アイズ ワイド シャット

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画像引用:IMDb - Eyes Wide Shut

二度とセ○○スしたくなくなる映画5選

〈前略〉

『アイズ ワイド シャット』

 最後まで聞いてください。この映画は、神秘的で圧倒的な性の力と、それが私たちのすべてを推し進めることについてのものであるはずですが、どういうわけか性行為とセクシュアリティが少し誇張されているように見えます。ニコール・キッドマンのキャラクターは、休暇中に見た素敵な水兵に本当に欲情しましたか? そして、その告白に悩まされたトム・クルーズ演じるキャラクターは、本当に殺人的な性的イルミナティを嗅ぎ回る必要があったでしょうか? 時々、スタンリー・キューブリックのような芸術的な天才が、エロスにはそれだけの価値がないことを見せてくれます。

〈以下略〉

(全文はリンク先へ:The Cut/2020年2月5日




 バレンタインデー特集にこういう記事を載せるニューヨーク・マガジンもどうかと思いますが、そんな記事にちゃっかりとランクインしている『アイズ ワイド シャット』は流石というべきか、なんというか(笑。

 『アイズ…』は非常に曖昧な物語ですが、非常に明確な一言で終わるという、いかにも「キューブリックらしい意地悪な」作品です。キューブリックは愛だの恋だの、そんな人間の表面的な「情緒」を描くことにはあまり興味がなく、人間の本質を鋭く突く描き方を好む映画監督です。それはこの『アイズ…』でも同じで、明るい未来と夫婦の絆の再確認を予感させる原作のラストシーンを改変し、シニカルで意味深な終わり方をさせています。

 ですので、この「二度とセ○○スしたくなくなる」(伏せ字はお察しください。笑)映画という意味においては、「そんな情緒的な気分をぶっ飛ばす何か」がある作品ばかりが選ばれているわけですが、要するに「バレンタインデー(海外では単に「愛の日」という扱い)にカップルで観るにはおすすめできない」ということです。その名誉に預かった(笑)5作品とは以下の通りです。

第1位:『ミッドサマー』
第2位:『ザ・ルーム』
第3位:『アイズ ワイド シャット』
第4位:『ウォッチメン』
第5位:『ローズマリーの赤ちゃん』

 ちなみに第5位に選ばれている『ローズマリーの赤ちゃん』は、キューブリックのお気に入りの作品の一つでした。ただ、キューブリックは鑑賞する側であれば、情緒的でない作品ばかりでなく、情緒的な作品も好んでいます。つまり「観るのは嫌いじゃないけど、自分で作りたいとは思わない」ということだと思いますが、世間一般にありがちな「作った作品=その人の人格」という誤解(というか決めつけ)に悩まされたのはキューブリックも同じですね(『時計…』での脅迫事件などはその最たる例)。まあ、そんなことは自分自身が「創作者(たとえどんなレベルであっても)」になってみれば単なる誤解だと即、理解できることなんですが、創作経験のない人ほど「決めつけ」の傾向があると思うのは、私だけではないと思います。


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トム・クルーズの窮地を救った謎の美女。演じたのはアビゲイル・グッドというモデルの女性で、声はケイト・ブランシェットが担当した。

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謎の美女の声を担当したケイト・ブランシェット。キャステングはキューブリックの逝去後だったため、レオン・ヴィタリが行った。

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アメリカではR指定を得るためにデジタル修正された乱交シーン。日本ではオリジナルのままで公開された。

撮影しながら性行為の振り付けをする

レオン・ヴィタリ (キューブリックのアシスタント): 乱交シーンでスタンリーはあることをしたかった。『時計じかけのオレンジ』へのオマージュのようなことをだ。男が手と膝をついて、女が男の背中にいて、後ろからさらに別の男にファックされているというものだ。撮影中に振り付けした。スタンリーが突然思いついたからだ。簡単なものではなかった。誰もポルノ俳優じゃない。彼らはモデルとダンサーだ。そして根性があった。

ジュリエンヌ・デイビス(マンディ役): スタッフが来てこう言ったんです。「計画の変更があった」って。これからはTバックを身に付けないこと、そして男たちは股間の上のカップを除いて完全に裸になること。私ともう一人の女性は参加しないことにしました。他の女の人たちに「もしこれをやるなら、完全に話は違ってくるわよ。私があなたならギャラの増額を要求するわ」と言いました。

アビゲイル・グッド(謎の美女役):スタッフはこう言うだけです。「そう。腰をかがめて。あれみたいに。そこに寝て。そうあれみたいに。」って。仮面を付けてるから誰にも自分のことはわからないし、匿名性は保たれ、友達家族に言わなければ、誰にも自分がしたことはバレないけど、簡単なことではなかったわね。

ヨランデ・スナイス (振付師):乱交シーンの振り付けを始めた時には、会社の仕事もあったの。最初はそこまで振り付けが必要とは思わなかったけど、それは間違いだった。シーンを見てみたら、スタジオでのリハーサルがシーンの撮影に影響されていることがわかりました。カウチ、ベッド、アームチェアー、私たちが家具の周りでした2、3、4人組の振り付けの全てがそこにありました。エロチックだけれど、本物の性交は行われていません。

レオン・ヴィタリ:冒涜的であり優美なことだと思う。テーブルの上で優美なポーズをする、そして同時に不快なことも起こっているという。スタンリーは限界まで行きたかったんだ。もちろん上品さと猥褻についてとなると多くの限界があったけど。

アビゲイル・グッド :全ての女性たちが去った後も、2人の素晴らしいアーティストと働くことができました。トムとスタンリーです。素晴らしい仕事ぶりでした。スタンリーは私に何度も意見を聞いてくれました。私とトムは彼が撮った中で最後の人々の一員でした。吹き替えが行われる前に亡くなってしまいました。映画が公開される前、いつも誰が私の吹き替えをしたのか不思議に思っていました。だって私はアメリカのアクセントがありませんから。

