DRSTRANGE_LIPPER

 以前ご紹介した、エリシャ・クックのインタビュー記事

「(ヘインドンは)昔落下傘兵をしていたんだ、知ってたかい? オリジナルのエンディングでは彼はFBIに蜂の巣にされて倒れて死ぬ予定だったんだ。だが彼は落下傘兵の仕事で背中を痛めていたからできなかった。だからエンディングを変えたんだ。」

とあり、気になって調べたのですが、このスターリング・ヘインドンという俳優はものすごい経歴の持ち主でした。IMDbによると、

 (ヘインドンは)ハリウッドを辞めてCOI(情報調整局、後のOSS:アメリカ戦略情報局)のコマンダーになった。「ジョン・ハミルトン」という名前で海兵隊に加わり、アドリア海のドイツ封鎖を超えて銃と物資をユーゴスラビアのパルチザンに送り、ゲリラ活動のためにクロアチアにパラシュートで降りた。

とあります。

 戦後にその活躍からユーゴのチトー大統領から勲章を贈られるのですが、当時のユーゴは共産党政権だったため、ヘインドンはハリウッドの赤狩りのターゲットにされてしまいます。それについては日本語版wiki

 戦後、マッカーシズムが台頭して下院非米活動委員会が結成され、ハリウッドにおける共産主義者のリストアップを開始すると、大戦中にユーゴスラビアのチトーなど共産主義者たちと交流を持っていたヘイドンにも追及の手が伸びる。ヨットを購入した借金の返済をするために映画界への復帰を願っていたヘイドンは、追及をのがれるために協力的密告者として証言台に立ち、そのことが後の彼の人生に暗い影を落すことになる。

 これだけの情報だけでヘイドンの思想を云々するのはどうかとは思いますが、アメリカ戦略情報局に志願していることから愛国者であったろうことは想像に難くありません。ですが第二次世界大戦中は米ソは連合国として手を組んでいました。つまりアメリカのために働くことは、ソ連のために働くことでもあったのです。結果、ユーゴの共産党政権と繋がりができてしまい、そのことで赤狩りのターゲットにされ、ハリウッドに復帰をしたいがために「(共産党に参加したことは)私が今までの人生の中で行った、最も愚かで最も無知なこと」と証言、それが「裏切り」(「ハリウッド・テン」が密かに賞賛され、裏切り者は忌避されるのが当時のハリウッドの空気だった)と取られてしまいました。

 ヘイドンはこの行動を後悔し、その後は委員会への協力を拒否したそうですが(キューブリックが『現金に体を張れ』でヘイドンの名前を出した時、ユナイトの上司の微妙な反応はこの件が影響していたのかも知れない)、好むと好まざるかに関わらず、マッカーシズムの嵐に巻き込まれてしまったことが、『博士の異常な愛情』のリッパー将軍のセリフ「(水に)フッソを入れるのは、共産主義者が考え出した最も悪質な謀略だ!」での迫真の演技に繋がったのかも知れませんね。