キューブリックブログ記事

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 『キューブリックに愛された男』『キューブリックに魅せられた男』さまよりPR画像のご提供していただきましたので、それぞれの画像の解説をしたいと思います。まずは『キューブリックに愛された男』ことキューブリックのパーソナルアシスタント兼運転手、エミリオ・ダレッサンドロから。

 エミリオは元プロレーサーという経歴の持ち主で、ロンドンのタクシー会社で運転手をしていたところ「ホークフィルムズ(キューブリックの映画制作会社)からある“貴重なイチモツ”郊外の撮影現場へ運んでほしい」とのオファーがあり、そこまでの悪路と路面の凍結の影響を考え、一番運転技術に優れたエミリオが選ばれました。その経緯を知ったキューブリックがその技量を高く評価、個人的に雇い入れたという経緯です。

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 『フルメタル・ジャケット』でマシュー・モディーンと。おそらくフエへの道中(虐殺現場が見つかったという知らせを受ける)のシーンが撮影されたミード・ウォールだと思われる。

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 キューブリックとエミリオとキューブリック家の愛犬のゴールデンレトリバー。場所はキューブリック邸のキッチン。1994年7月のエミリオ送別会。

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 キューブリックとエミリオ。場所はキューブリック邸の庭。背景に見えるのはキューブリックお気に入りの木立で、数年後にキューブリックはここに埋葬されることになる。

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 『アイズ ワイド シャット』でトム・クルーズと。エミリオは新聞スタンドの販売員として、クルーズに新聞を渡す役で出演している。ただ、そのシーンの撮影に2週間もかかってしまったそう。

 次に『キューブリックに魅せられた男』ことレオン・ヴィタリ(映画ではヴィターリとの表記ですが、日本ではずっとヴィタリ表記だったのでそれに準じています)について。

 『バリー・リンドン』でブリンドン卿を演じた後、キューブリックの制作アシスタントに。『シャイニング』ではダニー・ロイドの相手役やアメリカのロケハンなどを担当。『フルメタル・ジャケット』では俳優としては素人だったリー・アーメイの台詞コーチとして、『アイズ ワイド シャット』では謎のパーティーの赤マントを演じました。

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 『バリー・リンドン』のライアン・オニールと。

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 『シャイニング』のセットで撮影中のキューブリックと。左下にラッシュ用のビデオモニタが見える。

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 『シャイニング』のセットでジャック・ニコルソンやスタッフとふざけあうレオン。

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 レオンとダニー・ロイド。撮影現場でのレオンの主な役割はダニーの「子守り」だった。

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 『フルメタル・ジャケット』でリー・アーメイ、マシュー・モディーンと。市街戦のロケが行われたロンドン東部のベクトンガス工場跡地にて。映画後半にアーメイに出番はないが、アドバイザーとして映画全般に関わった。

 『キューブリックに愛された男』『キューブリックに魅せられた男』は11月1日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国カップリング上映されます。公式サイトはこちら


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「午前十時の映画祭」も今回で最終回。違う形でもよいので、ぜひ復活してほしいですね。

 2019年10月5日、TOHOシネマズ日本橋にて「午前十時の映画祭10 - FINAL」で上映された『時計じかけのオレンジ』を鑑賞してきました。

 まずアスペクト比ですが、キューブリックの意図通りのヨーロッパビスタ(1.66)でした。次に上映品質ですが、2015年に上映された『ムービーマスターズ』のバージョンより画質・音質ともに向上していたと思います。リマスタリングの一定の効果はあったと感じました。なぜ「一定の」という表現なのかと言いますと、やはり公開が1971年ということを考えると、限界があるからに他なりません。