レオン・ヴィタリ:ケイト・ブランシェットだよ! あれは彼女の声だ。温かみがあって、官能的で、同時に儀式の一部にもなれる声を探していたんだ。スタンリーはそういう声と質を探すように言っていた。彼が亡くなってから、私がその人物を探すために動いたんだ。実はケイトを起用するアイデアを思いついたのはトムとニコールなんだ。その時ちょうど彼女はイギリスにいたので、パインウッド・スタジオまで来てもらい、セリフを録音したんだ。

R指定騒動

パディー・イーソン (デジタル合成監督):キューブリックの死からすぐ、私のプロデューサー レイチェル・ペンフォールドと私はキューブリック邸に呼ばれ、映画を完成させるための陣容が変わったと伝えられました。多くの問題を抱えていたのです。彼が亡くなった時、カットは封印されていました。彼は実地の編集者でした。でも彼とワーナーとの契約でR指定の映画を出すことが決められていました。スタンリーにどうやってR指定ではない乱交シーンをR指定にするのかという話をした人は誰もいませんでした。

レオン・ヴィタリ:カットはトムとニコールにニューヨークで見せた一週間前に封印されていた。そして彼はそれが彼のファイナルカットだと言ったんだ。しかし彼はそれが危険な領域に踏み込むことだと知っていた。彼が亡くなっていてよかったよ。アメリカ映画協会のことに振り回されずに済んだんだから。本当に馬鹿げていた。だって同じアメリカ映画協会があのサウスパークの映画にOKを出したんだから!あの映画覚えてるかい? 卑猥で、ほのめかしていて、もしくは本物の性的用語にまみれた映画だよ。

パディー・イーソン:彼のカットは神聖なものだった。彼らは誰も1フレーム足りとも変えようとしなかった。「あのショットをカットしただろ!」とかなんとか言われるのが嫌だったのだと思う。ショットを見て、問題になりそうな攻撃的、侮辱的と思われるような性的シーンを取り上げてみて、それからどうやって観客を刺激しないようにするか考えて、カバーしただけだ。あとは黒いマントの男たちと女性たちのCGをあるフレームのエリアを隠すために付け加えた。何人かの人がネガティヴにそのことを指して、シーンのある人物に「あれはCGだ。すぐわかる。なぜこんなことをした?」というのは本当におかしかった。ある時など、間違った人物を指して言っていたから。つまりシーンの本物の人間に対してだった。ドラマティックに照明されていたから助けになりました。多くのキャラが棒立ちだったことも。それがシーンのスタイルだった。しかし全てのCGキャラは少し動いている。我々のアニメーターの一人、 サリー・ゴールドバーグは人間の棒立ちをアニメーション化する方法は、バランスを少し変えるのだと言っていたよ。

アビゲイル・グッド :プレミアはとても興味深かったです。撮影期間の長さが話題になりましたね。トムとニコールが出演していることも。「ハリウッドの2大スターが裸で歩き回っている!」と。そしてスタンリーの監督作だと言うことと、彼が死去してしまったことも。

レオン・ヴィタリ:私は何年もイルミナティのファンたちから電話をかけてこられたよ。いつもこう切り出してくる。「どこにそんな力があるんだ?どこに?イルミナティについての映画なんだろ?カトリック教会の隠蔽なんだろ、違うかい?」とね。そしたら私はこう返すんだ「ほう、なんでそう思うんだ?」って。それからはもう切るだけになったよ。どうやらロスには「アイズ・ワイド・シャット・クラブ」なるものがあるらしい。女性たちはマスクを付けて、男はイブニング・スーツでその女性を囲む。行ったことはないけどね。ハリウッド・ヒルズの上かその近くにあると聞いたな。そういえば撮影中に誰かが、たぶんトムだ、こう言った「本当にこんな場所があるのかな?」と。そしたらスタンリーがこう返したんだ「なければ、すぐにできるだろう」

(引用元:VULTURE:An Oral History of an Orgy Staging that scene from Eyes Wide Shut, Stanley Kubrick’s divisive final film./2019年6月27日




 前々回の記事「【考察・検証】『アイズ ワイド シャット』の儀式・乱交シーンについてのスタッフの証言集[その1]儀式シーンのリサーチについて」と前回の記事「[その2]さらに本物に近くなる乱交シーン」の続きで、今回が最終回です。乱交シーンの過激さはついに行き着くところまで行ってしまい、結局は行為そのものを見せるという結果に。もちろんマネだけですが、結合しているかのように見える腰の部分まで見せるという判断は、公開当時観ていた観客も驚いたはずです。

 脚本を共同で執筆したフレデリック・ラファエルによると、キューブリックは世界中のあらゆるポルノ産業のカタログにアクセスできるソフトを入手し、ごきげんだったとか。脚本は1994年末にスタートしたので、この頃はまだインターネットが一般化する前。撮影はそれから2年後の1996年11月から始まったので、この頃になるとインターネットが急速に普及し始めていました。ポルノ産業もそれに合わせて拡大・過激化の一途をたどっていたのをキューブリックは知っていたはず。であれば、生半可なシーンでは観客にショックを与えられない。だからこそのこの「過激化」ではないかと思います。

 ストーリー上では「マンディ=謎の女」ということに(一応)なっていますが、実際はマンディをジュリエンヌ・デイビス、謎の女をアビゲイル・グッドと別人が演じています。証言によるとそれはジュリエンヌ・デイビスが乱交シーンへの参加を拒否したためだということがわかりますが、スタントシーンなど、俳優が代役を使って撮影するということはよくあるので、この事実をして「マンディ≠謎の女」と(ストーリー上の)判断をするのは早計かと思います。原作でもそれは曖昧になっているし、キューブリックもやはり曖昧にしておきたかった(謎として残しておきたかった)のではないかと思います。

