アイズ ワイド シャット

    このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック


 この『ラブバード』は本来、アメリカで3月にパラマウント配給で公開される予定だったのですが、新型コロナの影響で権利をネットフィリックスに売却し、ネット配信となった作品です。監督はマイケル・ショウォルター、主演はクメイル・ナンジアニとイッサ・レイ。内容は予告編の通り、破局寸前の恋人二人が殺人事件に巻き込まれて、その冤罪を晴らすために悪戦苦闘するコメディで、その過程で「謎の組織」が登場し、リゲティが鳴り響くみたいです(笑。

 ネットフィリックスに加入している方はそのまま無料で観れますのでぜひどうぞ。番組ホームページはこちら
 

 


KUBRICK.Blog.jp おすすめ記事





    このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック


 大きな野心を抱くアムステルダムの医学生が受け取ったのは、謎に包まれた秘密組織への招待状。選ばれし者となるために、人は一体どこまで残酷になれるのか。

(引用元:ネットフィリックス『アレス』公式サイト




 「秘密組織の謎の儀式」というシチュエーションが『アイズ ワイド シャット』によって、「輪になって新参者を囲む」「2階のバルコニーからその儀式をメンバーが見下ろす」「マスクをかぶる」に固定されてしまった感があります。まあ、キューブリック作品ではよくあることで、「爆弾でロデオ」とか「地球の向こう側から太陽が昇る」とか「瞼を固定されて洗脳される」とか「廊下の突き当たりに双子」とか「新人を罵倒する指導者」とか枚挙にいとまがありません(笑。

 元ネタになった『アイズ…』の儀式・乱行シーンについては、スタッフの証言をまとめた記事を「【考察・検証】『アイズ ワイド シャット』の儀式・乱交シーンについてのスタッフの証言集」[その1][その2][その3]として邦訳しております。これを読めばキューブリックとスタッフ・役者が大変な苦労をしてこのシーンを作り上げたかがよく理解できます。ぜひご一読ください。

    このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
EWS1
画像引用:IMDb - Eyes Wide Shut

二度とセ○○スしたくなくなる映画5選

〈前略〉

『アイズ ワイド シャット』

 最後まで聞いてください。この映画は、神秘的で圧倒的な性の力と、それが私たちのすべてを推し進めることについてのものであるはずですが、どういうわけか性行為とセクシュアリティが少し誇張されているように見えます。ニコール・キッドマンのキャラクターは、休暇中に見た素敵な水兵に本当に欲情しましたか? そして、その告白に悩まされたトム・クルーズ演じるキャラクターは、本当に殺人的な性的イルミナティを嗅ぎ回る必要があったでしょうか? 時々、スタンリー・キューブリックのような芸術的な天才が、エロスにはそれだけの価値がないことを見せてくれます。

〈以下略〉

(全文はリンク先へ:The Cut/2020年2月5日




 バレンタインデー特集にこういう記事を載せるニューヨーク・マガジンもどうかと思いますが、そんな記事にちゃっかりとランクインしている『アイズ ワイド シャット』は流石というべきか、なんというか(笑。

 『アイズ…』は非常に曖昧な物語ですが、非常に明確な一言で終わるという、いかにも「キューブリックらしい意地悪な」作品です。キューブリックは愛だの恋だの、そんな人間の表面的な「情緒」を描くことにはあまり興味がなく、人間の本質を鋭く突く描き方を好む映画監督です。それはこの『アイズ…』でも同じで、明るい未来と夫婦の絆の再確認を予感させる原作のラストシーンを改変し、シニカルで意味深な終わり方をさせています。

 ですので、この「二度とセ○○スしたくなくなる」(伏せ字はお察しください。笑)映画という意味においては、「そんな情緒的な気分をぶっ飛ばす何か」がある作品ばかりが選ばれているわけですが、要するに「バレンタインデー(海外では単に「愛の日」という扱い)にカップルで観るにはおすすめできない」ということです。その名誉に預かった(笑)5作品とは以下の通りです。

