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試写会用に配布されたリーフレット。公開時にはもっとしっかりとしたパンフレットを用意するそうです。

 キューブリックの運転手兼パーソナルアシスタントだったエミリオ・ダレッサンドロが、キューブリックのプライベートでの姿を語るドキュメンタリー『'S' is for Stanley』と、キューブリックの制作アシスタントだったレオン・ヴィタリが自身の仕事ぶりを語ったドキュメンタリー『FilmWorker』がそれぞれ『キューブリックに愛された男』『キューブリックに魅せられた男』と改題し、2019年11月1日(金)ヒューマントラスト有楽町を皮切りに全国順次カップリング上映が決定いたしました。その試写会に招待され、一足早く鑑賞することができましたのでレポートいたします。

 まず『キューブリックに愛された男』ですが、エミリオ・ダレッサンドロがキューブリックとの日々を回顧したしたドキュメンタリーです。以前この記事でご紹介し、日本公開を切望していましたが、やっと鑑賞することができました。その内容はキューブリックがエミリオを厚く信頼しつつも、その反面圧倒的支配力で全てをコントロールしようとしている実像が、時折ユーモアを交えつつ語られていました。エミリオは映画制作に関わることはほとんどなく、キューブリックの運転手として、また雑用係として主にプライベートを支えていましたが、その「エミリオしか知らない」キューブリックの実像を示すエピソードの数々は非常に興味深かったです。温厚そうなエミリオでさえも辟易し、消耗させたキューブリックの事細かな指示(主にメモによるもの)には驚くばかりですが、それでもキューブリックを献身的に支えたその姿は感動的ですらありました。キューブリックもエミリオへの感謝は隠そうともせず、二人のイギリスに住む外国人(キューブリックはアメリカ人、エミリオはイタリア人)が当地で結んだ友情物語は、かくも厳しくも美しいものだったのかと思わされました。

 ただ、権利関係からかキューブリック作品やその他の映像の引用は一切ありませんので、それは同時期にキューブリックを仕事の面で支えた『キューブリックに魅せられた男』で補完することになります。以前の記事で「ドキュメンタリー映画として公開しても(専門的すぎるので)集客は望めない」と書きましたが、この2本のドキュメンタリーをカップリングにしたのは、ライトなキューブリックファンにとっては親切な公開方法で、好判断だと言えると思います。

 次に、当ブログでもたびたび登場するキューブリックの制作アシスタント、レオン・ヴィタリのドキュメンタリー『キューブリックに魅せられた男』ですが、これはエミリオとは比べ物にならないほど、キューブリックに「絶対的献身」を求められ、それに「絶対服従」した一人の男の物語です。その激烈な日々はインタビューなどで度々語られてきましたが、こうしてドキュメンタリーとして一編の映像として観せられると、その強烈さは想像以上でした。また、DVDやBDの特典映像や付属ドキュメンタリーでも観たことがない秘蔵映像が各所に散りばめられ(例えばハートマン軍曹にキャスティングされていたティム・コルチェリのオーディション映像)、ファンやマニアならかなり満足できる内容です。その反面、老人のように枯れ果ててしまったレオンの姿はかなり痛々しく(最近は健康を取り戻しているようです)、観ていて辛い気持ちにもなりました。しかし、そんなことに構うことなくキューブリックに捧げた半生に「(後悔など)もちろん全くない」と言い切るレオンの青い目に、「やりきった」という充足感を見た思いでした。

 『バリー・リンドン』のBD化の際に問題になった1.77のアスペクト比については、この時点ではその正当性を主張していますが(このせいでレオンは世界中のファンやマニアから批判を浴びた)、現在はキューブリックが指示した通りの1.66でクライテリオンがBD化しましたので、もう水に流して良いかと思います。それよりも『シャイニング』の陰謀論を一蹴する姿はとてもカッコよく、力強かったです。以前この記事で「レオンを日本に招聘して欲しい」と書きましたが、このドキュメンタリーを観てますますその思いを強くしました(過去に『アイズ ワイド シャット』のアフレコ監修で来日している)。関係者様にはその実現を強く希望したいと思います。

 最後に注意事項ですが、『キューブリックに愛された男』は2015年、『キューブリックに魅せられた男』は2017年に制作され、エンドクレジットに故人になった出演者への追悼メッセージを加えたものです。ですので、その時点でのドキュメンタリーであることは留意しておくべきでしょう。エミリオの倉庫に眠っていたキューブリック作品関係の資料は昨年オークションに出されました。また、レオンは『シャイニング』の4K化には参加したものの、『2001年…』の8K化には不参加です。それに現在世界を巡回中の『スタンリー・キューブリック展』にレオンは直接関わってはいません。その理由は色々と想像できますが、それはこのドキュメンタリーで言外に語られていますので、ぜひ劇場でご確認ください。

 キューブリックファンには見逃せないドキュメンタリー2作品ですが、DVDやBDボックスの特典映像としてワーナーがオフィシャルにリリースしているドキュメンタリー『ア・ライフ・イン・ピクチャーズ』と『キューブリック・リメンバード(キューブリックの素顔)』を観ておくと、それらよりさらに突っ込んだ内容なので楽しめます。逆にキューブリックの代表作を観ただけという、とってもライトなファンでは、もしかしたらついていけない部分もあるかもしれません。存分に楽しみたいのなら前述2作のドキュメンタリーを鑑賞しておくことをおすすめいたします。

 公式サイトはこちら。オリジナル予告編は以下の通りです。日本版の予告編が公開になりましたらまた記事にします。