 その謎の女の声を吹き替えたのはあのオスカー女優、ケイト・ブランシェットだということを初めて知りました。アンクレジットでの参加だったので、今まで知られていませんでしたが、IMDbにはすでに掲載されていますね。

 レオンによると極秘試写でトムとニコールに見せたものが「ファイナルカットだ」と言ったそうですが、キューブリックは試写で観客の反応を見てカットすることが常なので、この「ファイナルカット」という言葉は「その時点で」という注釈が必要でしょう。もしキューブリックが存命だったら、『アイズ…』が今ある形と異なっていた可能性はかなり高いと思います。

 この証言集で多くの証言をしているのは振付師のヨランデ・スナイス、謎の女役のアビゲイル・グッド、サントラを担当したジョセリン・プークですが、やはり他作品のスタッフや俳優と同じ話をしています。すなわち「キューブリックにアイデアや意見をその場で求められた」ということです。キューブリックあらかじめ台本や絵コンテなどで台詞やシチュエーションを決めておいて、それをそのまま撮影するという手法は採りませんでした。「どうやって撮るかは難しくないけど、何を撮るかは難しい」「いかに撮影に値することを起こし得るかの挑戦だ」と常々語っていた通り、周りにいる俳優やスタッフの意見やアイデアによく耳を傾け、より良いシーンを貪欲に求め続けました。そうしてリハーサルを繰り返すことによりそのシーンを磨き上げ、「これがベストだ」と判断してやっとカメラを回すのです。

 キューブリックはたびたび「マエストロ(指揮者)」に例えられます。優秀な演奏者から素晴らしい演奏を引き出し、一つにまとめ上げるマエストロにです。最終的な決定権はマエストロにありますが、それをいかに充実させた演奏(映画)にするかは演奏者(俳優やスタッフ)次第です。キューブリックが優秀なスタッフばかり身の回りに置いたのも、また、初参加であってもその後優秀さが認められて活躍する人が多いのも、キューブリックの審美眼がいかにシビアで正確であったかを証明していると言えるでしょう(キューブリックに厳しい要求を突きつけられ、「できない」「無理だ」と応える俳優やスタッフに対して「できるかできないかなんて、やってみるまで君自身にもわからないじゃないか」と諭していた)。

 乱交シーンのデジタル修正については日本ではオリジナルで公開されたこともあり、あまり話題になりませんでしたが、公開当時、アメリカのファンの間でのブーイングはかなりのものがありました。どう修正されたかはこちらの記事でご確認ください(閲覧注意)。

 3回に渡ってお届けしました「【考察・検証】『アイズ ワイド シャット』の儀式・乱交シーンについてのスタッフの証言集」いかがでしたでしょうか。こうしてみると、結局は「映画」という「フィクション」の制作現場でしかなく、何か特別な思惑や陰謀が渦巻いていた訳ではないとこがよく理解できるかと思います。キューブリックの制作現場は独特だとよく言われますが、それでもやはり「映画制作」という現実の範疇でしかありません。「フリーメイソンやユダヤの陰謀」や「鬼畜キューブリックの超絶ブラック現場」という「おはなし」は人の耳目を集めるには手っ取り早い方法ですが、実際はこの証言の通りで、何か特別なことがあるとすれば「より良い映画を作ろう」という気概、モチベーションが他の現場よりかなり高かったというだけです。もちろんそれには多大なる苦労や犠牲が(本人、周囲の人間問わず)伴いますが、それはキューブリック作品がより長く語り継がれている要因であるし、私たちファンはそれを感謝しなければなない立場でしょう。それに俳優やスタッフたちにとっても、キューブリックの現場から得られるものは大きかったのではないでしょうか。

 キューブリック存命中は俳優やスタッフには守秘義務があったため、制作現場は謎に包まれていましたが、近年になってこのように知る機会が増えてきました。存命中の数少ない情報で「想像(予想)」されていた情報は、新しく知り得た「正しい」情報で上書きされなければなりません。それを怠っている「自称評論家・解説者」(誰とは言いませんが)が語るキューブリック像など価値はないし、聞く耳を持つべきではないでしょう。当ブログの読者の皆様には、賢明で聡明なご判断をお願いしたいと思っております。

翻訳協力:Shinさま

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会場のエジプシアン・シアター。赤いマントを着た人も。

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登壇したレオン・ヴィタリ。手にしているのは映写技師への指示書。

 私の後ろの席は全て埋まっていたので300人以上入っていたと思います。会場にはマスクとマントを着たファンが数人いました(笑。さらに劇場の係員もマスクをつけていて面白かったです。まず最初にレオン氏が登壇。約15分ほど『アイズ…』について話されました。写真で彼が持っている紙はA4ほどのサイズで、ページ全体に映写技師への彼の指示が書かれているとのことです。以下はレオンの発言で興味深かったところを抜粋したものです。

「ハーヴェイ・カイテルは最初の3シーンを撮影していたが、契約があったため、帰らないといけなくなった。それでシドニーを起用した。それが功を奏した。なぜなら、ハーヴェイはインチキ臭く、怪しい奴であるという雰囲気があるが、シドニーにはそれがない。どこにでもいそうな男だが、全てはバックグラウンドで起こっているから」

