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「午前十時の映画祭」も今回で最終回。違う形でもよいので、ぜひ復活してほしいですね。

 2019年10月5日、TOHOシネマズ日本橋にて「午前十時の映画祭10 - FINAL」で上映された『時計じかけのオレンジ』を鑑賞してきました。

 まずアスペクト比ですが、キューブリックの意図通りのヨーロッパビスタ(1.66)でした。次に上映品質ですが、2015年に上映された『ムービーマスターズ』のバージョンより画質・音質ともに向上していたと思います。リマスタリングの一定の効果はあったと感じました。なぜ「一定の」という表現なのかと言いますと、やはり公開が1971年ということを考えると、限界があるからに他なりません。

 この時代、カラーフィルムがやっと一般化した頃で、カラーの35mmフィルムの画質はまだまだ悪かった時代です。キューブリックもフィルム品質の安定には苦労していたという話も伝わっています。それが安定するのは『シャイニング』の頃、という話もあります。ソースであるマスターネガの画質が悪ければ(キューブリックはその悪条件下でも最大限努力したとは思いますが)、いくら解像度を上げたところでどうしようもありません。『時計…』のDVDからBDへの移行の際、「思ったほど画質が向上していない」という評があるのも、ソースであるマスターの画質の問題があるのではないかと考えます。そうなると、画質の向上は解像度よりもマスタリング技術に大きく依存するということになり、今後その技術の向上がより重要になってくるでしょう。

 同時にそれはサウンドトラックにも言えると思います。この時代はやっと商用ドルビーが実用化した頃。録音はもちろんテープです。リマスタリングによって音質は向上していた様に思いましたが、現在のサラウンドのデジタル音源で音圧爆上げの映画に慣れていると迫力不足は否めません。そもそも音源自体に音圧が足りていないと思います。それでもラストの第九など、サントラのみならある程度音圧を上げられますが、サントラにセリフが重なっているとそれも難しいと思われます。そういった厳しい条件下で、かなり頑張ってリマスタリングしていたのではないかと感じました(「音圧」と「音量」は異なります。端的に言えば音圧とは「音の密度」です。どん!と来る感じ、と言えばわかりやすでしょう)。

 『時計…』に限りませんが、デジタル以前の古い映画をシネコンなどでデジタル上映する際、こういった「画質・音圧問題」はどうしても避けて通れません。ましてや観客は現在のデジタル上映を当たり前と考える世代です。画質が悪い、音が小さいという批判は理解できるのですが、技術的な問題もあることを理解して欲しいです。もちろんマスタリング技術の向上には期待を寄せています。過去のフィルム映画が現在のデジタル映画と同等ではなくても、近い水準で楽しめるのなら、わざわざお金を払ってでも映画館に足を運ぶ大きな動機になり得ます。今後の技術革新に期待したいところです。

 ちなみに「午前十時の映画祭」も第1回から第3回までフィルム上映でした。シネコンのデジタル上映が一般化したのはそんな昔の話ではなく、ほんの6、7年前です。久しぶりに映画館で映画を観た方はフィルム上映だと勘違いされているかもしれませんが、現在どの映画館もほぼデジタル化されています。それを嘆いたところで「スマホの時代に黒電話の必要性を説く」くらい時代錯誤な話で(古いフィルムを大切に保管する必要性はまた別の話)、いまさら時計の針を元には戻せません。であれば、現在のデジタル環境にふさわしいフィルム映画の高品質デジタル化を推進すべきです。なぜならそれはキューブリック作品を含めた「過去の偉大な映画を未来へ継承するため」の根幹をなす問題だからです。今回『時計じかけのオレンジ』上映に足を運んだ、デジタル上映に慣れた若い世代を失望させないためにも、業界全体で力を入れてフィルム映画の高品質デジタル化技術向上に努めてほしいですね。