第1位:『ミッドサマー』
第2位:『ザ・ルーム』
第3位:『アイズ ワイド シャット』
第4位:『ウォッチメン』
第5位:『ローズマリーの赤ちゃん』

 ちなみに第5位に選ばれている『ローズマリーの赤ちゃん』は、キューブリックのお気に入りの作品の一つでした。ただ、キューブリックは鑑賞する側であれば、情緒的でない作品ばかりでなく、情緒的な作品も好んでいます。つまり「観るのは嫌いじゃないけど、自分で作りたいとは思わない」ということだと思いますが、世間一般にありがちな「作った作品=その人の人格」という誤解(というか決めつけ)に悩まされたのはキューブリックも同じですね(『時計…』での脅迫事件などはその最たる例)。まあ、そんなことは自分自身が「創作者(たとえどんなレベルであっても)」になってみれば単なる誤解だと即、理解できることなんですが、創作経験のない人ほど「決めつけ」の傾向があると思うのは、私だけではないと思います。

    このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
MW
トム・クルーズの窮地を救った謎の美女。演じたのはアビゲイル・グッドというモデルの女性で、声はケイト・ブランシェットが担当した。

photo_cate_blanchett
謎の美女の声を担当したケイト・ブランシェット。キャステングはキューブリックの逝去後だったため、レオン・ヴィタリが行った。

ews_og
アメリカではR指定を得るためにデジタル修正された乱交シーン。日本ではオリジナルのままで公開された。

撮影しながら性行為の振り付けをする

レオン・ヴィタリ (キューブリックのアシスタント): 乱交シーンでスタンリーはあることをしたかった。『時計じかけのオレンジ』へのオマージュのようなことをだ。男が手と膝をついて、女が男の背中にいて、後ろからさらに別の男にファックされているというものだ。撮影中に振り付けした。スタンリーが突然思いついたからだ。簡単なものではなかった。誰もポルノ俳優じゃない。彼らはモデルとダンサーだ。そして根性があった。

ジュリエンヌ・デイビス(マンディ役): スタッフが来てこう言ったんです。「計画の変更があった」って。これからはTバックを身に付けないこと、そして男たちは股間の上のカップを除いて完全に裸になること。私ともう一人の女性は参加しないことにしました。他の女の人たちに「もしこれをやるなら、完全に話は違ってくるわよ。私があなたならギャラの増額を要求するわ」と言いました。

アビゲイル・グッド(謎の美女役):スタッフはこう言うだけです。「そう。腰をかがめて。あれみたいに。そこに寝て。そうあれみたいに。」って。仮面を付けてるから誰にも自分のことはわからないし、匿名性は保たれ、友達家族に言わなければ、誰にも自分がしたことはバレないけど、簡単なことではなかったわね。

ヨランデ・スナイス (振付師):乱交シーンの振り付けを始めた時には、会社の仕事もあったの。最初はそこまで振り付けが必要とは思わなかったけど、それは間違いだった。シーンを見てみたら、スタジオでのリハーサルがシーンの撮影に影響されていることがわかりました。カウチ、ベッド、アームチェアー、私たちが家具の周りでした2、3、4人組の振り付けの全てがそこにありました。エロチックだけれど、本物の性交は行われていません。

レオン・ヴィタリ:冒涜的であり優美なことだと思う。テーブルの上で優美なポーズをする、そして同時に不快なことも起こっているという。スタンリーは限界まで行きたかったんだ。もちろん上品さと猥褻についてとなると多くの限界があったけど。

アビゲイル・グッド :全ての女性たちが去った後も、2人の素晴らしいアーティストと働くことができました。トムとスタンリーです。素晴らしい仕事ぶりでした。スタンリーは私に何度も意見を聞いてくれました。私とトムは彼が撮った中で最後の人々の一員でした。吹き替えが行われる前に亡くなってしまいました。映画が公開される前、いつも誰が私の吹き替えをしたのか不思議に思っていました。だって私はアメリカのアクセントがありませんから。

