アイズ ワイド シャット [Blu-ray]


 米人気俳優トム・クルーズ(54)と元妻の女優ニコール・キッドマン(49)が映画で共演し、なんとベッドシーンを演じる企画が持ち上がっている。英紙デーリー・メール(電子版)が報じた。

〈以下略〉

(全文はリンク先へ:東スポWeb/2017年6月18日



 なんだか1999年の『アイズ…』公開当時の扇情報道を彷彿とさせるニュースですね。当時は夫婦だった「クルーズとキッドマンの濃密なベッドシーンがある!」とか「クルーズが女装姿になる!」とかセンセーショナルに報道され、トム・クルーズ人気もあってかキューブリック作品中最高の興行収入を挙げるのですが、評判は「期待はずれ」「ぜんぜんエロくない」「映像は美しいが意味不明」という散々なもの。キッドマンの最後の重要な台詞「ファック」の意味を「セックス」としか理解できず(これは字幕で「セックス」と訳した偉大なる誤訳字幕翻訳家、戸田奈津子女史の多大なる負の功績でもあるのですが)、トンチンカンな論評が「識者」によって一般に流布されてしまった影響も否定できません(現在のDVDやBDは「ファック」と修正されています)。

 キューブリックはセンセーショナリズムしか扱わないイエロー・ジャーナリズムを逆手にとって、それに盲目的に追従する大衆を痛烈に皮肉ってみせた(・・・という解釈もできるという理解でお願いします)のですが、あれから18年も経とうというのに「大衆」というのはちっとも進歩がないですね。ソースもデイリーですし、イエロージャーナリズムの権化たる東スポがこのような配信記事を採り上げるというのも相変わらずです。

 キューブリックがそのジャーナリズムの世界の出身(グラフ誌「ルック」社のカメラマンだった)という事実は、「ジャーナリズムの正体を知るもの」としてキューブリック作品の節々に反映されていると思うのですが、この論点からの批評はあまり聞かれないようです。『2001年…』の箝口令とHALの暴走のくだり、『時計…』での政府や反権力者のマスコミの利用っぷり、『フルメタル…』での軍の情報統制やプロパガンダ、そしてこの『アイズ…』での扇情的な報道(を予測したストーリーテリング)の逆利用。これらはキューブリックのマスコミ不信のなせる技です。自身のプライベートを面白おかしくデマを撒き散らすマスコミに沈黙を貫き通したのも、マスコミの手の内を知るものとして「その手に乗るか」という意思表示でしょう。

 それらに加え、キューブリック作品はそこに描かれた事象を客観的に、冷徹に観察する「ジャーナリスティックな視点」を感じることができます。過去にそれを「「フィクション」を「ドキュメント」するカメラマンの眼」という記事にまとめたのですが、ホームページ時代の1998年に書かれたこの大昔の記事(紋切り型口調が気恥ずかしいですが)を、今頃になってふと思い出してしまいましたね。