キューブリック作品に登場したセット・プロップ・衣装

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 『時計じかけのオレンジ』で、作家の妻が座っていた「リトリート・ポッド」は、プログレッシブロックの雄、イエスのアートワークで有名なロジャー・ディーンが、弟のマーティン・ディーンと共同でデザインしたもので、下記リンク先にあるリトリート・ポッドのページには「2〜3人を収容できる自己完結型オーディオ・ヴィジュアル・ユニット」という説明があります。ただ、映画で登場したものはさほど大きくありませんので、オーディオのみのポッドかも知れません。

 『時計…』の制作時期は1970〜1971年ですので、ロンドンはまさにサイケデリック・カルチャー真っ盛り。音楽的にはビートルズに解散後、5大プログレバンド(キング・クリムゾン、イエス、ピンクフロイド、ジェネシス、エマーソン・レイク・アンド・パーマー)が揃い踏みした頃。その中の一つ、ピンクフロイドと『時計…』との関係は以前こちらで記事にしました。そして今度はイエスとの関係・・・。キューブリックがこの『時計…』の制作にあたり、いかに当時のロンドンのアートシーンに注意を払っていたかがよくわかるエピソードですね。

 そのロジャー・ディーンをイエスのキーボーディストであるリック・ウェイクマンが紹介したドキュメンタリーがありました。7:42頃の画集にチラっと似た作品が映ります。

 ロジャー・ディーンのサイトはこちら。リトリート・ポッドのページはこちらです。



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オリオン号の機内を漂う「アトミック(原子力)ペン」。ペン軸に小さくPARKERの文字が見える。



 1958年にパーカー社のデザイナー、ウォルター・ ビガーは一連の「ドリームペン」をデザインしました。そのうち3つはスタンリー・キューブリックに提供され「アトミックペン」は『2001年宇宙の旅』で使用されました。

〈中略〉

 アトミックペンは放射性同位体の小さなパケットを用いてインクを加熱し、選択可能な線幅を生成できます。当然のことながら生産はされませんでした。

 パーカーの他のドリームペンは映画に使用されませんでしたが、同社は映画館、デパート、スーパーマーケットでのプロモーションに幅広く使用し、同社の製品を「ペンの現在と未来」として展示しました。

〈以下略〉

(全文はリンク先へ:IEEE Spectrum:A Radioactive Pen in Your Pocket? Sure!/2016年10月28日




 この記事によると、放射性同位体の小さなパケットでインクを加熱し、線幅を変えられる未来の万年筆としてこの「アトミックペン」をデザインしたようです。ペン軸にある3つのボタンはその線幅を選ぶボタンでしょう。とっても未来を感じるアイデアですが、原子力エネルギーにまだ明るい可能性があると信じられていた当時の世相を反映していますね。チェルノブイリや福島を経験した現在では、当然実用化は不可能です。

 パーカー社はすでにデザインされていた「ドリームペン」中の3つをキューブリックに提供し、その内の「アトミックペン」を映画に採用した、という経緯だそうです。つまりキューブリックが映画向けにデザインさせたわけではないんですね。キューブリックは『2001年…』制作にあたり、既存のもので気にいる物があればそのまま使用し、なければオリジナルでデザインさせたようです。映画に登場しているプロップ全てがオリジナルではないのは、予算の圧縮や制作時間の短縮などを狙ってのことだと思いますが、「超絶こだわり主義者」のキューブリックのこと。そのまま採用となるパターンの方が少なかったようです。それでも椅子やデスクなどの家具類や、未来カーの「Runabout」は企業が制作したものをそのまま使用しています。

 「映画に登場すれば宣伝になるから」というのはキューブリックの口説き文句だったそうです。そうしてちゃっかりと企業の協力を取り付けるしたたかさも、キューブリックの「やり手」っぷりを示すエピソードですね。

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shining
『シャイニング』でそれとなく置かれたマルボロ。

 アメリカを代表するタバコの銘柄で、キューブリック作品には『フルメタル…』『アイズ…』(看板として)にも登場しています。しかし『シャイニング』では何か特別な意図を感じてしまいます。何故ならwikipediaに以下のような記述があるからです。

 アメリカ合衆国の人種差別や迫害の歴史がタイトルの中に隠されているという説があり、パッケージを逆さまにしロゴの上半分を隠すとそれを印象付ける絵が浮かび上がるとされているが、このような話はたばこのパッケージにはつきもので、一種の都市伝説である。

