博士の異常な愛情

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 『博士の異常な愛情』のタイトルシークエンスで使用されたB-52の空中給油のシーンは、ストック映像(既存の映像)を使用したことはここで記事にしましたが、公開から50年近く経った2013年においてもなお同じ機材を使い、同じ方法で空中給油が行われていて、その動画が上記になります。

 まあ、軍ヲタさんからすれば「外見は同じでも中身は更新されているのでまるで別物」とおっしゃるかも知れませんが、窓枠とかは当時のままですね。

『博士の異常な愛情』のタイトルシークエンスは10:50から


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DRSTRANGE_LIPPER

 以前ご紹介した、エリシャ・クックのインタビュー記事

「(ヘインドンは)昔落下傘兵をしていたんだ、知ってたかい? オリジナルのエンディングでは彼はFBIに蜂の巣にされて倒れて死ぬ予定だったんだ。だが彼は落下傘兵の仕事で背中を痛めていたからできなかった。だからエンディングを変えたんだ。」

とあり、気になって調べたのですが、このスターリング・ヘインドンという俳優はものすごい経歴の持ち主でした。IMDbによると、

 (ヘインドンは)ハリウッドを辞めてCOI(情報調整局、後のOSS:アメリカ戦略情報局)のコマンダーになった。「ジョン・ハミルトン」という名前で海兵隊に加わり、アドリア海のドイツ封鎖を超えて銃と物資をユーゴスラビアのパルチザンに送り、ゲリラ活動のためにクロアチアにパラシュートで降りた。

とあります。

 戦後にその活躍からユーゴのチトー大統領から勲章を贈られるのですが、当時のユーゴは共産党政権だったため、ヘインドンはハリウッドの赤狩りのターゲットにされてしまいます。それについては日本語版wiki

 戦後、マッカーシズムが台頭して下院非米活動委員会が結成され、ハリウッドにおける共産主義者のリストアップを開始すると、大戦中にユーゴスラビアのチトーなど共産主義者たちと交流を持っていたヘイドンにも追及の手が伸びる。ヨットを購入した借金の返済をするために映画界への復帰を願っていたヘイドンは、追及をのがれるために協力的密告者として証言台に立ち、そのことが後の彼の人生に暗い影を落すことになる。

 これだけの情報だけでヘイドンの思想を云々するのはどうかとは思いますが、アメリカ戦略情報局に志願していることから愛国者であったろうことは想像に難くありません。ですが第二次世界大戦中は米ソは連合国として手を組んでいました。つまりアメリカのために働くことは、ソ連のために働くことでもあったのです。結果、ユーゴの共産党政権と繋がりができてしまい、そのことで赤狩りのターゲットにされ、ハリウッドに復帰をしたいがために「(共産党に参加したことは)私が今までの人生の中で行った、最も愚かで最も無知なこと」と証言、それが「裏切り」(「ハリウッド・テン」が密かに賞賛され、裏切り者は忌避されるのが当時のハリウッドの空気だった)と取られてしまいました。

 ヘイドンはこの行動を後悔し、その後は委員会への協力を拒否したそうですが(キューブリックが『現金に体を張れ』でヘイドンの名前を出した時、ユナイトの上司の微妙な反応はこの件が影響していたのかも知れない)、好むと好まざるかに関わらず、マッカーシズムの嵐に巻き込まれてしまったことが、『博士の異常な愛情』のリッパー将軍のセリフ「(水に)フッソを入れるのは、共産主義者が考え出した最も悪質な謀略だ!」での迫真の演技に繋がったのかも知れませんね。

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リッパー将軍

 私がキューブリックの『博士の異常な愛情』で働いていた時のことを話す時によくする話を紹介しょう。我々は皆この映画が素晴らしいものになるというのは知っていた。全力を尽くした。しかし撮影初日は私の人生最悪の日だった。なぜならセリフが全部飛んでしまったからなんだ。シェパートン・スタジオで48回もテイクを撮った時だ。軍服も着て、葉巻もくわえて、セリフ、軍事用語も完璧に覚えたと思っていたのに!  セリフを忘れ始めたんだ!