 この時代、カラーフィルムがやっと一般化した頃で、カラーの35mmフィルムの画質はまだまだ悪かった時代です。キューブリックもフィルム品質の安定には苦労していたという話も伝わっています。それが安定するのは『シャイニング』の頃、という話もあります。ソースであるマスターネガの画質が悪ければ(キューブリックはその悪条件下でも最大限努力したとは思いますが)、いくら解像度を上げたところでどうしようもありません。『時計…』のDVDからBDへの移行の際、「思ったほど画質が向上していない」という評があるのも、ソースであるマスターの画質の問題があるのではないかと考えます。そうなると、画質の向上は解像度よりもマスタリング技術に大きく依存するということになり、今後その技術の向上がより重要になってくるでしょう。

 同時にそれはサウンドトラックにも言えると思います。この時代はやっと商用ドルビーが実用化した頃。録音はもちろんテープです。リマスタリングによって音質は向上していた様に思いましたが、現在のサラウンドのデジタル音源で音圧爆上げの映画に慣れていると迫力不足は否めません。そもそも音源自体に音圧が足りていないと思います。それでもラストの第九など、サントラのみならある程度音圧を上げられますが、サントラにセリフが重なっているとそれも難しいと思われます。そういった厳しい条件下で、かなり頑張ってリマスタリングしていたのではないかと感じました(「音圧」と「音量」は異なります。端的に言えば音圧とは「音の密度」です。どん!と来る感じ、と言えばわかりやすでしょう)。

 『時計…』に限りませんが、デジタル以前の古い映画をシネコンなどでデジタル上映する際、こういった「画質・音圧問題」はどうしても避けて通れません。ましてや観客は現在のデジタル上映を当たり前と考える世代です。画質が悪い、音が小さいという批判は理解できるのですが、技術的な問題もあることを理解して欲しいです。もちろんマスタリング技術の向上には期待を寄せています。過去のフィルム映画が現在のデジタル映画と同等ではなくても、近い水準で楽しめるのなら、わざわざお金を払ってでも映画館に足を運ぶ大きな動機になり得ます。今後の技術革新に期待したいところです。

 ちなみに「午前十時の映画祭」も第1回から第3回までフィルム上映でした。シネコンのデジタル上映が一般化したのはそんな昔の話ではなく、ほんの6、7年前です。久しぶりに映画館で映画を観た方はフィルム上映だと勘違いされているかもしれませんが、現在どの映画館もほぼデジタル化されています。それを嘆いたところで「スマホの時代に黒電話の必要性を説く」くらい時代錯誤な話で(古いフィルムを大切に保管する必要性はまた別の話)、いまさら時計の針を元には戻せません。であれば、現在のデジタル環境にふさわしいフィルム映画の高品質デジタル化を推進すべきです。なぜならそれはキューブリック作品を含めた「過去の偉大な映画を未来へ継承するため」の根幹をなす問題だからです。今回『時計じかけのオレンジ』上映に足を運んだ、デジタル上映に慣れた若い世代を失望させないためにも、業界全体で力を入れてフィルム映画の高品質デジタル化技術向上に努めてほしいですね。

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drsl画像引用:Dr Strangelove(IMDb)

 アメリカ最大の映画レビューサイト、「ロッテントマト」(腐ったトマト)の肯定的レビューのパーセンテージ「トマトメーター」でキューブリック作品をトップ10ランキングした記事からの引用です。wikiよるとロッテン・トマトとは、

 サイト内には直近で公開された約270本の映画レビューのログが残され、肯定的なレビューの割合が一覧化されている。肯定的レビューが60%以上の場合は「レビュアーの大多数がその映画を推奨した」ものとして"fresh(新鮮)"、60%未満の場合は "rotten(腐敗)" の格付けがされる。加えてロジャー・イーバート、デッソン・トムソン、スティーヴン・ハンター、リサ・シュワルツバウムなどの著名映画レビュアーによるレビューは、"Top Critics(トップ批評家)"と呼ばれる別リストへ載せられ、別途一覧化されている(批評は全体レーティングにも影響する)。レビューが数値集計の可能な量に達すると、各レビュアーによる意見を整理するため、総意としてのまとめ記事が掲載される。年末にはその年の最高得点を得た映画が "Golden Tomato(ゴールデン・トマト賞)"を獲得するシステムとなる。

