キューブリック関連書籍

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キューブリック・ミステリー―『2001年宇宙の旅』論 (Fukutake Books)(amazon)


 『2001年…』を中心にしたキューブリックの諸作品を独自の解釈で読み解きながら、その映像表現からメディアの本質を読み解くメディア論。特にHALやモノリスが産まれるに至った、当時のテクノロジーや社会背景の解説はとても興味深い。

 1990年の初版なので、多少情報が古くなってしまった部分はあるが、今でもその考察や指摘は充分に読みごたえがある。内容もかなり平易で、あまり専門的になりすぎないよう配慮されて書かれているのも好感が持てる。

 著者の浜野保樹氏は現在、東京工科大学メディア学部の教授で、キューブリック関連書籍の邦訳にも携わっている。海外には良書も多いと聞くので、是非その方面での活躍にも期待したい。


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シャイニング〈上〉 (文春文庫)(amazon)



シャイニング〈下〉 (文春文庫) (amazon)


 現在はホラーだけでなく、ありとあらゆる小説がベストセラーになり、そのかなりの作品が映画化されているスティーブン・キングのベストセラー傑作ホラー小説。

 圧倒的な筆力と構成力で、読むものをぐいぐいと引き込んでゆく手腕は流石で、ホラーファンならずとも、一級のエンターテイメントとして十分に堪能できる作品に仕上がっている。こんなに楽しめる小説を、ああいう形で映画化したら、原作者が怒るのも無理はない、と読後に納得させられる程の高い完成度だ。

 だが、それは小説という、映像を頭の中で描く媒体だからこそ成立する話であって、映画という、映像をそのまま受け手に見せてしまう媒体では、B級ホラー映画に成り下がってしまうのは避けられない。キューブリックが、そんな陳腐な代物を撮るはずもなく、慎重に原作を取捨選択や改変・追加し、独自の世界観を創出してみせたという事実は、もっと評価されてしかるべきだろう。

 しかしキングは、その映像センスは認めつつも、原作をズタズタにされ、骨抜きにされた恨みからか、長年に渡りキューブリックを酷評してきた。ところが'97年になって、突然この『シャイニング』をリメイクするというチャンスが訪れ、「映画版『シャイニング』について、今後いっさいあれこれ言わない、との条件を呑めば映像化権を渡す」との取り決めをキューブリックと交わし、自身で製作したTV版『シャイニング』を完成させる。つまり現在では、小説版、映画版、TV版と三種類の『シャイニング』が存在するのだ。

 多少複雑な経過をたどった本作であるが、映画版・TV版は、その物語の消化の方法において、好悪が分かれるきらいがあるかも知れない。しかし、この小説版が誰の目にも傑作であることに異論はないだろう。

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映画監督 スタンリー・キューブリック(amazon)


 今まで、関連書籍内のいちコンテンツとしてのバイオグラフィーはあったが、これだけの情報量の評伝は本書が初になる。キューブリックの生い立ちから『アイズ…』製作中の時期まで、キューブリックの家庭環境や性格、人格形成と成長過程、映画に対する考え方や製作の裏側、有名なエピソードとその顛末、誤解され続けたその素顔まで、圧倒的ボリュームで読みごたえがある。既知の情報も多いが、時系列に体系づけられている本書がまさに決定版と言えるだろう。

 残念なのは『アイズ…』の完成・公開とその後の突然の死までフォローされていない事。(訳者がフォローする形になっている)著者もまさかこんなに早く死が待っているなんて思ってもいなかったのだろう。本書がキューブリックの死後に脱稿されていたら、更に完成度が高まったのではないだろうか。

 寡作な監督と言われたが、本書を読むといかにキューブリックが一生を映画製作に捧げたかがよく判る。そして、こんな監督はもう二度と現れないだろう事も容易に理解できる。それだけキューブリックは唯一、無二の存在だったのだ。

 生々しい等身大のキューブリックの実像が納められた本書は、キューブリックファンにはもちろん、やたら「難解」と煙たがる一般の映画ファンにもお勧めの良著だ。

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夢奇譚 (文春文庫)(amazon)


 初めてこの小説を読んだとき、あまりも映画のストーリーそのままなのにまず驚かされた。キューブリックはなんと、ストーリーラインを変えることなくほとんどそのままを映画に取り込んだのだ。だからと言って映画は、この小説の舞台と設定を、単に19世紀末のウィーンから、20世紀末のニューヨークに移し替えただけの代物、と言い切ってよいのだろうか?

 小説は、表面的な幸福の中に潜むどす黒い欲望と裏切りが、夢や現実の形となって現われる不可思議な妄想の世界を描いたものだ。主に夫婦間や男女間の問題を扱っており(現に脚本を担当したフレデリック・ラファエルは、映画版のタイトルを『女性の問題(The Female Subject)』にしよう、とキューブリックに持ちかけている)、未婚者や若年層にはピンとこない物語かもしれない。また、不倫願望や不逞、スワッピングや乱交など、この時代ならともかく現代人には全くショックを感じない。

 ところが映画はそういう表面的なモチーフは継承しつつもっと解釈を広げ、現代人にとって最も妄想を描きやすい「映画」という媒体を中心に、ありとあらゆるメディアを使って壮大な「夢の世界」を現出させよう、という大胆なものだった。その夢の世界へ、年齢、性別を問わず、あらゆる世代を呼び込みために、謎の物語を用意したり、セクシャルなトレイラーを流し続けたり、意味深なポスターで見るものを誘おうとしたのだ。

 ただ、メディアに踊らされるままに映画館に「2時間の夢物語」を堪能しに出向いた観客に、小説とも、当初の脚本とも違うラストシーンを用意したキューブリック。そこには激しい憤りと深い失意。そして決別の意志が込められている。

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フルメタル・ジャケット (角川文庫)(amazon)


 作者のハスフォードは、この小説の主人公と同様に、ベトナム戦争に海兵隊の報道記者として従軍している。その体験をフルに活かして書かれた処女作が本作なのだが、とにかく、全編を貫くクールでドライな感覚に、まず驚かされる。登場人物の「個性」や「人格」を全く描写せず、まるで戦争を他人事かのように扱う淡々とした描き方は独特で、戦場のあまりにも醜悪な現実に、人間としての感覚が完全にマヒしてしまっているその姿は、実体験に基づかないと、とても描ききれるものではないだろう。

 除隊する日を心待ちにしながら、目の前にある戦争という狂気の沙汰を、あたりまえの事として受け入れている海兵隊員達…。反戦・平和を標榜するでもなく、戦争や軍隊の不条理さを糾弾するでもなく、ただ、日常的にあっけなく殺し合いをする(たとえそれが味方同士であったとしても、戦略的に大きな意味を持たない作戦でも)という衝撃的な内容は、キューブリックが飛びつくのも頷ける、質の高い作品だ。

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