「私たちはこの撮影を〈ミッション・インポッシブル〉と呼んでいた(笑」

「シドニーがキューブリックの死後「あの撮影では学生映画の撮影ほどのクルーしかいなかったことは驚きに値する」と言っていた」

「私は赤マントの男だけでなく、豪邸にいるあらゆる人物を演じた。500人のマスクの人たちの中の一人、玄関でビルを迎える男、バルコニーにいる男、階上でおっぱい丸出しの女性と一緒にいる男。奇妙なことだった(笑。キューブリックに言われるがままだった。「レオン、マントをつけろ」と(笑」

「キューブリックはクリスマス映画は好きではなかった」

「(最後に)ところで、この映画は異端審問やどのカルト宗教とも関係がありません。本当に」

 最初の数分はかなりフィルムが傷ついていて、汚れて見えましたが、途中からそれもなくなりザラザラした質感とクリアな映像に圧倒されました。やはり大画面で見る35mmフィルムの映画は違いました。特に赤マントの男の儀式のシーンの迫力は凄かったです。大音量で響き渡る不気味な音楽と男の持つ杖が床を打つ音。それに合わせて男たちの元へと向かう女性たち。まるで異次元、ファンタジーの世界にいるような気分にさせてくれました。最近はPCの小さな画面で映画を見ることが多かったのですが、これには圧倒されました。やはりキューブリックはすごい。映画の力はすごい。そう思いました。

 もちろん儀式のシーンや乱交のシーンだけでなく、あらゆるシーンが息を飲む瞬間の連続でした。例えばジーグラーが「私もそこにいた」と衝撃の告白をするシーンは劇場中がハッと静まり返りました。ファンと一緒に見る『アイズ…』は楽しかったです。アメリカ人は反応が大きくて面白いです(うるさい時もありますが)。貸衣装店の男のシーンなどはみんな笑っていました。キューブリックの映画はどれも何回見ても面白いし、新しい発見があります。全てのキャラに裏があるんですね。大画面のおかげで海兵が妻と情事をする場面を想像するシーンでは、トムと共に自分までニコール・キッドマン演じる妻を寝取られた気分になり、苦悩しました(笑。豪邸に赴き手紙を受け取るシーンも最高です。ニック・ネイチンゲールは果たして妻子の元へ帰れたのか。それとも殺されたのか。とても心配になりました。トムを尾行する男も大画面で見ると怖かったです。映画の最後、エンドクレジットにレオン氏の名前が出たところで、私も含めてみんなが拍手喝采するという微笑ましい場面がありました。結論、やはりキューブリックは偉大です。キューブリック万歳。





 2019年12月21日(土)の午後7時30分から、ハリウッドのエジプシアン・シアターで開催された『アイズ ワイド シャット』公開20周年記念35mm上映イベントの素晴らしいレポートが、ロサンゼルス在住のShinさまより届きました。当日は特別ゲストとしてレオン・ヴィタリが登壇し、その様子もレポしていただきました。

 日本でフィルム上映できる施設はもうほとんど残っていないでしょうし、こういったイベントができるアメリカはやはり映画が生活に根ざしているんだな、と痛感させられます。レポートにはありませんが、今回の上映は乱交シーンを修正したバージョン(日本ではオリジナルバージョンが上映された)だったそうです。

 キューブリックが少数精鋭で映画制作をしていたことはよく知られていますが、逆に言えば細かく分業制が確立しているハリウッドが人が多すぎるのだと思います。レオンのような「何でも屋」なんてハリウッドでは考えられないでしょう。それはキューブリックの信任がいかに厚かったのかの証左でもあると思います。それに全身全霊で応えたレオンの姿はドキュメンタリー映画『キューブリックに魅せられた男』で描かれていた通りです。

 キューブリックはクリスマス映画は好きではなかったというのは、なんとなくわかるような気がします。常に普遍的なテーマを追求していたキューブリックがシーズンイベントを狙った映画なんて作ろうとは思わないでしょう。ですが『アイズ…』ではクリスマスシーズンが舞台に選ばれました。その理由は、夜のシーンが多くなるので自然光照明の光源としてクリスマスイルミネーションを使いたかった、クリスマスの妖しい雰囲気が作品の雰囲気とマッチしていた、パーティーが自然に行われている時期としてクリスマスシーズンが最適だった、などの理由があったと考えています。

 この作品をリアルタイムでご覧になった方はご存知だと思いますが、例のイルミナティやらフリーメイソンなどの「陰謀論」は上映時には全く話題になっていなかったのはご記憶だと思います。これらが話題になり始めたのは、2003年にフランスのTV局が制作したジョーク番組『オペレーション・ルーン』が話題になってからで、それに目をつけたプロデューサーが「これは金になる」と『Room 273』(これは『シャイニング』をダシに陰謀論で遊ぶホームページが元になっている。当時はDVDのリリース前だったので、『シャイニング』のビデオを逆再生すると謎のメッセージが聞こえてきた!などとやっていた)を制作、これも話題になり「次のドジョウはいないか?」と目をつけられたのが『アイズ…』という時系列です。レオンもいいかげん辟易としているんでしょう、毎回のようにこの「陰謀論の否定」をせざるを得ない状況のようです。

 まあそんな雑音はともかく、日本でもぜひこの35mmフィルムを輸入して上映イベントを開催してほしいものです。可能性としては国立映画アーカイブさんが一番高いですが・・・この企画、いかがでしょうか?

 最後になりましたが、Shinさん、素敵なレポートをありがとうございました!