 頭の中でもちろん「こんなこと今まで何度もあっただろ! 8、10、12回目のテイクの時とかに」と聞こえたよ。しかしこれは20テイク目だ!業界用語でいう「Pickup」(訳者注:アメリカで使われる撮影用語。重要シーンを撮り終えた後の本筋〈アップの会話シーン〉とあまり関係ないシーン〈手、コップ、銃のアップなど〉を撮ることを指す)を撮ってる時だった。一行もセリフを思い出すことができなかったんだ!滝のように汗が流れて、スタッフが拭いてくれたよ。そんな時、素晴らしいことが起こった。

 もうダメだと思って、スタンリーのところに行って、「スタンリー、本当にすまない」と言った。そうしたら、スタンリーが私の人生で聞いた中で一番素晴らしい言葉をくれた。「スターリング、君が状況を打開できないのはわかっている。私がそれを助けてあげることができないのも知ってるだろう。しかし!君の目、顔に浮かぶその恐怖!それが今、我々が求めているものなんだ!まさにジャック・リッパー将軍そのものだ!もしその表情が君に今、宿っていなかったら、我々は数ヶ月後にまた撮り直さないといけないところだった」とね。どう思う? 素晴らしい言葉とは思わんかね? 一生忘れることはない。それから、通りの向こうのブラウンズホテルに行き、ジョニーウォーカーの黒ラベルを2、3杯引っ掛けてスタジオに戻ったら、全てがうまくいったんだ。




 キューブリックは演劇畑出身の監督ではないので、基本的に演技は役者任せであることが多いのですが、キューブリックは『博士…』のリッパー将軍役を、以前『現金に体を張れ』で一緒に仕事をしたスターリング・ヘイドンをキャスティングした時点で「うまくいく」と自信があったのでしょう。同じようにマフリー大統領、マンドレイク大佐、ストレンジラブ博士を演じたピーター・セラーズにもほとんど演技指導はしませんでした(キューブリック曰く「勝手にやらせたら必要な画は撮れていた」)。

 キューブリックは演技について役者から尋ねられると、「何をして欲しいかはわからないけど、何をして欲しくないかはわかる」と説明しています。つまり「アドリブなどを駆使して自分ができる最大限の演技とアイデアを自由に試して欲しい。だが、演技の方向性はこっちでコントロールする」ということだと思います。つまりこのヘインドンの場合、ヘインドンが演じるリッパー将軍の方向性は自分が望んでいるもので素晴らしい。だから今ヘインドンが受けているプレッシャーから彼を解放してあげて、より良い演技をしてもらうための環境を整えてあげるのが、この「言葉」の目的だったのだと思います。

 キューブリックは『ロリータ』『博士』での成功体験から、どんどん役者に「自由裁量権」を与えて、より良い演技を(時には100テイク以上を費やしてでも)役者自身に追求させるようになります。ただ、その「自由裁量権」がキューブリックが考えている「方向性」と異なる場合は、その修正指示は自ずと厳しいものになります。『シャイニング』のシェリー・デュバルはこの「方向性のズレ」に苦労した代表格で、シェリーは「演劇的演技」が身に染み込み過ぎていたため(キューブリック曰く「わざとらしく見える」)、キューブリックはそれを排除したかったのです。また『バリー・リンドン』のマリサ・ベレンソンもその「被害者」のひとりで、キューブリックはマリサの気品ある立ち居振る舞いは気に入っていたものの、クイーンズ・イングリッシュを話すことができなかったため、物理的に大鉈を振るい、大幅にセリフを削って黙らせたのです。

 その、キューブリックが与えた「自由裁量権」に、キューブリックの期待以上に応えて見せたのがピーター・セラーズ、マルコム・マクダウェル、ジャック・ニコルソン、リー・アーメイ、そしてこのスターリング・ヘイドンだったのだと思います。