レオン・ヴィタリ:ケイト・ブランシェットだよ! あれは彼女の声だ。温かみがあって、官能的で、同時に儀式の一部にもなれる声を探していたんだ。スタンリーはそういう声と質を探すように言っていた。彼が亡くなってから、私がその人物を探すために動いたんだ。実はケイトを起用するアイデアを思いついたのはトムとニコールなんだ。その時ちょうど彼女はイギリスにいたので、パインウッド・スタジオまで来てもらい、セリフを録音したんだ。

R指定騒動

パディー・イーソン (デジタル合成監督):キューブリックの死からすぐ、私のプロデューサー レイチェル・ペンフォールドと私はキューブリック邸に呼ばれ、映画を完成させるための陣容が変わったと伝えられました。多くの問題を抱えていたのです。彼が亡くなった時、カットは封印されていました。彼は実地の編集者でした。でも彼とワーナーとの契約でR指定の映画を出すことが決められていました。スタンリーにどうやってR指定ではない乱交シーンをR指定にするのかという話をした人は誰もいませんでした。

レオン・ヴィタリ:カットはトムとニコールにニューヨークで見せた一週間前に封印されていた。そして彼はそれが彼のファイナルカットだと言ったんだ。しかし彼はそれが危険な領域に踏み込むことだと知っていた。彼が亡くなっていてよかったよ。アメリカ映画協会のことに振り回されずに済んだんだから。本当に馬鹿げていた。だって同じアメリカ映画協会があのサウスパークの映画にOKを出したんだから!あの映画覚えてるかい? 卑猥で、ほのめかしていて、もしくは本物の性的用語にまみれた映画だよ。

パディー・イーソン:彼のカットは神聖なものだった。彼らは誰も1フレーム足りとも変えようとしなかった。「あのショットをカットしただろ!」とかなんとか言われるのが嫌だったのだと思う。ショットを見て、問題になりそうな攻撃的、侮辱的と思われるような性的シーンを取り上げてみて、それからどうやって観客を刺激しないようにするか考えて、カバーしただけだ。あとは黒いマントの男たちと女性たちのCGをあるフレームのエリアを隠すために付け加えた。何人かの人がネガティヴにそのことを指して、シーンのある人物に「あれはCGだ。すぐわかる。なぜこんなことをした?」というのは本当におかしかった。ある時など、間違った人物を指して言っていたから。つまりシーンの本物の人間に対してだった。ドラマティックに照明されていたから助けになりました。多くのキャラが棒立ちだったことも。それがシーンのスタイルだった。しかし全てのCGキャラは少し動いている。我々のアニメーターの一人、 サリー・ゴールドバーグは人間の棒立ちをアニメーション化する方法は、バランスを少し変えるのだと言っていたよ。

アビゲイル・グッド :プレミアはとても興味深かったです。撮影期間の長さが話題になりましたね。トムとニコールが出演していることも。「ハリウッドの2大スターが裸で歩き回っている!」と。そしてスタンリーの監督作だと言うことと、彼が死去してしまったことも。

レオン・ヴィタリ:私は何年もイルミナティのファンたちから電話をかけてこられたよ。いつもこう切り出してくる。「どこにそんな力があるんだ?どこに?イルミナティについての映画なんだろ?カトリック教会の隠蔽なんだろ、違うかい?」とね。そしたら私はこう返すんだ「ほう、なんでそう思うんだ?」って。それからはもう切るだけになったよ。どうやらロスには「アイズ・ワイド・シャット・クラブ」なるものがあるらしい。女性たちはマスクを付けて、男はイブニング・スーツでその女性を囲む。行ったことはないけどね。ハリウッド・ヒルズの上かその近くにあると聞いたな。そういえば撮影中に誰かが、たぶんトムだ、こう言った「本当にこんな場所があるのかな?」と。そしたらスタンリーがこう返したんだ「なければ、すぐにできるだろう」

(引用元:VULTURE:An Oral History of an Orgy Staging that scene from Eyes Wide Shut, Stanley Kubrick’s divisive final film./2019年6月27日




 前々回の記事「【考察・検証】『アイズ ワイド シャット』の儀式・乱交シーンについてのスタッフの証言集[その1]儀式シーンのリサーチについて」と前回の記事「[その2]さらに本物に近くなる乱交シーン」の続きで、今回が最終回です。乱交シーンの過激さはついに行き着くところまで行ってしまい、結局は行為そのものを見せるという結果に。もちろんマネだけですが、結合しているかのように見える腰の部分まで見せるという判断は、公開当時観ていた観客も驚いたはずです。

