公開当時、その衝撃的な内容が大きな話題を呼び、まさに時代を画すクラシック作品となったスタンリー・キューブリック監督作品『時計じかけのオレンジ』。主人公のアレックスを演じたマルコム・マクダウェルは、この作品をきっかけに一躍世界的なスターになり、今も映画やテレビで精力的に仕事を続けている。映画公開40周年を機に、若くして天才監督キューブリックの作品に出演した経験と撮影の裏側をマルコムが語った。
「映画を作っているときは、この作品が良いものなのはわかっていたけど、どれほどのものなのかはわからなかった。今のようなアイコン的な作品になるとは思ってなかったよ」と当時の気持ちを振り返るマルコム。彼がアレックス役に抜てきされたのは、彼の初出演作、リンゼイ・アンダーソン監督の『if もしも‥‥』の演技のおかげだったそうで「数年前に、スタンリーの夫人クリスティアーナに聞いたんだけどね。スタンリーは、自宅で映写技師と『if もしも‥‥』を観ていた。それで、僕が出てくる最初のシーンで止めさせて、また同じシーンをかけさせた。それを5回繰り返したんだ。そして彼女に向かって『僕たちのアレックスを見つけたよ』と言ったそうだよ」とその経緯を語った。その後は「スタンリーに会っておしゃべりしただけ」でいわゆるオーディションはなかったのだという。
そうして製作が開始された本作には、その後、さまざまなアートシーンに影響を与えたアイコン的な場面がたくさん登場する。その一つは、リッドロック(まぶたを開かせる器具)をつけられたアレックスが、暴力的な映像を無理矢理見せられるシーンだ。「スタンリーがリッドロックをつけられた患者の写真を見せてくれた。それで僕が『ナイスだね』と言うと、『君にこれをやってほしいんだ』と言う。『そんなこと絶対無理だよ。どうやってやるんだい? そんなことをやる役者はどこにもいないよ』と僕は言った」と語るマルコム。「撮影中、リッドロックがしょっちゅうずれて外れかけて、もちろん角膜を傷つけたよ」というから撮影はさぞや大変だったに違いないが、「僕は最終的にはそういうことをやるのは気にならなかった。作品をよくするためだったからね」と撮影を振り返った。
もう一つの有名なシーンは、アレックスが「雨に唄えば」を口ずさみながら女性を暴行するシーンだ。この曲は、キューブリックが皮肉をこめて選曲したのだと思いきや、実はマルコムがたまたま歌った曲だったという。「あれは、5日間どうやればいいかと考えあぐねていたシーンなんだ。カメラはその間回っていなかった。朝、セットに行くと、ハロッズ(デパート)のバンが止まっていた。スタンリーが家具を変えたんだ。家具を変えたら、何かマジックが起きるかと思ったようでね。もちろんそんなことは起きなかったよ。そして5日目に『踊れるかい?』って僕に聞いたんだ。それで、歌詞を半分くらい覚えていた唯一の曲を歌いながら、踊ったんだよ。パーフェクトだったね」
さらに「マドンナもデヴィッド・ボウイもコピーした」というアレックスの衣装も、まずは監督の自宅で衣装選びを行なったそうだが、「そこには何もいいものがなくて、僕はクリケット用の衣装が車にあるから、取ってくるよって言ったんだ。それを見せたらスタンリーが気に入ったんだよ。『その白いのはいいね。プロテクターを外側につけてみて。中世みたいだ』とね。僕も素晴らしいアイディアだと思ったよ」と偶然によってルックスが決定していったのだという。
映画作りはコラボレーションとはよくいわれるが、キューブリックのような完璧主義者として有名な天才監督でさえ、すべてをコントロールしているわけではなく、こうした偶然に助けられて作品を作っているというところがとても興味深いところだ。(吉川優子)
(シネマトゥデイ映画ニュース/2011年6月21日)
過去に幾度となく語られたエピソードです。念のためにスクラップしておきます。