キューブリックブログ記事

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初期のストーリーボードに描かれたモノリス発掘現場。正四面体で、すでに黒色も検討されている。『前哨』のシーンにかなり近い。

 正四面体とピラミッド(四角錐)の違いは底面が三角形か四角形かの違いです。正四面体はさらに「立体を構成する4つの面の全てが正三角形」という条件があります。そんな細かいことどうでも・・・と思われるかも知れませんが、クラークは正四面体に「立体図形の中で一番単純かつ基本。おおよそ様々な哲学的・科学的思索を生み出した形」という意味を込めているので、ここは間違わないようにしておきたいですね。まあ、当のキューブリックやクラークが便宜上「ピラミッド」と発言するものだから、混乱してしまっていますが。

 そんな正四面体であるモノリス初期案ですが、キューブリックもクラークもこのアイデアが気に入っていたのか、以下のようにかなりの期間、検討された痕跡があります。

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模型の段階になっても正四面体。

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セットの立て込みが始まっても正四面体。

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週間少年マガジン1968年3月24日号(公開直前)の『2001年宇宙の旅』特集で掲載されたイラストも正四面体。ネタバレを嫌ったキューブリックが古い資料を渡したのかも知れません。

 結局ルーサイト(アクリル)制作会社が透明な正四面体で作れず、透明なタバコの箱型ならできるという都合で透明の箱型モノリスが完成。それを見たキューブリックが「完全な透明じゃない」とガッカリし、美術監督のトニー・マスターズが「じゃあ黒にしましょう」となって、現在劇中で観ることができるモノリスになりました。クラークの小説版に出てくる「1:4:9(最初の整数1、2、3の自乗)」という箱型モノリスの比率は、クラークが「あとで思いついたもの」と発言しています。つまり「後付け設定」ですね。


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解説動画です。おわかりいただけただろうか・・・。

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こちらはボーマンだけがニュースパッドを持って通路を歩くシーンの撮影風景。最終的にHALの目と二重露光された。

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セットの外観写真。遠心機に降りる穴とHALの裏側が見える。

 この複雑極まりないセットと撮影方法は、さすがのキューブリックも理解に苦しんだらしく、トニー・マスターズは監督のオフィスの黒板にスケッチし、午前一時頃になってようやくキューブリックが「どうやらわかったぞ!君が何を言いたいのか、わかった気がする」と言ったそう。

 キューブリックは出来上がったこのショットを大いに気に入ったそうですが、キューブリックが理解できなかったものを観客が理解できるはずもなく、このシーンの撮影方法は多くのファンにとって長い間謎のままでした。上記の解説動画を見ればなるほど単純ですが、回転の切り替わりが全くわからないというのは、今観てもやっぱりすごいですね。

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一見合成を使ったように見えますが・・・。

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セットの設計図によると、両者の間には45度に傾けた鏡が設置されています。

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垂直に据え付けられたディスカバリー号のコクピットのセットに座るゲイリー・ロックウッド。

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セットは水平にも置けるように設計されていた。

 以前も記事にしたように、キューブリックはなるべく合成のプロセスを減らそうと、ありとあらゆるアイデアを駆使して「合成なしの一発撮影」をしていますが、このシーンはその好例です。

 セットの図面にあるように、カメラは左上から真下を向けてセットされています。その真下にいるのはプールで、カメラを見上げています。一方のボーマンは通路を普通に歩いていますが、両者の間には45度に傾けた鏡が設置されているのです。ただ、このままだとボーマンの服が左右逆さまになるので、あらかじめ左右逆さまの服を用意したのではないかと思っています。

 この方法だとセットは大掛かりになりますが、合成のプロセスは不要になります。それも大切ですが、そのシーンの撮影に入ってから、その場でアイデアを出し合って俳優の動きやセリフを決めるキューブリックのやり方は、このように合成などの後処理がないことで自由度が広がります。現在のCG前提による映画撮影では、あらかじめシーンの要素の全ての動きを決めておかなければならないので、どうしてもアクションや、セリフまでもが紋切り型になりがちです。つまり「表現」が「プロセス」によって固定されているのです。キューブリックは「表現」のためには「プロセス」を厭いませんでした(その代わりそれに振り回されたスタッフは疲労困憊でしたが・・・)。このことが現在の監督の作家性を摩滅させているのだとしたら、なんとも寂しい時代です。

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右手にグラスを当て、落として割ってしまうボーマン。

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年をとり、老眼であることを示すように眼を細める演技まで計算されている。

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撮影は1966年夏。モノリスのシーンはカチンコによると7月7日となっている。

 『2001年宇宙の旅』の終盤、「白い部屋」(カチンコには「Hotel Room」と書かれている)でのシークエンスで、食事中のボーマンがグラスを割ってベッドの年老いた自分に気づくアイデアは、演じたキア・デュリアが

「何かを聞いたり何かを感じたりする瞬間を(今までのシーンと)違った形で迎えてみたい。グラスを突き倒して、身をかがめようとして、その動きの途中で何かを感じ取れるようにすれば、これまでのやり方の繰り返しにならなくて済む」(出典:『2001:キューブリック、クラーク』)

 と提案しました。これに対してキューブリックは許可を出し、その日の撮影日報に「とてもよい」と書き込んだそうです。

 ところでこの「白い部屋」、2017年に銀座の資生堂ギャラリーで異星人が燃やしてしまった状態を再現した(と思いますが、説明はありませんでした)『善悪の荒野(Beyond good and evil, make way toward the waste land.)』として展示されました(詳細はこちら)。ここでもこの「割れたグラス」は再現されており、ちょっと驚いたものです。この展示、期間限定で東京のみだったのですが、作品が残っていれば再度展示して欲しいですね。

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『善悪の荒野(Beyond good and evil, make way toward the waste land.)』と題されたアート作品。

beyond3ボーマンが割ったグラスまで再現されている。

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目の光ったヒョウに襲われるテリー・ダガン。

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ヒョウに襲われる猿人を演じたテリー・ダガン。

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テリー・ダガンは1年近くヒョウとの友情を育んだ。

 まあキューブリックにもしものことがあれば、そこでこのプロジェクトは潰えてしまうので仕方ないにしても、キューブリック作品の撮影現場では「自分の安全には神経質だが他人の安全には無頓着(撮影に夢中になると更に)」というキューブリックの姿がよく見られたそうです。

 このシーンでヒョウに襲われているのは、「月を見るもの」を演じたダン・リクターではなく、調教師のテリー・ダガンでした。さすがのキューブリックもこの撮影は大変危険なものであることは承知していたので、キューブリックにしては珍しくたった2テイクでOKになりました。

 ちなみにヒョウの目が光っているのはカメラ側から背景写真を投影している、いわゆる「フロント・プロジェクション」が原因ですが、キューブリックはこの偶然を「ヒョウの凶暴性が強調される」と喜んだそうです。

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