 脚本を共同で執筆したフレデリック・ラファエルによると、キューブリックは世界中のあらゆるポルノ産業のカタログにアクセスできるソフトを入手し、ごきげんだったとか。脚本は1994年末にスタートしたので、この頃はまだインターネットが一般化する前。撮影はそれから2年後の1996年11月から始まったので、この頃になるとインターネットが急速に普及し始めていました。ポルノ産業もそれに合わせて拡大・過激化の一途をたどっていたのをキューブリックは知っていたはず。であれば、生半可なシーンでは観客にショックを与えられない。だからこそのこの「過激化」ではないかと思います。

 ストーリー上では「マンディ=謎の女」ということに(一応)なっていますが、実際はマンディをジュリエンヌ・デイビス、謎の女をアビゲイル・グッドと別人が演じています。証言によるとそれはジュリエンヌ・デイビスが乱交シーンへの参加を拒否したためだということがわかりますが、スタントシーンなど、俳優が代役を使って撮影するということはよくあるので、この事実をして「マンディ≠謎の女」と(ストーリー上の)判断をするのは早計かと思います。原作でもそれは曖昧になっているし、キューブリックもやはり曖昧にしておきたかった(謎として残しておきたかった)のではないかと思います。

 その謎の女の声を吹き替えたのはあのオスカー女優、ケイト・ブランシェットだということを初めて知りました。アンクレジットでの参加だったので、今まで知られていませんでしたが、IMDbにはすでに掲載されていますね。

 レオンによると極秘試写でトムとニコールに見せたものが「ファイナルカットだ」と言ったそうですが、キューブリックは試写で観客の反応を見てカットすることが常なので、この「ファイナルカット」という言葉は「その時点で」という注釈が必要でしょう。もしキューブリックが存命だったら、『アイズ…』が今ある形と異なっていた可能性はかなり高いと思います。

 この証言集で多くの証言をしているのは振付師のヨランデ・スナイス、謎の女役のアビゲイル・グッド、サントラを担当したジョセリン・プークですが、やはり他作品のスタッフや俳優と同じ話をしています。すなわち「キューブリックにアイデアや意見をその場で求められた」ということです。キューブリックあらかじめ台本や絵コンテなどで台詞やシチュエーションを決めておいて、それをそのまま撮影するという手法は採りませんでした。「どうやって撮るかは難しくないけど、何を撮るかは難しい」「いかに撮影に値することを起こし得るかの挑戦だ」と常々語っていた通り、周りにいる俳優やスタッフの意見やアイデアによく耳を傾け、より良いシーンを貪欲に求め続けました。そうしてリハーサルを繰り返すことによりそのシーンを磨き上げ、「これがベストだ」と判断してやっとカメラを回すのです。

 キューブリックはたびたび「マエストロ(指揮者)」に例えられます。優秀な演奏者から素晴らしい演奏を引き出し、一つにまとめ上げるマエストロにです。最終的な決定権はマエストロにありますが、それをいかに充実させた演奏(映画)にするかは演奏者(俳優やスタッフ)次第です。キューブリックが優秀なスタッフばかり身の回りに置いたのも、また、初参加であってもその後優秀さが認められて活躍する人が多いのも、キューブリックの審美眼がいかにシビアで正確であったかを証明していると言えるでしょう(キューブリックに厳しい要求を突きつけられ、「できない」「無理だ」と応える俳優やスタッフに対して「できるかできないかなんて、やってみるまで君自身にもわからないじゃないか」と諭していた)。

 乱交シーンのデジタル修正については日本ではオリジナルで公開されたこともあり、あまり話題になりませんでしたが、公開当時、アメリカのファンの間でのブーイングはかなりのものがありました。どう修正されたかはこちらの記事でご確認ください(閲覧注意)。

