑囚!!』では「あーあ、今日もおんなじものかよ、いい加減食い飽きたなもう・・・」と文句を言っている。



 以上ですが、まだまだあると思いますので情報提供をお願いしたいと思います。ただ「ディストピア飯」と言っても未来食や宇宙食でしかありませんし、元ネタと思われる『2001年…』でも宇宙食として登場しただけでディストピア(アンチユートピア)としての描写はありません。まあでも不味そうでもその飯を食べざるを得ないという不幸な状況を「ディストピア」と表現できなくもないので、募集するディストピア飯は『2001年…』に登場した飯(仕切りのあるランチプレート、不味そうなペースト状の人工食料、簡易パッケージの飲料など)に近いものとさせていただきます。ご存知の方はぜひ掲示板Twitterに情報をお寄せください。よろしくお願いいたします。

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キューブリックもまさか公開から50年以上も経ってもネタにされるとは思っていなかったであろう、『2001年宇宙の旅』に登場した元祖「ディストピア飯」。

追記:2024年5月31日
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画像引用:IMDb - The Shining

 ロンドンより—『シャイニング』はスタンリー・キューブリックの「超ヒット作」(『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』の半分の成績でもいい、と彼は私に言った)であり、スコアの値を均等にするための試みである。『シャイニング』が商業的に成功すればキューブリックにとって、彼の基本的な信念のひとつが正しいことを証明することになる。「もしある物語に私が十分に興味を持ち、2、3年かけて映画化するならば、他の多くの人々も同様に興味を持つだろうと私は信じている。もし映画の出来が良ければ、配給会社や興行主が売り込みで致命的なミスをしない限り、適切な観客を見つけられないことはないだろう」

興行成績についての記述なので〈中略〉

「『シャイニング』を選んだのは、商業的な価値だけではない」とキューブリックは言う。「ある物語が私の注意を引くためには、それが映画的な可能性を持っていなければならない。映画で何ができるかを考えるうちに、ますます興味が湧いてきたら、私は決断を下す。ワーナー・ブラザーズが送ってくれたスティーブン・キングの小説に興味を持ったのは、読者に次の展開を予想させる方法だった。この小説には独創的な物語があり、私は魅力を感じたのだ」

 『シャイニング』はキューブリックの最高傑作でもなければ、最大の賭けでもないが、大勢の観客とつながりを持とうとする彼の最も野心的な試みである。「私は映画で華々しい成功を収めたことがない。私の評判は徐々に高まってきており、多くの人が私のことをよく話してくれるという点で、私は成功した映画監督と言えるかもしれない」(ジャック・クロールが『シャイニング』を「最初の壮大なホラー映画」と呼んだニューズウィーク誌5月26日号が、彼が話している目の前に置かれている) 「だが、私の映画で満場一致で好評を博したものでもないし、大ヒットしたものもない」

 しかし、私との会話の中には、キューブリックが18年間イギリスに住みながら、アメリカ映画を作ることができるという映画界のあらゆる疑念に証明したいのだということがしつこく示唆されている。これは、彼が実際には無申告の国外居住者であり、ポーリン・ケールが『バリー・リンドン』のレビューで主張したように、彼のアメリカのルーツから切り離されたという見方に対する対抗措置だ。

 ブロンクスで育ち、映画に熱中していた若い頃、キューブリックはある種の映画評論家を高く評価していた。しかし一度この仕事に就くと、「映画評論家というのは、一般大衆の好みと一致した時だけ重要視されるようだ」という結論に達した。ニューヨーク・タイムズのボスリー・クラウザーが『博士の異常な愛情』を「非アメリカ映画」と呼び、反逆罪に近い行為だと繰り返し非難したことだけでなく、キューブリックにほとんどの評論家(「良く書く人でさえ」)は愚かだと確信させたのは、1968年の公開時に『2001年宇宙の旅』が受けた大打撃であった。ポーリン・ケールは「想像力のない映画としては記念碑的」と書いている。スタンリー・カウフマンは「大きな失望」と言った。「信じられないほど退屈」とはレナータ・アドラー。ジョン・サイモンは「残念な失敗」と書き、「がさつな神の物語」と肩透かしを食らわせた。「大惨事」とアンドリュー・サリスは言った。

