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夢奇譚 (文春文庫)(amazon)


 初めてこの小説を読んだとき、あまりも映画のストーリーそのままなのにまず驚かされた。キューブリックはなんと、ストーリーラインを変えることなくほとんどそのままを映画に取り込んだのだ。だからと言って映画は、この小説の舞台と設定を、単に19世紀末のウィーンから、20世紀末のニューヨークに移し替えただけの代物、と言い切ってよいのだろうか?

 小説は、表面的な幸福の中に潜むどす黒い欲望と裏切りが、夢や現実の形となって現われる不可思議な妄想の世界を描いたものだ。主に夫婦間や男女間の問題を扱っており(現に脚本を担当したフレデリック・ラファエルは、映画版のタイトルを『女性の問題(The Female Subject)』にしよう、とキューブリックに持ちかけている)、未婚者や若年層にはピンとこない物語かもしれない。また、不倫願望や不逞、スワッピングや乱交など、この時代ならともかく現代人には全くショックを感じない。

 ところが映画はそういう表面的なモチーフは継承しつつもっと解釈を広げ、現代人にとって最も妄想を描きやすい「映画」という媒体を中心に、ありとあらゆるメディアを使って壮大な「夢の世界」を現出させよう、という大胆なものだった。その夢の世界へ、年齢、性別を問わず、あらゆる世代を呼び込みために、謎の物語を用意したり、セクシャルなトレイラーを流し続けたり、意味深なポスターで見るものを誘おうとしたのだ。

 ただ、メディアに踊らされるままに映画館に「2時間の夢物語」を堪能しに出向いた観客に、小説とも、当初の脚本とも違うラストシーンを用意したキューブリック。そこには激しい憤りと深い失意。そして決別の意志が込められている。
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恐怖と欲望 HDマスター [DVD](amazon)


 キューブリックの自主製作映画第1弾。また、記念すべき映画監督デビュー作。だが、残念なことにキューブリック自身が、この作品を「不器用で思い上がっている」として忌み嫌い、封印してしまったため、現在では見ることができない。だが、どういうわけかネガが流出してしまい、1991年のにはコロラド映画祭で、1994年にはニューヨークのフィルム・フォーラムで上映されてしまう。それに対してキューブリックは「訴訟も辞さない」と強硬な態度を取っている。

 だが、資料を読み解く限り、キューブリックがそこまで忌み嫌う程の愚作とは思えない。ストーリーは、架空の国の戦争が舞台で、山中に不時着した小隊が、敵の前線をいかだを使って突破する途中、敵のアジトを発見し、それを襲撃するというもので、印象的なダイアローグと詩的な映像で、極限状況における人間の精神状態と自己のとの対峙(敵と味方が同一の役者で演じられている)といったテーマが語られているという。

 製作資金は裕福な叔父のパーヴィラーに借り、スタッフは、ニューヨークのビレッジで知りあった仲間を総動員し、カリフォルニアのサン・ガブリエル山脈でロケが行われた。そのスタッフの中には、当時のキューブリックの妻、トーバも台詞監督として参加している。また、キューブリックは当時、アフレコの技術に疎く、撮影よりもアフレコに多くの費用と時間を費やしてしまったというエピソードが、いかにもカメラマン出身のキューブリックらしい。

 当然、未見なので、あまり多くは語れないが、その後のキューブリックが一番多く扱ったジャンル(戦争物)でもあるし、ファンなら当然気になる作品だ。是非再上映、それが無理ならビデオソフトリリースでも構わないので。ワーナーや、キューブリック・プロの方には、是非検討していただきたい。
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 『2001年…』に登場し、余りにも魅力的なキャラであったためか、あっちこっちで引用、ネタ、パロディにされた、恐らく世界で一番有名なコンピュータ。