写真提供・レポート:LA在住 Shin様

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映画で使用された仮面はベネチアで調達された。詳細はこの記事で。

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舞踏会や儀式のシーンが撮影された「エルベデン・ホール」

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乱交シーンは『ダウントン・アビー』で有名になったハイクレア城の応接室で撮影された。

マーティン・スコセッシが『ギャング・オブ・ニューヨーク』で使用したジョセリン・プークの『Dionysus』。

●さらに本物に近くなる乱交シーン

ヨランデ・スナイス (振付師):スタンリーの乱交シーンのビジョンは、後に本当の乱交シーンのようになっていったと思います。問題はそれをするために、さらに追加のお金を払わねばならないことと、何人かはそれをしたくなかったことです。

アビゲイル・グッド(謎の美女役):レオンはある時カーマ・スートラからの挿絵をたくさん持って来て、「スタンリー、この絵からインスピレーション得られるかい?」って聞いていたの。私たちは「こんなことのためにこの仕事を受けたわけじゃない」と思うようになっていました。でもその頃にはお互いのことをよく知ってたから、どんどん性的になっていくのも驚かなくなっていたわ。

ヨランデ・スナイス:スタンリーはイタリアの仮面のコレクションを持っていました。「コンメディア・デッラルテ」のマスクです。私を家に呼んで一番印象に残るものを選ばされました。共同作業だけど、 自分が乱交シーンをもっと明確にするのためのスタンリーの美術アシスタントになった感じがしました。数週後には儀式や仮面舞踏会、そして外套を脱ぐ儀式について話てくれました。 いろんな儀式の形態を試した。線、道、歩き、境界や祭壇への行列などなど。ある時点で、スタンリーは円がベストだということに気付きました。それが決まってからは彼とレオン、プロダクション・デザイナーと共に見合ったロケーションを探しました。最終的に巨大な会場を使うことになりました。

レオン・ヴィタリ (キューブリックのアシスタント):エルベデンはギネス家によって所有されていた家だった。マハラジャによって1800年代に建てられ、廊下には手彫りの大理石が使用されていた。建築した時は建築資材を運び込むのに線路を作った。戦争中は秘密の司令部として使われた。何とも奇抜な建物だった。別に使用した家はツタンカーメンの墓を発見した男が所有していた。大規模な美術館がその地下にあった。

トッド・フィールド (ニック・ナイチンゲール役):  仮面舞踏会のシーンはエルベデン・ホールで撮影された。最初に入った時、音楽用の機材以外は何もなかった。キーボードの前に座って『Backward Priests』を練習した。ある時点で音楽が止まったので立ち上がって見回したら、スタンリーが部屋の反対側に立って目隠しを持ち上げていた。そっちに言ったら彼は私の体を回転させ、私の頭に目隠しを付けて「これで準備完了だ」と言った。セットで私だけが 「アイズ・シャット」された人間だった。

ヨランデ・スナイス:モデルたちといろんなことを試しました。完璧な同調を得るためにヨガをして体を柔軟にしたりとか。大変でした。なぜならスタンリーがある種のバービー人形のようなタイプを求めていたからです。ある時はそれが悩みの種でした。私も女ですから、別の女性観を持っているからです。しかしそれがシーンの心理的な一部だったのです。アビゲイル・グッドという女性が最終的により大きな役に選ばれました。ダンサーとしての経験はなかったのですが、自然な動きを見せてくれました。

アビゲイル・グッド:スタンリーは私が『バリー・リンドン』のリンドン嬢を想い起こさせるとおっしゃってくださいました。彼女のように歩くようには言われませんでした。私はモデルで、キャットウォーク上を歩いたことは何度もありました。なのでヒールを履いて歩くことはお手の物でした。すいません、軽薄な女のように聞こえてしまいますね。「歩くのは得意なのよ!」って言ってるみたい。でも違うんです。強い女性を表現するためのある種の動きがあったのです。

ヨランデ・スナイス:男性のダンサーも何人かいて、エロティックなダンスを練習しました。その中の一人、 ラッセルは私のダンス会社の一員でした。円の中心にいる香炉を持ったマスターを演じました(赤い外套の男のこと)。その後のシーンはレオンが演じました。なぜなら観客が彼の顔を見ることはないからです。あのシーンのタイミングはラッセルによって計られました。なぜなら杖を持っていたからです。彼が杖で床を叩くと、それが合図になって女性たちが立ち上がるのです。スタンリーは香炉から煙が立ち上がるショットを独特な方法で撮りたかったのです。しかし煙のコントロールは不可能です。だからあのショットは何度も撮りました。正しいタイミングを得るまで何度も何度も。

ジュリエンヌ・デイビス(マンディ役):あのシーンのリハーサルは1ヶ月もかかりました。11.4センチものヒールを履いて跪き、立ち上がるの繰り返しでした。私は筋膜を怪我してしまいました。ロンドンに戻って、医者に「撮影を乗り切るために何でもしてください」と言いました。

アビゲイル・グッド:何時間も座ったきりでしたから、膝のためにスタッフが凍ったエンドウ豆を持ってきてくれました。

ラッセル・トリガー(ダンサー):トムが舞踏会に現れるシーンでのタイミングについて、スタンリーからとても詳細な演出指導を受けたのを覚えています。私がとても感激したのはどんな特殊なカメラアングル、ショットだとしても女性たちの作る円はショットに一番重要なものとして撮られていたことです。

ジュリエンヌ・デイビス:スタンリーは私に乱交シーンに加わるように言われました。でも多くのスタッフの前でそれをすることに自分が弱くなった気になり、不快な感じがしました。上品ぶっている訳ではありません。でも、それをする意味があまり感じられなかったのです。自分は仮面を被っているのですから。撮影が始まる数年前にロンドンの通りで性的暴行を受けたのです。だから誰かに何かされるというのは私にとって受け入れられないことでした。スタンリーに「やらないと言っている訳ではないのです。 〈できない〉のです」と伝えました。動揺していました。嘘ではありません。従うことができなかったのです。自分の意思を貫きとおしました。