 と、一般的なユーザーレビューサイトとは異なり、著名な評論家が参加していることから、一見公平性が担保されている様に思われますが、実際は問題もあり、

 2010年1月、ニューヨーク映画批評家協会会長のアーモンド・ホワイト(英語版)は会の75周年に際し、「レビュアーを一箇所に押し込め、それぞれのレビューに見せかけのお気に入り得点を取ってつける。あれはインターネットが如何に個人の表現に復讐しうるかの例である。ああしたサイトは、評論の代用として大勢の総意を提示しているにすぎない」と、特に当サイトを名指しして映画レビュー集サイト全般を批判した。

とあります。

 まあ優劣を点数で決めるスポーツではなく、主観で良し悪しを決める「映画」や「グルメ」などは抽象的な評価に頼らざるを得ず、それを数値化したりランク付けすること自体にどこかしら偏りや無理が生じるもので、こういったレビューサイトやランキングは参考程度か、「にぎやかし」程度に思っておけばいいと思っています。ですが、その評価が「興行成績や売上に影響する」として、それを許さない方も少なからずいるようで、評点操作や悪意のあるレビューなど、喧しい話題を提供し続けているのも周知の通りです。

 どちらにしても、まずは確固たる自身の価値観を確立してから他者が行う評価を拝聴すべきで、「初めから他者の評価ありき」でしか良し悪しや好悪を判断できないのであれば、それはまさしく『時計じかけのオレンジ』でしかないと思うのは、私だけではないと思います(笑。

 と、いうわけでロッテントマトの「トマトメーター」によるランキングです。人気作であればあるほど分母が多くなり、その分メーターが低く出るのではないかと推察できますが、それにしてもアメリカ人の『博士の異常な愛情』好きにはびっくりしますね。

第10位『シャイニング』86%

第9位『時計じかけのオレンジ』90%

第8位『フルメタル・ジャケット』91%

第7位『バリー・リンドン』93%

第6位『2001年宇宙の旅』93%

第5位『ロリータ』95%

第4位『突撃』95%

第3位『スパルタカス』96%

第2位『現金に体を張れ』97%

第1位『博士の異常な愛情』98%


(引用元:SCREEN RANT:Stanley Kubrick's 10 Best Movies, According To Rotten Tomatoes/2019年10月1日

 他に、有名なYouTobeチャンネルである、Watch Mojo.comでも同様のトップ10ランキングがありましたので、こちらもご紹介します。こちらはあくまでMojoの主観なので、参考程度にどうぞ。



情報提供:Akoさま

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aco画像引用:IMDb - A Clockwork Orange

 キューブリックはあまり自作について語りたがらない印象がありますが、少なくとも『時計じかけのオレンジ』の頃までは饒舌に語っています(この後、『時計…』が暴力的だとマスコミに糾弾され、露出を避けるようになります)。以下は評伝『映画監督スタンリー・キューブリック』からの抜粋です。理解している方にとっては蛇足でしかありませんが、とまどった方には参考になるかと思い、一部を掲載したいと思います。

 小説は二部構成になっている。それは、ある個人を監禁し、その自由や自由意志を奪って時計じかけのオレンジ、つまりロボットのような人間に作り変えることが道徳的に許されるのかという社会学的な問いかけだ。そしてこの話の魅力はアレックスの性格にある。リチャード三世もそうだが、アレックスはその賢さと回転の速さと素直さで、どういうわけか観客を自分の味方に引き入れてしまう。彼が象徴するものはイドだ。それは我々の中にある抑圧された残酷な側面、罪にならないけど、レイプを楽しむのと同じようなものをもっている側面なのだ。

 みんな偽善的な態度を取るけれど、みんな暴力に惹かれているというのが実情だ。何と言っても、この地球上でもっとも無慈悲な殺し屋は人類なのだ。私たちの暴力に対する関心は、潜在的なレベルでは遠い祖先と大差ないことを示唆している。