(引用先:wikipedia「マールボロ」


 当ブログでは「『シャイニング』は白人至上主義によって迫害されたネイティブインディアンの怨念の物語」という暗喩が含まれている。という説を唱えていますが、それを裏付けるアイテムがまたひとつ加わったことになります。そもそもマルボロはカウボーイを広告キャンペーンに使用していました。カウボーイはアメリカ西部開拓史を象徴する存在です。当然、ネイティブアメリカンにとっては忌むべき存在。キューブリックはカルメットの缶でネイティブアメリカンを、このマルボロで侵略者たる白人を象徴させようとしたのかもしれません。もっとも「三作品ともイギリスで撮影されていたから、アメリカらしさを演出するため」という理由も考えられますが、さて真相はいかに・・・。

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 『時計…』で、アレックスの部屋にあった近未来的ターンテーブル(レコードプレーヤー)です。ラストの病室のシーンで、キャスターに乗っていたのもこれになります。『時計…』は予算が厳しかったせいか、極力ロケや既存の商品に頼って撮影されていますが、このターンテーブルも実際に商品として販売されていたものです。メーカーはデヴィッド・ギャモンが設立したトランススクリプト社で、この「トランススクリプト・ハイドロリック・リファレンス・ターンテーブル」は1964年に発売されたものです。

 メーカーのHPによると、1969年にボアハムウッドにあった工場にキューブリックがやってきて、最新のプロジェクトの為にこのターンテーブルを購入できないか訊ねたそうです。そしてデイヴィッドはキューブリックにこの「ハイドロリック・リファレンス・ターンテーブル」を譲ったのだそう。

 「ハイドロリック・リファレンス・ターンテーブル」は劇中では使用させず、代わりに使われたのがミニカセット(マイクロカセットではない。ミニカセットはフィリップ社の規格、マイクロカセットはオリンパスの規格)でした。キューブリックはアナログレコードの後はカセット、しかもミニカセットが普及すると考えていたんですね。しかしこのサイズのテープスピードではオーディオ用としてははあまりにも音質が悪く、普及したのは主にメモ録音用や留守番電話のメッセージ録音用などでした。劇中のようにオーディオ用ミニカセットが発売された事実はなく、第九やリゲティのカセットテープや、セットされたカセットデッキは全て小道具として創作されたものです。しかし世界にはマニアはいるもので、完全再現したレプリカを製作した方がいらっしゃいます。因みに音源はCD化されているので入手は容易です。

 ところでこのターンテーブル、eBayなどでは20〜30万円で入手できます。オーディオマニアなら手が出せない金額ではなさそう。音質云々は日本語での情報がないのでわかりませんが、日本のオーディオマニアにはあまり評価されていないんでしょうか? プロダクトデザインとしての評価がこの値段なら、ちょっと手を出しにくいかも知れないですね。

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ハロランが食料倉庫を案内するシーン。背景に「カルメット」の缶。

 上記のシーンやジャックが食料倉庫に閉じ込められたシーンにはしっかりとこの「カルメット」というメーカーのふくらし粉の缶が映っています。wikiによると

 カルメットファームは、1924年にカルメット・ベーキングパウダー社の創業者であったウィリアム・モンロー・ライト (William Monroe Wright) によって創設された牧場である。創設当初はイリノイ州リバティヴィルにあり、のちにレキシントンへと移設された。開設当初の牧場の規模は407エーカーであった。ライトはもともとベーキングパウダーのセールスマンであったが、1889年に独立して「カルメット・ベーキングパウダー社」を創業した。牧場名の由来ともなったこの社名は、インディアンの使うパイプの一種カルメットにちなんでおり、製品の缶にはインディアンの酋長の絵が描かれていた。1929年、ライトは同社をゼネラルフーズに4000万ドルで売却し、以後カルメット・ベーキングパウダーは同社のブランドとして販売されていった。のちに同社も1985年にフィリップモリスに買収され、1988年以降は当時傘下企業であったクラフトフーズより販売されている。

wikipedia/カルメット・ファームより抜粋)


 つまり「カルメット」とはインディアン(ネイティヴ・アメリカン)の使うパイプの名称だったものを社名・ブランド名にしたということらしいですね。キューブリックがわざわざこの缶を、しかもわざわざインディアンの横顔のイラストが見えるように背景に置いているのは、このホテルに巣食う霊の正体がネイティヴ・アメリカンの悪霊である事を示唆するためです。『シャイニング』にはこういったネイティヴ・アメリカンへの暗喩が数多く存在しますが、これもそのひとつですね。

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