キューブリックと一緒に仕事ができなかったことを非常に後悔しています。作曲を依頼され、承諾したのですが、彼の律儀さゆえに、ちょうど私が作曲した音楽をミックス中のセルジオ・レオーネ監督に電話をかけてしまったのです。私はもうその仕事を終えていたのですが、レオーネはキューブリックに、私はまだ作曲中だと伝えてしまいました。それでキューブリックはもう頼んできませんでした。このことで『時計じかけのオレンジ』の音楽を作曲することができませんでした。とても残念です。キューブリックはその後二度と連絡してくれなかったのです。



 先日逝去の報が伝えられた、映画音楽の世界で多大な足跡を残したエンニオ・モリコーネですが、キューブリックは『時計じかけのオレンジ』の音楽をモリコーネに依頼していたそうです。ですが、キューブリックが律儀にもセルジオ・レオーネに電話(おそらく「今度モリコーネと一緒に仕事することになったので彼を借りるよ」的な挨拶の電話)したところ、レオーネ監督は「モリコーネはまだ私と仕事中」と応えてしまい、それからモリコーネにキューブリックからの連絡は途絶えてしまったのだそう。

 どうしてレオーネは終わったはずの仕事(『夕陽のギャングたち』の音楽)なのに「まだ私と仕事中」と応えてしまったのでしょう? 理由は「キューブリックにモリコーネを取られるのが嫌だった」「モリコーネは終わったと思っていたが、レオーネは曲のリテイクを考えていた」などいくつか考えられますが、理由はどうであれ、この件でキューブリックがモリコーネに不信感を抱き、連絡を絶ったのだと思います。キューブリックは片手間で自分の作品の仕事をしてもらうのを嫌います。オファーを受諾したからには自作に全力投球をして欲しがるのです。ですので、レオーネの仕事をしながら自作の仕事をしてもらうことを許容できなかったのですが、モリコーネはこの件を非常に悔いているようです。レオーネにしてみれば「やれやれ」だったのかもしれませんが。

 そのレオーネとキューブリックの間にはこんな会話もあったそう。

キューブリックが私に言った。「私はエンニオ・モリコーネのアルバムをすべて持っている。 どうして私はあなたの映画音楽が好きなのか、私に説明してもらえないか?」私は「心配しないで!私は『2001年…』を見るまでリヒャルト・シュトラウスを使うなんて考えつかなかったから」と答えました。(引用:【関連記事】スタンリー・キューブリックが好んだ映画のマスター・リスト(2016年7月25日改訂版)

このコメント、『時計じかけのオレンジ』でのモリコーネの奪い合いが影響しているのだとしたら、レオーネの若干皮肉めいた言い方も腑に落ちますね。

 その両巨匠に愛されたエンニオ・モリコーネは2020年7月6日に逝去しました。享年91歳。故人のご冥福をお祈りいたします。

情報提供・翻訳協力:Shinさま