 アレックスが受けるルドヴィコ療法は、社会的規範と自分自身の間の葛藤に由来する神経症と見ることができる。だからこそわれわれは、アレックスが『矯正』された最後のシーンを愉快に思う。仮に映画を『白日夢』と捉えるならば、この幻想のような象徴的なメッセージは、見る者を左右する強力な要因だ。夢は意識化されないものを見せるものだと考えると、映画も夢と同じような作用を持っていると言える。


 そしてキューブリックは書籍『キューブリック』でのミシェル・シマンとのインタビューで、この問題を以下の様に総括しています。

 今日私たちが確実に直面している最も挑戦的で困難な課題の一つとは、国家が抑圧的にならないで、如何に社会を制御するのに必要な節度を保つことが出来るのかということだ。それに、合法的で政治的な解決が遅すぎると考え始めているせっかちな有権者に対峙しながら、国家は如何にしてそれを達成できるかだ。国家はテロリズムや無秩序の向こうに亡霊がぼんやり現れているのを知っている。そして、そのことが大きすぎる反作用の危険を増やし、私たちの自由の縮小を促している。生活の全てがそうであるように、これは正しい均衡を模索するという問題であり、ある程度幸運の問題でもある。

 キューブリックが逝去して2年半ののち、キューブリックの生まれ故郷であるニューヨークで911テロが起こりました。それは国家が権力による抑圧と制御の正しい均衡を模索している間に、テロリストにとっての数々の「幸運」が引き起こしたテロでした。バージェスとキューブリックはそれが起こる30年も前に、その本質と原因を『時計じかけのオレンジ』で看破していたのです。

 では、キューブリックが皮肉っぽく指摘した「合法的で政治的な解決が遅すぎると考え始めているせっかちな有権者」である私たちは、一体何を考え、何をすべきなのでしょう? つまるところそれはキューブリックが言うように「正しい均衡を模索」するしかないのですが、その「正しさ」とは何なのかは、ラストシーンの不気味とも、歓びともとれるアレックスの「イった表情」から各々が読み解くしかないでしょう。

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 公開時のスクリーン誌の復刻記事を集めた特集号『スクリーンアーカイブズ スタンリー・キューブリック監督 復刻号』がTOHOシネマズ日本橋・新宿のほか、スクリーン・オンラインで限定販売中です(TOHOシネマズ新宿は10月18日より販売開始)。

 掲載作品は『スパルタカス』『ロリータ』『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』『バリー・リンドン』『シャイニング』『フルメタル・ジャケット』『アイズ ワイド シャット』。内容は作品解説が主なので、特に目を引く記事はありません。ただ、故荻昌弘氏の解説は「映画愛」に溢れていて読んでいて嬉しくなりますね。

 あとは例の星新一氏による『2001年…』に対する「勘違い批判」ですが(詳細はここで)、これは星氏に限らず、当時の多くの「大人たち」がこういった反応を示したそうです。「映像志向」の作品を「演劇志向」で批判しても的外れ以外の何ものでもないのですが、公開当時の「空気」を知るにはいい資料と言えるでしょう。

 当事者のインタビューは『アイズ…』のトム・クルーズとニコール・キッドマンだけですが、残念ながら内容はあまりありません。ただ、キッドマンが語る「彼(キューブリック)は最初から夫婦の俳優を使うと決めていた」は、この作品を読み解くのに役立ちそうです(詳細はこちら)。

 本書に頻出する「クーブリック」という表記ですが、小説『2001年宇宙の旅』の翻訳者である伊藤典夫氏を中心に、「発音はクーブリックなのでそう表記すべし」としてSFファンを中心に一部に広まりました。しかし一般に定着するまでは至らず、当の伊藤氏も「本人も亡くなったのでこれからはキューブリックで」と白旗を上げたので、現在は「キューブリック」で統一されています。

 対面販売はTOHOシネマズ日本橋・新宿だけですので、ネットで購入するのが現実的かと思います。A4版48ページで1,800円(税別)という価格は割高感を覚えますが、掲載号数が書いてありますので古本を漁る際に目安になりそうです。スクリーン・オンラインのキューブリックページはこちらからどうぞ。

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