 3回に渡ってお届けしました「【考察・検証】『アイズ ワイド シャット』の儀式・乱交シーンについてのスタッフの証言集」いかがでしたでしょうか。こうしてみると、結局は「映画」という「フィクション」の制作現場でしかなく、何か特別な思惑や陰謀が渦巻いていた訳ではないとこがよく理解できるかと思います。キューブリックの制作現場は独特だとよく言われますが、それでもやはり「映画制作」という現実の範疇でしかありません。「フリーメイソンやユダヤの陰謀」や「鬼畜キューブリックの超絶ブラック現場」という「おはなし」は人の耳目を集めるには手っ取り早い方法ですが、実際はこの証言の通りで、何か特別なことがあるとすれば「より良い映画を作ろう」という気概、モチベーションが他の現場よりかなり高かったというだけです。もちろんそれには多大なる苦労や犠牲が(本人、周囲の人間問わず)伴いますが、それはキューブリック作品がより長く語り継がれている要因であるし、私たちファンはそれを感謝しなければなない立場でしょう。それに俳優やスタッフたちにとっても、キューブリックの現場から得られるものは大きかったのではないでしょうか。

 キューブリック存命中は俳優やスタッフには守秘義務があったため、制作現場は謎に包まれていましたが、近年になってこのように知る機会が増えてきました。存命中の数少ない情報で「想像(予想)」されていた情報は、新しく知り得た「正しい」情報で上書きされなければなりません。それを怠っている「自称評論家・解説者」(誰とは言いませんが)が語るキューブリック像など価値はないし、聞く耳を持つべきではないでしょう。当ブログの読者の皆様には、賢明で聡明なご判断をお願いしたいと思っております。

翻訳協力:Shinさま

    このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
IMG_0586
会場のエジプシアン・シアター。赤いマントを着た人も。

FullSizeRender
登壇したレオン・ヴィタリ。手にしているのは映写技師への指示書。

 私の後ろの席は全て埋まっていたので300人以上入っていたと思います。会場にはマスクとマントを着たファンが数人いました(笑。さらに劇場の係員もマスクをつけていて面白かったです。まず最初にレオン氏が登壇。約15分ほど『アイズ…』について話されました。写真で彼が持っている紙はA4ほどのサイズで、ページ全体に映写技師への彼の指示が書かれているとのことです。以下はレオンの発言で興味深かったところを抜粋したものです。

「ハーヴェイ・カイテルは最初の3シーンを撮影していたが、契約があったため、帰らないといけなくなった。それでシドニーを起用した。それが功を奏した。なぜなら、ハーヴェイはインチキ臭く、怪しい奴であるという雰囲気があるが、シドニーにはそれがない。どこにでもいそうな男だが、全てはバックグラウンドで起こっているから」

「私たちはこの撮影を〈ミッション・インポッシブル〉と呼んでいた(笑」

「シドニーがキューブリックの死後「あの撮影では学生映画の撮影ほどのクルーしかいなかったことは驚きに値する」と言っていた」

「私は赤マントの男だけでなく、豪邸にいるあらゆる人物を演じた。500人のマスクの人たちの中の一人、玄関でビルを迎える男、バルコニーにいる男、階上でおっぱい丸出しの女性と一緒にいる男。奇妙なことだった(笑。キューブリックに言われるがままだった。「レオン、マントをつけろ」と(笑」

「キューブリックはクリスマス映画は好きではなかった」

「(最後に)ところで、この映画は異端審問やどのカルト宗教とも関係がありません。本当に」

 最初の数分はかなりフィルムが傷ついていて、汚れて見えましたが、途中からそれもなくなりザラザラした質感とクリアな映像に圧倒されました。やはり大画面で見る35mmフィルムの映画は違いました。特に赤マントの男の儀式のシーンの迫力は凄かったです。大音量で響き渡る不気味な音楽と男の持つ杖が床を打つ音。それに合わせて男たちの元へと向かう女性たち。まるで異次元、ファンタジーの世界にいるような気分にさせてくれました。最近はPCの小さな画面で映画を見ることが多かったのですが、これには圧倒されました。やはりキューブリックはすごい。映画の力はすごい。そう思いました。

