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※まるでダッチワイフのようなボンデージ家具を抱えるとアレン・ジョーンズ。

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※物議を醸したジョーンズのボンデージ家具(1969)。

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※キューブリックに依頼され試作したボンデージ衣装。

 『時計…』の裸婦のテーブルや自動ミルク販売機のデザインのアイデアは、60年代にポップ・アートの旗手として、あのアンディ・ウォホールと並び称されたアレン・ジョーンズの一連の半裸のボンデージ家具からインスパイアされたものです。少し前ですが、その家具がサザビーズで3点セット3億2000万円で落札された事がニュースになっていました。

 キューブリックはこのボンデージ家具が気に入り、映画での使用をオファーしたそうですが、両者の折り合いがつかずこの話は流れ、結局『2001年…』でスター・チャイルドを製作したリズ・ムーアに製作を依頼、映画で使用されました。

 ネット上では、ジョーンズ側が断ったという話と、キューブリック側が断ったという話が入り乱れていますが、実際はジョーンズは一旦オファーを引き受けたようで、上記のような試作までしています。でも凝り性のキューブリックの事、あれこれ注文を付け、それに嫌気がさしたジョーンズが断ったのでは、と考えています。

 ジョーンズのボンデージ家具はマネキンのようで、実際の女性に近い印象です。この事からフェミニスト団体から嵐のような抗議をうけたそうですが、キューブリックは無用なトラブルには巻き込まれたくなかったので、より抽象的な、裸婦像のような形への変更を考えたのではないでしょうか。しかし、自分の作品を曲げたくなかったジョーンズがそれを断ったため、仕方なくムーアに製作を依頼。その際、ジョーンズからマネされたとクレームが付くのを恐れ、ジョーンズが四つん這いポーズにしたものを、キューブリックはブリッジポーズにし、さらにギリシャの彫像のように色を白に変え、全裸にしたんだと推察しています。そう考えるとあの不自然なポーズも納得いきますので。

 それに試作を見ても分かるように、当初は人間のウェイトレスに衣装を着せて登場させようと考えていた事も伺えます。しかし実際にこういったSM的な衣装を女性が着ると、各方面からの抗議が予想されますので、裸婦像の自動販売機にするという案に落ち着いたのではないでしょうか。その衣装の名残が入口付近に仁王立ちしているボディーガードの衣装なのかも知れません。

 『アイズ…』の脚本家であるフレデリック・ラファエルはこの事をあまり好ましく思っていなかったようで、自著『アイズ・ワイド・オープン』には「あのセットがこの作品をある一時代に結びつけてしまった」と批判的です。しかしこの60年代ポップカルチャーが一種異様な盛り上がりと突出した個性を放っていいたお陰で、現在では逆に時代を超えた普遍性を獲得するに至りました。それは『時計…』が未だ衰えぬ人気を誇っている事実、それにこのジョーンズの作品が高額で落札された事実が如実に物語っています。