ピート・カヴァシウティ(ステディカム オペレーター):スタンリーの正確さは私が一番覚えていることです。私のステディカムにはレーザーが3つ付いていて、地面を指していました。それらがラインアップした時には、グリップがレンズから下げ振り糸線を落とすんだ。そからレーザーを上げて、グリップをマークまで音声誘導してくれる。「マークまで2インチ、1インチ」って感じに。彼の正確無比さは並外れていた。おかげで20ショット以下撮れたら大成功なほどだった。身体的にも、知的にも多くを求められた。スタンリーは何度も私がマークに沿ってないと言うんだ。だから見下ろして、レーザーをチエックして「いやちゃんとマーク上だ、スタンリー」って伝えるんだ。一度などトム・クルーズが私に囁いて「ただカメラを動かせばいい、ピート」って言ってくれた。それはつまりスタンリーがカメラを別の場所に動かしたいっていうただの暗号だと気付いたんだ。

ヨランデ・スナイス:トム・クルーズはとてもチャーミングでした。撮影初日に彼は舞踏会に入るシーンを撮っていました。仮面をつけて立っていました。休憩時間になると彼はそのまま私のところに歩いてきて手を差し出して「どうも、トムです。お会いできて光栄です」と言いました。それから彼は私が制作したテレビ向け映画『Swinger』について話し始めたんです。小規模映画なのにありとあらゆる言葉で賞賛してくれました。私が返せた言葉は「あら、あなたの映画も好きよ、トム」だけでした(笑。

レオン・ヴィタリ :トムがあの映画に出ていた時、彼は1番の大スターだった。彼が出る映画一本で、前金2000〜2500万ドルのギャラをもらっていた。彼が『アイズ ワイド シャット』に出ている間、3本の映画に出られていただろう。「セットでトムと目が合ったら、君の人生はおしまいだ」なんて噂があった。でもそんなのは嘘だ。素晴らしい人だった。もちろんニコールも。

アビゲイル・グッド:ある日のことを覚えています。たくさんのスタッフ、エキストラ、人々がセットにいました。でも何も起きませんでした。私たちは「どうしたの?」と言い合ってました。スタンリーがライトが消えてることに気付いたのです。シーンの途中でです。誰かが「いや消えてないよ、スタンリー。誰も何も触ってない」と言いました。でも彼は「消えている。探せ。問題解決までは撮影しない」と答えたんです。彼は完璧主義者でした。おそらく人々を怒らせたこともあったでしょう。でも彼は人をイラつかせるけど、正しいことをする人だったんです。

ジョセリン・プーク(作曲家):乱交シーンではスタンリーは音楽的には漠然としていました。なぜならあまり様式化されていないものを狙っていたからです。彼は「本当にどういう音楽にすべきかわからないんだ。何か試して見てくれ、セクシーな音楽を」って(笑。それが私への指示でした!『Dionysus』という曲を作りました。映画には使われませんでしたが。最終的にマーティン・スコセッシ監督の『ギャング・オブ・ニューヨーク』に使われることになりました。スコセッシ監督が『アイズ...』に使われる予定だったと知っていたかはわかりません。使った曲は私のアルバムに収録されています。初期のレコーディングのボーカル・サンプルが使われています。ボーカリストはバガヴァッド・ギーターからの言葉をいくつか使って即興をしたのです。あるヒンドゥー教のコミュニティーの人々は何個かの単語にたまたま気付いたみたいです。それから話題になりました。最後にはキューブリック家がそれに不快感を覚え、映画をリコールし、曲を別のボーカルを使って再収録しないといけなくなりました。高い代償を払うハメになってしまったのです。

(引用元:VULTURE:An Oral History of an Orgy Staging that scene from Eyes Wide Shut, Stanley Kubrick’s divisive final film./2019年6月27日




 前回の記事「【考察・検証】『アイズ ワイド シャット』の儀式・乱交シーンについてのスタッフの証言集[その1]儀式シーンのリサーチについて」の続きです。キューブリックは乱交シーンは当初「芸術的でシュールリアリスティック」のものを想定していたようです。それはもちろんレイティングを考えてのことだったとは思いますが、「これじゃつまらん」と思ったのか、この証言集によるとどんどん過激な方向へ進んで行ったようです。

 その乱交が繰り広げられる場所ですが、キューブリックと共同で脚本を書いたフレデリック・ラファエルのアイデア「大きな図書室のようなところ」というのが採用されています。ロケ場所は記事にはありませんが、BBCのTVドラマ『ダウントン・アビー』で有名なったハイクレア城の応接室とその周りの部屋が使用されました。儀式のシーンは記事の通りエルベデン・ホールです。

 キューブリックはヌード女性が必要になった場合はモデルを使うのが常だったようです。『シャイニング』の237号室の女性を演じたリア・ベルダムもモデルでしたし、おそらく『時計じかけのオレンジ』でアレックスのルドビコ療法の効果を試す試験に登場したトップレスの女性もモデルでしょう。キューブリックがなぜモデルを重用したは証言がないので不明ですが、『ロリータ』でロリータの母親を演じたシェリー・ウィンタースが、ジェイムズ・メイソンとベットに入るシーンでガウンさえ脱ぐのを拒否したという苦い経験をしていたので、ヌードシーンにはヌードに慣れているモデルを使ったのではないでしょうか。もちろん一部ファンの間で囁かれている「おっぱいフェチ説」も有力だと思います(笑。大ぶりでも小ぶりでもなく、形がよくてツンと上を向いたおっぱいばっかり選んでいますからね。証言では「バービー人形のようなタイプを求めていた」とありますが、過去作でもまさにそんな女性ばかりです。

 マーティン・スコセッシが『ギャング・オブ・ニューヨーク』でジョセリン・プークの『Dionysus』を使おうとしてトラブルになったとは知りませんでした。それは『アイズ…』のために作られた曲だったため、ボーカルを差し替えることになりましたが、それまで映画音楽の経験がなかったプークを、キューブリックの大ファンであるスコセッシが知ったのは『アイズ…』であったことは確実でしょう。