良いレビューは役に立つ

 その後、キューブリックの作品について評論家が書いたものは、彼にとって重要なものではない。良い批評はマーケティング・ツールとしてのみ有用である。「私は映画批評を読んで自分の作品について何かを学んだことはない」と彼は言った。彼は評論家と友好関係を築いたことはないし、自分の映画に関するプレスリリースも発行していない。また、自分の作品について「説明」することもない。彼はニューヨーク・タイムズ紙の映画広告のページに目を通し、他の広告との競争の中で『シャイニング』のロゴの有効性を研究している。「今、上映されている映画の半分は傑作だ」と彼は笑う。「ワクワクするような、魅惑的な、痛々しいほど美しい」。彼は紙を折りたたんで一言「評論家たち 」と言ってそれを片付ける。普通の人が「ふしだら女」と言うのと同じように、彼はそう言った。

 しかし『シャイニング』には、監督の助けなく映像を見ただけでは誰も推し量れないことがある。スティーブン・キングの小説とキューブリックの映画との間には、いくつもの重大な変更がある。最も明白なのは両者の結末の違いで、映画ではオーバールック・ホテルの終末的な爆破は避けられている。キューブリック監督は、H・P・ラヴクラフトのエッセイを引用し、「神秘的なものは決して全部説明してはならない」と述べているが、それでも彼はいくつかの詳細について明らかにすることに同意している。

 「非常に早い段階で私は、この小説の結末ではダメだと思った。従来のエンディング、つまり大きな悪の巣窟が崩壊するのは嫌だったんだ。そこで、ジャック・トランスが迷い込み、斧を持って息子を追いかけようとする生け垣の迷路のアイデアを思いついたんだ」「生け垣の動物が動いて犠牲者を追いかけるなど、小説ではうまくいっているシーンがいくつもあるが、映画の脚本では陳腐に見えると思い削除した。きしむ扉も、クローゼットから転がり出てくる骸骨も、通常のホラー映画にあるようなものはない。この種の物語では、信憑性の確立が最も重要であり、そのため映画のビジュアル・スタイルにおいて、ありのままの自然さを確立しようとしたのだ。伸びる影も、メロドラマ的なハイライトもない、ありのままの光で撮影している。ある家族の男が静かに狂っていく物語なのだ」

映画のキャスティング方法

 「ジャック・ニコルソン以外に誰が父親を演じることができるだろうか?シェリー・デュバルは素晴らしい女優であると同時に、ジャック・トランスのような男が息子に残忍な暴行を加えたことを知っていながら、結婚生活を続けるような女性を完璧に体現していると思う。ジェーン・フォンダに演じさせるわけにはいかないだろう。スキャットマン・クロザースが選ばれた理由は『キング・オブ・マーヴィン・ガーデン〜儚き夢の果て〜』や『カッコーの巣の上で』でニコルソンと共演していたからだ。ダニー・ロイドは苦労して見つけた。私の助手の一人であるレオン・ヴィタリは、デンバー、シカゴ、シンシナティなどいくつもの都市を訪れ、5000人以上の応募者、つまり演技経験のない少年たちと面接を行った。その中から最も有望な者(数百人)をビデオに撮って即興で演じさせ、そのテープを私のところに送ってきた。最終的に5人に絞られたが、その中でダニーが一番良かった。私たちは、本物の演技力、つまり集中力と効果的な演技力は、おそらく1000人に1人の割合で持っている天賦の才能だという結論に達した。ダニーは演技指導を受けたことがなく、撮影時にはまだ6歳にもなっていなかったが、彼の演技を見ると、演技のすべてを理解していると思うだろう」

 キューブリック監督は批評的分析を軽視しているが、『シャイニング』で最も完璧に実現されたシーンのひとつ、ジャック・トランスが妻をゆっくりと、呆然と、ダークにコミカルに追いかけるシーンは、ハンバート・ハンバートが大きな屋敷の中でキルティをつけ回して殺害する『ロリータ』の同様のシーンを強く思い起こさせるものだ。トランスは妻に近づきながら、ナボコフが『ロリータ』の冒頭で述べた「私の人生の光」という言葉を口にする場面もある。「完全に無意識のうちに」とキューブリックは言う。「もし作品の中の意図しないパターンが意図的なものと同じくらい正当なものであるなら、おそらく私の作品はそれに満ちているのかもしれない」