 もちろん儀式のシーンや乱交のシーンだけでなく、あらゆるシーンが息を飲む瞬間の連続でした。例えばジーグラーが「私もそこにいた」と衝撃の告白をするシーンは劇場中がハッと静まり返りました。ファンと一緒に見る『アイズ…』は楽しかったです。アメリカ人は反応が大きくて面白いです(うるさい時もありますが)。貸衣装店の男のシーンなどはみんな笑っていました。キューブリックの映画はどれも何回見ても面白いし、新しい発見があります。全てのキャラに裏があるんですね。大画面のおかげで海兵が妻と情事をする場面を想像するシーンでは、トムと共に自分までニコール・キッドマン演じる妻を寝取られた気分になり、苦悩しました(笑。豪邸に赴き手紙を受け取るシーンも最高です。ニック・ネイチンゲールは果たして妻子の元へ帰れたのか。それとも殺されたのか。とても心配になりました。トムを尾行する男も大画面で見ると怖かったです。映画の最後、エンドクレジットにレオン氏の名前が出たところで、私も含めてみんなが拍手喝采するという微笑ましい場面がありました。結論、やはりキューブリックは偉大です。キューブリック万歳。





 2019年12月21日(土)の午後7時30分から、ハリウッドのエジプシアン・シアターで開催された『アイズ ワイド シャット』公開20周年記念35mm上映イベントの素晴らしいレポートが、ロサンゼルス在住のShinさまより届きました。当日は特別ゲストとしてレオン・ヴィタリが登壇し、その様子もレポしていただきました。

 日本でフィルム上映できる施設はもうほとんど残っていないでしょうし、こういったイベントができるアメリカはやはり映画が生活に根ざしているんだな、と痛感させられます。レポートにはありませんが、今回の上映は乱交シーンを修正したバージョン(日本ではオリジナルバージョンが上映された)だったそうです。

 キューブリックが少数精鋭で映画制作をしていたことはよく知られていますが、逆に言えば細かく分業制が確立しているハリウッドが人が多すぎるのだと思います。レオンのような「何でも屋」なんてハリウッドでは考えられないでしょう。それはキューブリックの信任がいかに厚かったのかの証左でもあると思います。それに全身全霊で応えたレオンの姿はドキュメンタリー映画『キューブリックに魅せられた男』で描かれていた通りです。

 キューブリックはクリスマス映画は好きではなかったというのは、なんとなくわかるような気がします。常に普遍的なテーマを追求していたキューブリックがシーズンイベントを狙った映画なんて作ろうとは思わないでしょう。ですが『アイズ…』ではクリスマスシーズンが舞台に選ばれました。その理由は、夜のシーンが多くなるので自然光照明の光源としてクリスマスイルミネーションを使いたかった、クリスマスの妖しい雰囲気が作品の雰囲気とマッチしていた、パーティーが自然に行われている時期としてクリスマスシーズンが最適だった、などの理由があったと考えています。

 この作品をリアルタイムでご覧になった方はご存知だと思いますが、例のイルミナティやらフリーメイソンなどの「陰謀論」は上映時には全く話題になっていなかったのはご記憶だと思います。これらが話題になり始めたのは、2003年にフランスのTV局が制作したジョーク番組『オペレーション・ルーン』が話題になってからで、それに目をつけたプロデューサーが「これは金になる」と『Room 273』(これは『シャイニング』をダシに陰謀論で遊ぶホームページが元になっている。当時はDVDのリリース前だったので、『シャイニング』のビデオを逆再生すると謎のメッセージが聞こえてきた!などとやっていた)を制作、これも話題になり「次のドジョウはいないか?」と目をつけられたのが『アイズ…』という時系列です。レオンもいいかげん辟易としているんでしょう、毎回のようにこの「陰謀論の否定」をせざるを得ない状況のようです。

 まあそんな雑音はともかく、日本でもぜひこの35mmフィルムを輸入して上映イベントを開催してほしいものです。可能性としては国立映画アーカイブさんが一番高いですが・・・この企画、いかがでしょうか?

 最後になりましたが、Shinさん、素敵なレポートをありがとうございました!

写真提供・レポート:LA在住 Shin様

このページのトップヘ