 なお、原文の記事ではさらに「撮影しながら性行為の振り付けをする」「R指定騒動」と続きますが、これらについても今後記事にする予定です。お楽しみに。

翻訳協力:Shinさま

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EWS1「イルミナティ」「フリーメイソン」など何かと話題の的になる『アイズ ワイド シャット』の儀式シーン。

エロティックな表現の限界点を探るのに参考にしたイギリスのTVドラマ『レッド・シューズ・ダイアリー』のオープニング。

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参考にと推奨されたフェリシアン・ロップスの『Le Mannequin(ル・マネキン)』と題された作品。『アイズ…』の世界感に近い。

儀式シーンで使用されたジョセリン・プークの『Masked Ball - Backwards Priests』。

●儀式シーンのリサーチについて

ブライアン・クック(助監督):私はスタンリーによく言ったんだ。「エイドリアン・ラインかトニー・スコット監督を呼んでこのシーンを撮るべきだ。彼らなら撮り方を知ってるよ、スタンリー。でも君は違う!」ってね。それでよく笑いあったものさ。でもね、乱交シーンの撮影日は押しに押したんだ。スタンリーは全然撮ろうという意欲がなかったんだ。ここだけの話、彼の得意分野じゃなかった。複雑で、撮る場所を決めるのも難しかった。しかし、そのためにたくさんのリサーチをした。

アンソニー・フリューイン (キューブリックのアシスタント):G・レグマンという南フランスに住む友人がいた。彼は我々にシュニッツラーの頃のウィーンの秘密結社と性の慣行について多くの情報をくれた。秘密結社の儀式と黒ミサについてのイラストも送ってくれたね、主に19世紀のものを。沢山の儀式のイラストを集めた。現代のものから古代のものまで。レグマンはフェリシアン・ロップスというとても有名ないろんな種類の春画に長けたアーティストを推薦してくれた。

ブライアン・クック:ニコールが海兵といちゃつくシーンでは、焼き増しの写真を使って、彼女にシーンに何を望んでいるか聞いたんだ。「どういう風にしたい?」って。 彼女は(訳者注:写真を見ながら)「いいえ。絶対だめ。これなら。そう。ダメ。それならOK。」 て答えてくれた。

レオン・ヴィタリ (キューブリックのアシスタント):私たちは超えることのできない障害を探してたんだ。ソフトコア・ポルノや『レッド・シューズ・ダイアリー』を見た。どれだけのものを映画で見せられるかを知るためにね。そしてもちろん、シーンに喜んで出てくれる人を探さなきゃならなかった。全てのモデル事務所とダンス教室を当たったよ。問題は彼らが完全に自然でなければならなかったことだ。ボトックス(注射)、豊胸手術は絶対ダメ。これは全ての事務所に明確に伝えた。でも何回か事務所に豊胸手術を受けさせることに同意したこともあった。 ヨランデ・スナイスのダンス会社にも連絡をとった。彼らを何ヶ月も週に1、2回呼んでビデオに撮り、いろんなことを試した。

ヨランデ・スナイス (振付師):モデルたちと多くの時間をリハーサルで過ごしました。スタンリーはエロティックなヴィネットと状況を欲していました。彼が使った言葉は「超現実的」と「挑発的」です。でも「あからさま」は使いませんでした。秘密の大きな豪邸にいる秘密結社の男達とその娼婦たちのシーンだと説明してくれました。

アビゲイル・グッド(謎の美女役):セント・パンクラスにある今は美しいホテルになっている場所を使いました。 荘厳な建物で大きな階段がありました。現実とは思えませんでした。なぜなら奇妙な儀式の動きを何ヶ月もしたからです。 リハーサルのために集まって、アイデアを出し合いました。レオンがそれをビデオに録ってくれて、そのあとスタンリーがフィードバックをくれました。

ジュリエンヌ・デイビス(マンディ役):スタンリーは「こんなものにはならないから」と言って、「突く」ジェスチャーをしました。代わりに、ある種の性的なモダンダンスのようなものになると言っていました。(注:この約束は守られず、のちにより過激なものになった)

ラッセル・トリガー(ダンサー):ヨランデの練習は接触と即興によって成り立っていました。意図的な動きでした。彼女は感覚的なアプローチをしていました。ある時など、他の人と練習している時になど壁と一緒に動いたり、対になったりなどしないといけませんでした。ベッドやソファーを使ったシーンもありました。 プレッシャーと、身体に重なる身体の反発。身体に対するテーブル、壁、小道具などなどです。

ヨランデ・スナイス:スタンリーは自分が欲しいものを全てわかっていたとは確信が持てません。 リサーチ期間中、アイデアと格闘してそれを彼に提示し、彼がそれを見て、フィードバックをくれました。ジョセリン・プークは私の知っているコンポーザーで「Backwards Priests」という曲リハーサルに使いました。なぜならシーンに最適な気がしたから。スタンリーがリハーサルのテープを見てこう聞いたんです、「この音楽は何だ?」ってね。

ジョセリン・プーク(作曲家):スタンリーはこう言ったの。「君のアルバムからこの曲を聞いたことがある。もっと他のを聞かせてくれないか?」って。それから数時間後には車が来て私の作ったカセットを持って行ったのを覚えている。次の日にはその車が私を迎えに来たの。それでパインウッド・スタジオにいる彼に会った。聞いたばかりの曲に興奮していて、私に改良して欲しいセクションを教えてくれた。映画の音楽を担当したことがなかったから、とても緊張したわ。最初の頃は彼は舞踏会と乱交シーンの音楽を色々作って欲しいと頼まれた。それから映画の残りの音楽も全て作ってくれと頼まれたの。