1983年に行われたスターリング・ヘイドンのインタビュー動画。訳したのは10:28から12:06まで。

翻訳協力:Shinさま

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 クラシックフィルム専門の配給会社「パーク・サーカス」によって、2019年5月17日よりイギリスで4K版『博士の異常な愛情』が公開されるそうですが、その予告編がYouTubeにありましたのでご紹介。また、義長女カタリーナ・キューブリックや、義弟でプロデューサーのヤン・ハーランが証言する『Stanley Kubrick Considers The Bomb』という短編ドキュメンタリーも同時上映されるそうです。

 かなり映像がクリアになっていますね。『博士…』はオリジナルネガを紛失してしまったため、キューブリックが状態の良いプリントから一コマ一コマカメラで撮影してコピー、それが現在のオリジナルフィルムですが、それを4K(ひょっとして『2001年…』のように8Kかも)スキャンしてレストア、DCP化したのではないでしょうか。ということは将来の4K版、8K版BDのリリースも予測できますし、おそらくそうなるでしょう。

 2015年にあった『ムービーマスターズ第一弾 スタンリー・キューブリック』という全国限定公開で、『博士…』は池袋の「新文芸坐」だけで上映されました。しかし、残念ながらソースはBD。今回はDCPですのでシネコンでも問題はないはず。上映が決定すれば『2001年…』ほどではないにせよファンが多いこの作品、話題にはなるでしょう。配給権を持つソニーさんにはぜひ日本での4K上映をご検討いただきたいですね。あと、ついでに商品化の許諾も。『博士…』のリッパー将軍Tシャツってあればちょっと欲しいです(笑。

 そのパーク・サーカスのサイトはこちら。プレスリリースはこちらです。

2016年3月29日追記:『博士…』はクライテリオン版BDで4K化(海外版のみ)されていますが、デモ映像を見る限りフィルムグレインが目立ち、4Kにしてはあまり画質が良くありません。今回の4K上映のマスターが新たにスキャンしたものなのか、クライテリオン版をリマスターしたものなのかは今のところ不明です。

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nevil.ping

 スウェーデン発の腕時計ブランド「トリワ(TRIWA)」から、2019年春の新作モデルが登場。2019年3月8日(金)より、ノルディックフィーリング 表参道ギャラリーなどで発売される。定番の「ネヴィル(NEVIL)」シリーズから、今回春の新色として新たにラインナップに加わるのが、1960〜70年代の名作映画から着想を得た一本。 

 「CLOCKWORK NEVIL」は、左右のインナーサークルに反対色であるオレンジとブルーを配置、ストラップには馴染みの良いスエードレザーにライトグレーを乗せて、ポップで軽やかなルックスが魅力。一方の「STRANGELOVE NEVIL」はブラックを基調に、針にブルー、インデックスにオレンジをさりげなく取り入れた、シンプルながら遊び心を感じさせる一本に仕上がっている。

〈以下略〉

(全文はリンク先へ:FASHION PRESS/2018年3月8日




 スウェーデンの腕時計ブランド「トリワ」から『博士の異常な愛情』『時計じかけのオレンジ』にインスパイアされたカラーリングの腕時計「CLOCKWORK NEVIL」「STRANGELOVE NEVIL」が発売されたそうです。価格は37,000円と割とリーズナブル。デザインもカジュアルで20代の大学生か新社会人あたりが購入しそうなイメージ。

 ベースになるデザインがあるので、特にキューブリックファンと気づかれないさりげなさはいいですね。「わかる人にはわかる」的なアイテムだと思いますので、プレゼントに最適しょう。男性なら「STRANGELOVE NEVIL」、女性なら「CLOCKWORK NEVIL」でしょうけど、大きめケース(直径40mm)が似合う女性でないと(要するに手首が細くて華奢な人)ちょっと残念なことに。似合う女性は普段から大きめケースの時計をしているので、そういった方なら違和感なくしていただけるでしょう。ただ、カラーリングの意味を内緒にしてプレゼントしたはいいが、あとで映画を観て意味を知って嫌がられないようにしたください(笑。

 取扱店舗はノルディックフィーリング(表参道ギャラリー/新宿/有楽町/名古屋/天神/公式オンラインショップ)、トリワ公式オンラインショップ、その他全国のトリワ取扱店で。公式サイトの商品紹介ページはこちら

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