 HALとは、Heuristically programmed ALgorithmic computer (学習能力をプログラムされたコンピュータ)の略称。しかし、一般にはこの映画の協力企業である、IBMのアルファベットを一文字分だけ前にずらしたもの、 との説が知られている。 クラークは「偶然」を力説するが、当時IBMが映画に全面協力していたのだから、この一致に気付かない訳がない。秘密主義で内容は全く知らせられないまま協力させられられた揚げ句、いざ蓋をあけてみれば自社のロゴを付けたコンピュータが人間と敵対するお話だったなんて事じゃ、IBMもたまったもんじゃない(実際に当時は社員に『2001年…』を見ないようにとのお達しがあったようだ)。そんなIBMの怒りの火消しにやっきになったクラーク先生、というのが実際だったのだろう。

 尚、HALの声は当初ナレーターとして予定されていたダグラス・レインが担当した。
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Ken Adam (IMDb)
ケン・アダム(MOVIE FAN)

 『博士の…』の最高作戦室など、印象的なセットを生み出したイギリス人のプロダクション・デザイナー。キューブリック作品では他に、『バリー…』にも参加しているが、この時は『博士の…』以上にキューブリックからの強いプレッシャーに悩まされ続け、片時も精神安定剤を手放せなかったらしい。

 主な参加作品は『007ドクター・ノォ』('62)、『007ゴールドフィンガー』('64)、『007はニ度死ぬ』('67)、『シャーロック・ホームズの素敵な冒険』('76)、『アダムスファミリー2』('93)、『英国万歳』('94)など。2003年にはエリザベス女王から爵位を授かり、サー・ケン・アダムとなった。

 1921年2月5日ドイツ・ベルリン出身、2016年3月10日死去、享年95歳。
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スパルタカス スペシャル・エディション [DVD](amazon)


 キューブリックは本作品を全くコントロール出来なかったため、ハリウッドからの逃亡を決意させたという、いかにもアメリカ的な「自由万歳&ラブ・ロマンス」映画。

 他のキューブリック作品に慣れてしまっている眼には、「本当にキューブリック?」と疑いたくなるような、おめでたいシーンの連続に辟易してしまう。とにかく、カーク・ダグラスの聖人君子的な演技や、ご都合主義のストーリー展開、出来過ぎた人格の奴隷たちや、お決まりのラブロマンスなど、所詮三文芝居の映像版でしかなく、腹が立つのを通り過ぎてあきれ返ってしまうたけ。

 キューブリックは脚本の改訂を求めて、かなり激しくカーク・ダグラスや脚本のドクトル・トランボとやりあったという。だが、赤狩りでハリウッド追放中のトランボの描く「理想的な平等社会と、それを目指す英雄像」と、キューブリックが指向する「暴力と欲望が人間性の本質であり、生きる力」とでは合い入れる筈もなく、結局若いキューブリックが折れてしまう。この時のシコリが元で、ダグラスは自伝でキューブリックの事を「才能あるクソッタレ」と評する事になるのだが、キューブリックもキューブリックで、「この程度の仕事なら、やっつけの片手間でもやってみせる」と言わんばかりに、仕事をサボってスタッフと野球ばかりしていたという話もある。

 この映画、 2時間半もの長編だが、『ベン・ハー』や、『クレオパトラ』が流行していた当時らしいスペクタクル感覚に溢れ、現在では完全に古びてしまっている。それを割り引いてもたいして良い作品とは思えず、こんな映画がアカデミー賞を受賞してしまうのだから、「さすがアメリカ」と皮肉のひとつも言いたくなってしまう。

 若干30歳のキューブリックにとっては、初の大作カラー作品なので、ここでの経験は後の傑作を産み出すのに、大いに役に立ったと想像できる。もっと重要なのは、この大作を興行的な成功に導いた事によって、ハリウッドからの更なる信頼を得、「有望な新人監督」から、「偉大なフイルムメーカー」としての礎を築き、資金をハリウッドに依存しつつも、自由に映画を創れる環境を手に入れた、ということではないだろうか。
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