レオン・ヴィタリ:とても時間がかかって、使っている場所の賃貸契約が切れたこともあった。女性達を繋ぎ止めるのに苦慮したこともあった。彼らにも他の仕事があったから。もっと多くの女性がいることに気付いて大変だったこともあった。スタンリーにはよくあることだ。

(引用元:VULTURE:An Oral History of an Orgy Staging that scene from Eyes Wide Shut, Stanley Kubrick’s divisive final film./2019年6月27日




 VULTURE誌が掲載した『アイズ ワイド シャット』のスッタフに行ったインタビューの「An Oral History of an Orgy Staging that scene from Eyes Wide Shut, Stanley Kubrick’s divisive final film.」の「Researching the Perverse」の部分を訳出したものです。元の記事はニューヨークマガジン2019年6月24日号に掲載されました。

 キューブリックは脚本制作の段階から「このシーンには苦労するぞ」と発言していて、やはりそれは予想通りだったようです。助監督のブライアン・クックが「エイドリアン・ラインかトニー・スコットを呼んだ方がいい」と助言したという話は面白いですね。助監督が監督に向かって、しかも世界的巨匠に向かってそんなことを言うなんて縦社会の日本じゃ考えられませんが、このことは、いかにキューブリック作品の制作現場が自由で平等な雰囲気にあったかということを示しています。キューブリックは相手が誰であれ、良いアイデアには貪欲でした。それはヨランデ・スナイスが「Backwards Priests」(この曲は「Masked Ball」として映画で使用された)をシーンに使うというアイデアに即反応したことでも伺えます。

 この証言集から読み取れるのは、キューブリックが「エロ表現の(レイティングにおける)限界」と「秘密結社のリアリティ」をどこに求めたら良いか?という点に苦労していたということです。前者はTVドラマ『レッド・シューズ・ダイアリー』を参考にしたという証言が、後者は画家のフェリシアン・ロップスの名前が挙がっています。フェリシアン・ロップスはフリーメイソンの一員だったそうなので、また陰謀論者が湧きそうですが、管理人がこの記事を書いた以前(2019年12月8日以前)にフェリシアン・ロップスを名前を挙げている陰謀論者は皆無です。ですので、もし今後フェリシアン・ロップスを論拠にしている陰謀論を見かけましたら「ああ、この記事をパクったのね」と思っていただければよいかと思います(笑。

 リハーサルにたっぷり時間をかけ、撮影時にもテイクを重ねながらアイデアを練り上げるキューブリックのやり方は、とても時間がかかり拘束時間も長くなりますが、それだけ俳優やスタッフにもやりがいがあった(ニコール・キッドマンのインタビュー参照)はずです。多くの関係者が証言している通り、キューブリック作品の制作現場は「創造性に満ちていた」のです。これについて出資者のワーナーはキューブリックを完全に信頼していて、制作期間も予算も全て一任していました。キューブリックは厳選した少数の優秀なスタッフしか身辺に置かなかったので「かかった時間の割には驚くほどお金はかからなかった」そうです。

 一般の映画制作では映画会社(日本ではメディア企業が共同で出資した製作委員会方式の場合も多い)の発言力が強く、いくら監督といえどもその意向は守らなければなりません。監督に求められるのは「スケジュールの遵守と予算内での制作」がまず第一です。映画の出来・不出来は「二の次」と言ってもいいでしょう。そしてそれは「言い訳しやすい環境」でもあります。評価が悪ければ監督は「予算がない」、脚本家は「キャスティングが悪い」、俳優やスタッフは「時間がない」と言えるからです。しかしキューブリックの場合は違います。映画制作における全ての権限はキューブリックが握っているので思い通り(と言ってもレイティングや俳優のスケジュールなど物理的な制限はある)の映画づくりができますが、その代わり出来上がった作品の評価も興行成績も全て自分が背負うことになります。この重責の中だからこそ、キューブリックは「細部までとことんこだわって」映画を作ったのです。

 こういった「キューブリック独自の映画制作の方法論とその制作環境」を知らずに、一般の映画監督と同じと思い込んでいる人ほど、「リテイクが多いのは監督が無能だから」とか「スケジュール管理ができていないなんて監督失格」とか、トンチンカンな批判をするのです。無知を晒け出しながら「批判ありきの批判」をするこういった方々に、いちいち説明する義務はこちらありませんので放置していますが、もしそういった方々を見かけましたら、生暖かくスルーすることを推奨いたします。

 なお、原文の記事ではさらに「さらに本物に近くなる乱交シーン」「撮影しながら性行為の振り付けをする」「R指定騒動」と続きますが、これらについても今後記事にする予定です。しかし、先にネタバレをしておきます。例の「イルミナティ」についてです。それは以下のレオン・ヴィタリの証言が全てです。

レオン・ヴィタリ:私は何年もイルミナティのファンたちから電話をかけてこられたよ。いつもこう切り出してくる。「どこにそんな力があるんだ?どこに?イルミナティについての映画なんだろ?カトリック教会の隠蔽なんだろ、違うかい?」とね。そしたら私はこう返すんだ「ほう、なんでそう思うんだ?」って。それからはもう切るだけになったよ。どうやらロスには「アイズ・ワイド・シャット・クラブ」なるものがあるらしい。女性たちはマスクを付けて、男はイブニング・スーツでその女性を囲む。行ったことはないけどね。ハリウッド・ヒルズの上かその近くにあると聞いたな。そういえば撮影中に誰かが、たぶんトムだ、こう言った「本当にこんな場所があるのかな?」と。そしたらスタンリーがこう返したんだ「なければ、すぐにできるだろう」

翻訳協力:Shinさま

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