キューブリックの三女、ビビアン・キューブリックが父親から贈られたカメラで撮影した、『シャイニング』製作の裏側。イギリスのTVシリーズ「アリーナ」の一編として、1980年に放映された。一時はレア・アイテムとして入手・鑑賞は困難だったが、現在はDVDやBDの特典映像として容易に観る事ができる。

 あまり舞台裏を明かさないキューブリックが、身内だからこそ許せたであろう、『シャイニング』のメイキング・フィルム。ジャック・ニコルソンやダニー・ロイド、スキャットマン・クローザースのインタビューや、撮影現場の裏舞台、演出や撮影に細かく指示を出すキューブリックの姿など、貴重な映像は多々あるが、特にウェンディ役のシェリー・デュバルをとことん追い込んで行く演技指導は圧巻だ。手慣れた役者らしい演技を嫌うキューブリックにとって、シェリーの演技はわざとらしくとしか映らなかったのだろうが、この徹底ぶりには少々驚かされる。揚げ句、プレッシャーに堪えかねたシェリーは、撮影中に倒れてしまうのだから、実際はもっとすごかっただろうと容易に想像できる。

 それでも殊勝にインタビューに応えるシェリーに、痛々しさを感じずにはいられないが、彼女はキューブリックの求める理想の役者像とは違うと思われるので、仕方ないことかも知れない。キューブリックは、自分で自分を追い込める役者(ピーター・セラーズ、マルコム・マクドウェル、ジャック・ニコルソン等)には、比較的自由に演技をやらせているが、それが出来ない役者には、徹底して高圧的になっているようだ。だが、そのことで誰もキューブリックを責めることは出来ないだろう。何故なら、この撮影現場で一番強大なプレッシャーを受けているのは他ならぬキューブリック自身だからだ。

 ハリウッドから絶対的な映画制作の自由を得ているということは、とりもなおさず興行成績や批評など、全ての責任は自分にある、という事だ。それをものともせず、堂々と、圧倒的な支配力で細部に渡り現場をコントロールしていくキューブリック。こうしてその現場での姿を映像で見てしまうと、その無頓着な服装や髪型も相まって、「巨匠」と呼ぶより、強烈な個性と強固な意志を持った「芸術家」と呼ぶほうがふさわしいのかも知れない。