彼が得た最高のニュース

 メモリアルデーの週末の結果を受けて、キューブリックは私に「ワーナーのみんなは息をひそめている」と言った。「どうやら、モンスターヒットの予感がする。日曜日の興行収入が金曜日の記録を塗り替えたんだ。ここ数年来で最高のニュースだ」。今後の計画については 「ナポレオンの映画についてはここ数年真剣に考えたことはなかったが、一時はそのプロジェクトに着手する用意があった。当時の衣装に関する図版を5000点以上、ライブラリーでクロスリファレンスしていたんだ。このテーマで500冊以上の本を集めた。しかし今はインフレのため、この映画は5000万ドルから6000万ドル程度になるだろうし、上映時間も3時間以内に収まるかどうか自信がない。実現可能なプロジェクトとは考えていない。アーサー・シュニッツラーの小説『夢小説』に魅了され続けているが、今はまだ明確な計画はない。それに言葉からイメージに変換する全ての問題を解決する方法は見つかっていない」

 キューブリックは先週、『シャイニング』の最初の25枚のプリントのすべてのリールを個人的に調べ、サウンドミックスと再生、そして各プリントの視覚的品質(色と明るさ)が彼の承認に合致しているかどうかを確認した。次の仕事は、外国語のプリントを準備し、オリジナルが設定した基準にできるだけ近いことを確認することである。

 彼は「狂気の完璧主義者」とも呼ばれるが、自分のこだわりを芸術家としての責任だと考えている。重要なのは、自分の作品に対する彼自身の判断と、一般大衆の反応の2つだけである。『シャイニング』の公開とそのマーケティング・プログラムによって、キューブリックは一般大衆と直接接触することを目指している。アカデミー賞(彼は一度もノミネートされたことがない※注:これは間違い)、映画祭での受賞、評価する批評といった飾り気は、すべて無視することができるのだ。

 ジョン・ホフセスは1979年にカナダで批評文のナショナル・ニューペーパー賞を受賞している。

(この記事は1980年5月、ソーホーニュース誌に掲載された)

(引用元:SCRAPES FROM THE LOFT/KUBRICK: CRITICS TO BE DAMNED – INTERVIEW BY JOHN HOFSESS




 このインタビューもいくつかの記述のソースになっているものです。キューブリックがラヴクラフトを読んでいたというのは興味深いですね。このことからも広範囲で旺盛な読書家であることがわかります。

 キューブリックはこのインタビューでも小説『シャイニング』に「魅力を感じた」と語っていますが、「結末がダメ」とか「恐怖の描写が陳腐」とか全否定なことも言っています。個人的にはキューブリックは本音では小説『シャイニング』を気に入ってなかったのではないか?と思っています。『ロリータ』『破滅への2時間』『時計じかけのオレンジ』『バリー・リンドン』『ショート・タイマーズ』『夢小説』・・・どの小説もキューブリックが好きになりそうな要素が見つかるのですが、『シャイニング』にはどう考えてもそれを見つけられません。やはりステディカムの存在とホラーブームへの便乗が映画化への判断を後押ししたのだと思います。ワーナーが映画化権を持っていた小説を素直に選んだのも、ワーナーに対する「恩義」(前作『バリー・リンドン』の興行的失敗)を感じてしまいます。

 まあ、それが事実かどうかは今更知りようがないのですが、約20分も短い国際版を用意したのも興行成績を意識したものだと考えられます(20分カットすれば1日の上映回数を1回増やせる)。記事は全米公開直後の時期のものですが、興行成績を気にしていることはこのインタビューでも言葉の節々に伺えます。キューブリックは興行成績と芸術的野心を同時に達成し、それを生涯に渡って維持した稀有な映画監督です。興行成績は自身の映画製作の自由度に直結するということが嫌というほど身にしみていたのです。かといって自分の「表現」で妥協したくない・・・それが一番よく表れているのがこの『シャイニング』だと思っています。
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